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16話 お金の問題をなぁなぁにしたら大変なことになる

前回の内容でジャンル別の日間二位? 妙だな。

「は? ポーションが欲しい?」


わざわざ呼び出して何をほざくかと思えば、そんなこと?


「そ、そうなんだ」

「なんとかお願いできない?」


「私にはなんとも」


あのときはわからなかったけど、今はわかる。

私が売ってもらえたのって、藤本興業とか龍星会が抱えていた在庫じゃなくて、あくまで支部長が持っていた分だったと。


だから支部長に在庫があるかどうかは聞けるけど、在庫があったとしても販売してもらうのは難しいと思う。それ以前の問題として。


「一応聞いてみることはできるけど、一個二〇〇〇万円だよ? 買えるの?」


「それなんだが……割引とか利かないかな?」


は? 割引?

社員でもないのに?


「無理でしょ」


「そ、そこをなんとか……」


「なんとかって言われてもねぇ」


だいたい、ポーションなんて貴重品を売ってもらおうとするだけでも恐れ多いのに、割引まで求めるのってどうなの?


いくらなんでも厚かましすぎない?


私、支部長から”厚かましい女”なんて思われたら死ぬんですけど?

在庫の確認や販売の問い合わせくらいならまだしも、割引交渉なんか絶対にしたくないんですけど?


それにさぁ。


「予定していた治療費は必要なくなったけど、生活費とか装備品の新調とかでいろいろ入用だよね? これから探索者として復帰するにあたってポーションが欲しいのはわかるけど、それよりも先に揃えるべきものってあるんじゃない?」


武器とか、防具とか、探索に必要な道具とか。


「も、貰うことはできない、わよね?」


「無理に決まってるでしょ」


なにを馬鹿なことを。

常識で考えなさいよ。


どこの誰が一個二〇〇〇万円もする貴重品をタダでくれるってのよ。


私の場合は何個かもらったような感じだったけど、あれはあくまで支部長がレアジョブに就いていた私を半ば強引に勧誘するために用意した餌であって、実質私の身柄と引き換えにしたようなもんでしょ。


それが当たり前だと思うんじゃないわよ。

両親だからっていつまでも舐めたこと言っていたら擂り潰すわよ。


まったく。


『どうしても会って話がしたい』なんていうから緊急の用事だと思ってできるだけ早く距離を詰めようとしている男子からのお誘いを断って帰宅したら、自分を呼び出した両親の媚びた表情なんて見たくもないモノを見せられて、話を聞く前から帰宅したことを後悔していたところに超高価――最低で一個二〇〇〇万円――なプレゼントをおねだりをされたって、笑い話にもならないわ。


あのさぁ。こっちは一刻も早くレベリングしなきゃいけないんだよ?

支部長との距離が開いたらヤバいんだよ?


私が死んだら二人も、妹も死ぬんだよ?


それなのに、支部長とのレベリングを断腸の思いで断ってきた娘に対してかけた言葉が『ポーションを貰ってこられないか?』ってなに。


これ、最初から貰おうとしていたでしょ?


もしかしなくてもこの人たち、私が支部長の愛人かなにかだと思ってない?


愛人だから少しくらいの我儘は通ると思われてる?


確かにさぁ。


ポーションを大量に提供してもらったし、レベルも上げてもらってるし、借金返済どころか貯蓄ができるくらいにまで金銭面でも面倒見てもらってるから勘違いするかもしれないけど、私と支部長はまだそういう関係じゃないから。


支部長的には将来的に命を懸けてダンジョンアタックをする部下を育てているだけだから。


その部下に負い目があるとよくないから、両親の治療に必要なポーションや家庭環境を整えるためのお金を分けているだけで、そこに恋とか愛はないから。


もしそういう感情があったとしても、それを利用してポーションを持ってこさせようとする親ってどうなの?


控えめに言って最低じゃない?


『家族の生活費を稼ぐために風俗に行ってくれ』ってのと同じレベルかそれ以下だと思うんだけど。


「あ~。最悪」


少し前まではこんなことをほざく人たちじゃなかったと思っていたんだけどなぁ。

まぁ”死ぬような怪我をした人間の性格が変わる”なんてことはこの業界では珍しい話でもない。


今回はこの人たちがそうなったってことだよね?

そうだ。きっとそうに違いない。


気持ちとしては「寝言をほざくな」と言いながら家の壁に顔を叩きつけてそのまま擦りおろしてやりたいところだけど、さすがに両親に対してそんなことは……いや、別にやってもよさそうな気がしてきた。


なまじポーションを貰えたから甘えたことをほざくんであって、もう一回死ぬような目に遭えば、そこでポーションとかナシでリハビリをしていれば、嫌でも現実を直視できるようになるんじゃないかな?


妹の生活費とか学費に関しては私が稼いでいるから問題ない。

なら、この人たちが探索者に復帰して何かしらの問題を起こす前に病院に叩き込んだ方が、世のため人のためになるのでは?


「ま、待ってくれ! 話を聞いてくれ!」


「そう! 理由が、理由があるのよ!」


思わず出た殺気に気付いたのか、両親だと思っていた人たちが命乞いを始めた。


そりゃあね。今の私はこの二人よりもレベルが高いからね。


加えて支部長から借りている指輪を使ってレベリングしているから、ステータス上では凄い差がある。

そんな相手に本気で狙われたら”死ぬ”って思うわよね?


でもさぁ。この人たちが舐めたことしたら、私も支部長に殺されるじゃん。

あんたらが馬鹿やって死ぬのは自業自得だけど、それに巻き込まないでよ。


ただまぁ、娘に犯罪行為をさせようとする時点で殺した方がいいんだろうけど、そうしなければならない理由があるなら聞いておいた方がいいよね?


支部長から「なんで家族を半殺しにしたんだ?」って聞かれたときに、ちゃんとした理由を答えられなかったら”やばいヤツ”だと思って捨てられるかもしれないし。


「その”理由”ってなに?」


うん。そうだ。最期に弁明くらいはさせてあげよう。

それに納得できればそれでよし、納得できなければ奥野家で悲しい事件が起こる。

ただそれだけの話。


「実は……」


―――


願わくば、両親だった人を傷つけさせないで欲しい。


なんて思って話を聞いてみたところ、両親がポーションを欲しがったのは、今も入院しているパーティーメンバーだった人たちのためらしい。


そういえばいたよね。

元々六人パーティーだったけど、二人が死んで四人が帰ってきたんだもんね。


帰ってきた四人も半死半生の状態で病院に直行して、一人当たり最低三個のポーションが必要って言われたから、私も焦ってダンジョンに潜ろうとしていたんだったわ。


その結果ヘタレの同級生どもから色々不名誉な渾名を付けられたけど、結果的に支部長に拾われたからそれはいい。


問題は、私が手に入れたポーションのおかげで探索者として復帰できそうな状態まで回復した二人が、今も病院のベッドの上で苦しんでいるパーティーメンバーに対して負い目を感じていることだ。


そもそも二人に使ったポーションは私の献身があってのモノなんだから、二人が負い目を感じる必要はないと思うけど、こういうのは理屈じゃない。


で、二人はパーティーメンバーのためになんとかしてポーションを手に入れたい。

だけど伝手もお金もない二人にはどうしようもなかった。


そこでポーションを得た実績がある私に目を付けた、と。


ここまでは理解できた。自分たちだけ五体満足なことに負い目を感じるのもしょうがない部分はあるだろうし、パーティーメンバーを回復させたいって気持ちもなんとなくではあるけれど理解もできる。


でも、その入手手段に関しては駄目。

理解も擁護もしない。


二人は私が億単位のお金を持っていることを知らなかったから”割引”とかなんとか言ってきたみたいだけど、そもそもポーション六個分を買うお金なんてどこにもない。


もしかしたら一個か二個分はなんとかするつもりだったかもしれないけど、他は最初から貰うつもりだったってことでしょ? 


はい、有罪(ギルティ)


「病院にいる二人は諦めるしかないんじゃない?」


「ちょっ!」


「なによ。二人からすれば大事な仲間なんでしょうけど、私からすれば会ったことがあるかどうかさえ微妙な相手だし。そんな人らのためにクランと交渉なんかできるわけないでしょ」


支部長にはなんの関係もない話だし。


「その人らがいたから私も今まで生活できた? そんなの向こうだって一緒でしょ?」


「ま、まぁそうなんだけど」


パーティーなんだもの。

私たちだけじゃなく、お互いが利益を享受していたんでしょ?

ならあとは向こうの子供とか家族が頑張ればいい話じゃない?


少なくとも私はそうしようとしたよ。


「もちろん二人がパーティーメンバーのためにポーションを探そうとするのは止めないし、私を通じて龍星会からポーションを買おうとするのも止めようとは思わない。在庫があったら売ってほしいって頼むのもいい。だけど、割引してもらおうとかタダでもらおうとするのはちょっと違うくない?」


最低でも正規料金を用意するべきよね。

社員と関係ない人に使うなら社員割とかは利かないだろうし。

っていうか、見ようによっては転売だし。


「「うっ……」」


正論をぶつけられて絶句しているけど、当たり前の話でしょうが。


さて、この二人はどうするのかな。

諦める?

それとも私みたいに身売りする?


いや、特別レアでもないジョブに就いていて中途半端にレベルが高い三六歳の中年男性と三五歳の中年女性が身売りしたところでポーション一個にも届かないだろうから、身売りはないか。


ならポーションを求めてダンジョンに潜る?

ありそう。


そのときに無理をしてまた怪我をしたらどうする?

私の貯金を使って支部長からポーションを売ってもらう?

それとも放置する?


「んー」


心情的には放置したいところだけど、支部長から”家族を放置した女”って思われるのは嫌かも。


そうなるとフォローしてあげるべきなんだろうけど、この場合のフォローってポーションを調達することでしょ?


支部長に在庫があるかどうか聞いて、在庫があるならいくつか自腹で買い取らせてもらって、後からパーティーメンバーとやらにポーションの代金を請求するって感じかな?


「はぁ」


『両親のパーティーメンバーにポーション代金として大金を貸し付けました。連帯保証人は両親です』って、絶対になんだかんだ言われて有耶無耶にされるよね。


でも、そうしないと将来的にもっと大きな損をするとなれば、それを防ぐためには多少は我慢するしかない、か。


「はぁ」


数千万円の損害を『多少』と言えるようになった自分を褒めるべきなのか、はたまた娘に数千万円の損害を与えようとする両親とその仲間の存在を嘆くべきなのか。


どちらにせよ損をすることは確定しているわけで。


「……帰ってこなきゃよかった」


次回以降の呼び出しは無視しよう。

妹に呼ばれたら考えるけど、両親からの呼び出しは無視しよう。


目の前で悩んでいるようなポーズを見せている両親ではなく、遠く離れたダンジョンでレベリングに励んでいるであろう支部長のことを思い浮かべながら、私はそう決意したのだった。

……書いている作者が言えることではないと思いますが、読者のみなさんって性格悪くない?(誉め言葉)



閲覧ありがとうございました。


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