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3.11 運動会の雑用も楽では無い

昼休憩は10分とあと少し。中澤達が談笑を続ける中俺は散歩がてら懐かしい校庭を少し歩くことにした。


まだ高2でしかないため、卒業してから約4年。さほど風景は代わり映えしていない。


半分地中に埋まった謎のタイヤや錆びだらけの鉄棒など活発だった小学生時代を想起させるものがいくつも残っていた。


グランド脇に設置された古びたベンチに腰を下ろす。澄んだ空気を大きく吸い込むと今朝からの疲れがどっと溢れ出てきた。目を閉じればすぐにでも意識が飛んでしまいそうなので、ぐりぐりと目頭を押し込み耐える。


「あ!借り人の時の人だ!」


「ん?借り人……」


反射的に声の方を見るとそこには4人の小学生グループが立っていた。そしてその中心にはお題を間違えて俺をゴールまで連れていったあの明るい男の子だ。


「あーあの時の……」


俺を知らない残り3人は互いに顔を見合せ首をかしげ、一言「先に行ってる」と声を掛けて自分達の席の方へ戻っていった。


「こんなところで何してんの?」


「何って……ただ座って休んでただけだよ」


「おっさんじゃん!」


「うるせぇ!」


にかにかと笑いながら手に持ったグミを口に入れ落ち着きのない動き。まさに小学生!といった感じだ。


「……てか、お前は戻んなくていいのか?」


「戻るよ……じゃあさ、おっさんって名前何?」


じゃあの意味が分からん。そんなことどうでもいいか。


「柳橋克実。あと俺はおっさんじゃねぇ、ピチピチの高校生だ」


「ピチピチではないでしょダラダラって感じ」


シシシと笑い、グミをもう1つ口の中へ放り込む。てかこいつはなんなんだ?突然来ておっさんだのからかうわ名前聞いてくるわ……やっぱナチュラルボーン陽キャはよく分からん。


「お前は?」


「……?何が?」


「名前だよ。人に聞いたならお前も名乗れよ」


「フフン!嫌だね。あ、俺もう行かないとだ!じゃね、おっさん!」


名前聞いておいて結局おっさんかよ。なんだったんだ本当に……。駆け足で戻っていくその少年の背を見送りつつ、俺もポケットから取り出したスマホを確認。足早にテントへと向かった。



***



後半戦一発目は応援合戦。赤組白組で交互に応援をぶつけ合い、それを審査員が評価をすると言うものだ。よって俺達には関係がない。


昼食を摂ったテントは使用できないため、朝の木陰へと戻る日陰はだいぶ無くなっていたため、やや肌寒くすら感じた朝より心地よい。今目を閉じたらすぅっとそのまま寝入ってしまいそうだ。大声の応援さえ聞こえなければ。


「克実さんって小学生の時どんな感じでしたか?」


ふと、トトロ並みに安心感のある隣の剛田が目線だけを向けて話しかけてきた。


「別にフツーだったと思うけど」


「いやいや、普通じゃない克実さんの普通って一般的に見たら普通じゃないじゃないですか」


なんかバカにしたように笑われた。しかし、自分で使っておいて俺も普通って言葉の意味がよく分からなくなってきた。


「普段は仲の良い奴と遊んでイベントごとではそれなりに騒いでるどこにでもいるクソガキだったような気がするな」


「今と結構違うんですね。学校ちゃんと楽しんでたのなんか意外です」


まるで今は全く楽しんでないみたいな言い方だな。今もそれなりに月一くらいで楽しい時はあるぞ。例えば……田辺先生がドスベりした時とか。


「何年も前の話だしな、そりゃ人格も変わるだろ」


友人、立場、目標などその時々の環境で表面的な性格やイメージが変わってしまうのは何ら可笑しいことではない。クラス替えというたったそれだけの出来事でまるで人が変わったように大人しくなる奴とか今まで何人も見てきたし。


俺の頭にそれらの具体例達を思い出しては見たが名前までは出てこなかった。すると、その思索を意外な人物に停止させられた。


「それって……いつくらいから……?」


笠原だ。不意打ちの質問に応対が遅れる。


「……?何の話だ?」


問われるような発言してたか?ぼんやりしたまま剛田とテキトーに話していただけなので脳内に内容はほとんど残ってない。それより笠原はいつから会話に参加してたんだよ。


「あー!ハハハハ……、いやー、その……人格が変わったーみたいな話してたからいつ頃から変わったのかなーとか思って……」


いつから……そうだな、俺には明確な転機がある。それもこれも全て俺の勘違いから始まった空回りのような、まぁ若気の至りとかとも言えない程度の小さな出来事。


「確か……中学入ってからだな」


「そ、そうなんだ……」


ふーんと聞き流すような返事だけが返ってくる。男子が中学から大人しくなるとかそこそこ一般的ではあるし珍しくもないか。


「え、じゃあ中学からはずっと今みたいな感じってことっすか?」


「まあ大きく変わってはないな」


変わったとすれば鈴が俺に対して当たりが強くなった。そして俺のファミリーカーストがダントツ最底辺へと押し下げられたことくらい。俺ってより家族の変化だな。


「そろそろみたいだよ」


少し離れた位置で休んでいた中澤が優しく声を掛けた。


俺は立ち上がりながらプログラムへ目を通す。どうやら次は高学年種目……。


「二人三脚リレー……これってなんか準備する必要あんのか?」


「準備と言うよりは手伝いだね。ほら、これって子供と保護者で一組になる競技らしいから保護者がこれなかったり怪我して走れなかったりする子供の保護者役になるんだよ。出たくないって人もいるみたいだしさ」


「楽しそうですね!」


鈴は目を輝かせウキウキした様子でストレッチをしている。そこまでガチにならんでも……。それに、


「お前は無理だろ」


真横にいる大男もなんだかウキウキしていたので釘を刺しておいた方が良いだろう。


「え、俺っすか!?何でですか?」


「お前どうやって歩幅合わせんだよ。子供引きずってく気か」


「そこは上手くやりますよ……え?マジで俺出れないんですか?」


中澤や笠原も目を合わせ苦笑い。


どうやら相当楽しみにしていたようで剛田はガクりと肩を落とした。


「じゃあ行こうか」


意外にも容赦ない中澤は分かりやすく落ち込んで見せる剛田を無視し整列を始める児童の下へ向かって行く。うん、ドンマイ剛田。変われるなら俺が変わってやりたいくらいだが。



集合場所ワイワイガヤガヤと元からうるさい子供達にその保護者が加わりより一層うるささが増している。


保護者の場合は親、祖父母、兄弟など誰でも良いらしく、幅広い年齢層が溢れている。そして保護者が誰もこれない子供は男子なら男性、女子なら女性の臨時パートナーが必要となるという。


「男子の方は3人と聞いているんだけど……」


中澤は名簿の挟まったバインダーを片手にぐるりと辺りを背伸びで見渡す。すると、大人しそうな小柄な子供が上目使いで此方へ歩いてきた。


「君は……」


少年の顔を見た後自分の手元に視線を戻す。そしてまた向き直ると、


「あ、佐藤くんだよね……じゃあ俺と組もうか。絶対勝とうね!」


お決まりの爽やかスマイル炸裂ー!こうして少年Aは中澤の手に落ちたのでした、めでたしめでたし。


中澤は俺にバインダーを手渡し、残りの子は宜しくと告げ颯爽と消えてしまった。


まったく、ガキの気持ちを汲めるなら陰キャの性質も理解してくれよ。お前のスマイルの横で俺はコミュ症炸裂してんだってことくらいな。


それにしても、こんな群衆からたった2人を探し出すなんて俺に出来るわけねぇだろ。てか一人分足りないし。


まあそんなことも言ってられない程に整列してきてしまったので俺は取り敢えずバインダーへ目を落とした。──が、


「ん……?」


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