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十一話 圧迫面接と尋問に違いはない。もちろん反論は認める

自民党総裁選が終わったので初投稿です

インドネシア(正確にはインドネシア共和国)は、東南アジアの南部に位置しており、約一三〇〇〇を超える島嶼に約三億人もの人口を抱える、世界最大の群島国家である。


天然ガスや石油の他に豊富な鉱業資源を抱えており、日本とも盛んに貿易を行っている国でもある。


一時期『ダンジョンから得られる資源で回せるのでは?』などと考えた政治家や企業のお偉いさんが貿易協定に口を挟もうとして国際問題になりかけたらしいのだが、それなりにまともな企業のお偉いさんたちが『ダンジョン資源だけでは国を回すことができない』という現実を突きつけたおかげで本格的な衝突は避けられたものの、未だにその時に行われた交渉の火種が燻っているとか燻っていないとか。


そういった物騒な噂がありながらも、表面上は留学生を迎える程度には友好的な関係を築いている国から来たお客さんである。


当然、賓客とまではいかなくともそれなりの節度を以て接する必要があるのだが、そのお客さんが【ベスティア】に所属しているとなれば話は変わる。


そもそも【ベスティア】とは何か? 


もちろん、寓話に登場する獣やそれに関係する諸々の事柄のこと……ではなく、インドネシア軍が抱える対ダンジョンに特化した特殊部隊のことであり、日本で言えば国防軍の特殊作戦群所属対ダンジョン部隊に相当する超エリート集団である。


日本の場合はなぜか(実態はともかくとして)半官半民を標榜するギルドが対ダンジョン探索の第一線を担っているが、日本以外の国では民間人によるダンジョン探索を抑えつつ、警察や軍隊といった、国家に監督される機関に所属している人間を優先的にダンジョンに潜らせているのが現状である。


これに関しては、治安を維持するためには民間人に武力を持たせたくないという政府側の都合も理解できるのだが、一方で『この方針のせいで日本との差が開いている』なんて意見もあるそうな。


まぁな。


普通に考えて、マフィアやギャングのような連中が国家暴力を超える力を手に入れたら国家が破綻するからな。


いやマフィアじゃなくても、政治に不満を持つ若者たちが一斉に蜂起したら大問題に発展するだろうよ。


日本の場合は、そもそも政府に対して武力蜂起しようとする日本人が少なかったという事実と、それ以上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という一種の自浄作用があったからなんとかなっているが、他の国だとそう簡単にはいかないだろうことは想像に難くない。


そういった事情を加味して考えれば、彼女のように国から正式な許可を得てダンジョンに潜っている人材は、まさしく国家から忠誠と能力を認められたエリートと言えるだろう。


事実、彼女が所属している【ベスティア】はインドネシアの将来を担う部隊として、ダンジョンに関する様々な役割を任されているそうな。


この辺が曖昧なのは、まぁあれだ。

そもそもこの知識が、一五年後の俺が彼女から教えられた知識だからなのだが、それはまぁいいだろう。


知識の出所はともかくとして。


そんな国家の未来を背負ったエリートたちの中でも、世界で一番ダンジョン探索が進んでいる日本に派遣されるほどの人材となれば、その重要度はどれほどのものか。


正直に言えば、その度合いは俺もはっきりとは掴めていないが、少なくとも彼女の護衛を引き受けておきながら、こうして俺という今日が初対面の部外者との対話を許している西川さんや、彼女の”お願い”に負けてダンジョンに連れてきた少女たちよりは理解しているつもりである。


だからこそ聞くのだ。


「アナタは何をしにダンジョンへ?」と。


だって、おかしいじゃないか。


俺が知る限り、彼女が日本に来た理由は二つ。


一つ目は、人材交流。


詳しく言えば、日本の将来を担う可能性がある探索者と交流するという、極めて重要な任務だ。

それが、アイドル候補生が通う学校にいるのは意外と言えば意外だったが、知名度という意味では大きく間違った判断ではないと思う。


学年的に一年生の彼女であれば、現在三年生の先輩と、将来的に二年下の後輩との繋がりが作れるからな。


アイドルを育成する学校に所属している、自分と合わせて五年分の人材と考えれば、その中に”大成した人間が一人もいない”なんてことはないだろうし。


アイドルではなく、探索者として成功を収めてくれたら最高だ。


で、五年後ないし一〇年後に大成したアイドル、ないし探索者との繋がりは、交渉やその前段階で確実に彼女たちの役に立つこととなるだろう。


具体的には「以前日本に留学していたんですよ。あのアイドルと同じところなんです」って感じだろうか。


つまるところ彼女らは、将来的にダンジョン先進国である日本と交渉することを考えて、今のうちからコツコツと種を蒔いているのだ。


一〇年・二〇年先を見据えた国家的な目論見であると言えよう。


二つ目は『探索者という所謂”民間の荒くれ者ども”にダンジョンの探索を任せておきながら社会を保てている日本という国家の社会構造を学ぶため』である。


何度も言うが、本来国家の暴力機構である警察や軍隊に所属している人たちは、国家が認めたエリートであり公務員である。


彼ら彼女らを育てるためにかかる費用や労力を考えれば、危険なダンジョンに差し向けて無駄死にさせていい存在ではない。


加えて、政治家や官僚の中に優秀な人材を失うことに対して責任を負いたくないという気持ちもある。


よって彼ら彼女らが行うダンジョン探索は、極力損害が出ないよう安全に安全を重ねたモノとなる傾向にある。


そのおかげで優秀な人材の犠牲は少ないものの、ダンジョンから得られる成果が足りないのだから、この辺りは痛し痒しと言ったところだろうか。


この状況を打破するためには探索者の母数を増やす、つまり日本のように民間人をダンジョンに潜らせるしかないのだが、それをやれば政府が恐れる『力を持った民間人』が誕生してしまう。


政府関係者からすれば”警察も軍隊も止められない個人の集まり”など、悪夢以外の何物でもない。


故に彼らは、それらが発生した際の対処法を習得する必要があると判断した。


それは日本であれば、探索者を纏めている組織――即ちギルド――であり、ギルドが抱える最高戦力である【ギルドナイト】である。


で、インドネシアを始めとした国々は彼らをテストケースとして採用し、自分たちでも同じことができないかどうかを模索しているようだが……実のところ日本も【ギルドナイト】は持て余し気味なんだよな。


もちろん【ギルドナイト】に反逆されないよう、政府関係者や官僚などが日々あの手この手で連中を懐柔しようとしているのは事実である。


しかし、そもそもの話なのだが【ギルドナイト】が現在日本政府に逆らっていないのは、お互いがぶつかることを避けていることと、それ以上に『そんなことをする理由がないから』という、ある意味で惰性の産物であって、日本が国家としてなにかしらの効果的な施策を布いたからではない。


よって、外から見れば国家に忠実に見える【ギルドナイト】も、確固たる理由があれば国家に牙を剥くことを厭わない極めて危険な集団であることに違いはないのである。


そう言った事情からギルドは、もっぱら『【ギルドナイト】に蜂起する理由を与えない』ことに特化した方針を取り続けており、今のところ(少なくとも一五年後も)それは成功しているのだから、ある意味では確かに成功例なのだろう。


ただ、この絶妙とも言えるバランス感覚によって成り立っている関係性を、部外者かつ外国人である彼女たちがどれだけ理解できるかは知らないが、その辺は俺が関与することでもないので放置させていただくことにする。


長々と語ったが、彼女の事情はこんな感じで間違いはないと思われる。


つまり、人材交流と制度の把握を最優先任務としているはずの彼女が、先輩に無理を言ってまでダンジョンに潜る理由が分からないのである。


ナニカ隠していることがあるのか?

その隠していることによっては、俺にも被害が及ぶのではないか?


まして彼女の背後にいるのはインドネシアが誇る国家機関【ベスティア】だ。

子供だからといって油断して良い相手ではない。

絶対に裏がある。


同時に、国家が絡む案件ならば冗談でも西川さんらには語れないこともあるだろう。


そこまで考えたからこそ、こうして二人っきりになってから隠していることを根掘り葉掘り聞き出そうとしたのだが。


「ふ、ふぇぇぇぇぇ」


……なんでスパイが被害者面しているんですかねぇ?


遅れに遅れて申し訳ございません


拙作二巻が10月16日に発売となります。


書き下ろしとかありますので、よろしくお願いします

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