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11話 クスリは定期的に補充したほうがいい

切岸さんに契約書を渡し簡単な食事を済ませた後で但馬さんに連絡をとってみたところ『まぁ、確かにそろそろ技術屋を抱えようと思っていた』とのことだったので、彼女の実家に関しては丸投げすることに決定。


彼女を雇い入れることに関しても『今後確実に大成するとわかっている技術屋を今のうちから囲えるならありがたい話ではある』と納得してもらえたので、契約書を持ってきたら彼女を連れて顔見せに行く所存である。


こうして一人の迷える子羊とその実家を救う態勢を整えたわけだが、それらがうまく行くかどうかは彼女の親父さん次第であることは忘れてはならない。


彼女の親父さんが提案を拒否したら? 彼女の実家が金を借りようとしているという”怪しい金貸し”とOHANASHIをして債権を譲ってもらい、経営破綻したあとで土地や建物や設備を接収するだけだな。


どう転んでも俺たちが損をすることはないし、その際に彼女やその家族がどうなっているかは俺の与り知らぬところ。


「願わくば素直に契約を結んで欲しいねぇ」


債権で縛るよりも自発的に契約してくれたほうが後腐れがないからな。


ともかく、これで懸念の一つであった『素材の処理と装備品の購入をギルドに依存していること』に対して解決の目処が立ったことは確かだ。


脱ギルド体制の構築は順調に進んでいると言っても過言ではないだろう。


しかし、それはそれとして新たな問題も発覚した。


「俺は薬のバイヤーじゃねぇんだよなぁ」


切岸さんの話を聞く限りでは、どうやらポーションを欲しがっている連中にとって、条件が合えばポーションを渡してくれる可能性がある俺はある種の希望になりつつあるらしい。


そりゃあな。


金があっても買えない貴重品であるはずのポーションをホイホイと渡していたらそう思われても不思議ではないわな。


だが、俺だって無尽蔵にポーションを持っているわけではない。


俺のルームの中にあるのは、飽くまで記憶の中の俺がルームに入れていたモノである。


具体的には”ギルドナイトがダンジョンの七〇階層に挑戦するために準備していたアイテム”と”六九階層までの道中で手に入れたドロップアイテム”に限る。


ポーション類でいえば、ポーションが三四個。ハイポーションが一五個。()()()()()()()()だけだ。


このうちポーションは但馬さんに一個と奥野に八個渡しており、さらに今回の契約が成立した場合は切岸さんに一個渡すことになるので、計一〇個を放出することになる。


残り二四個が多いのか少ないのかは聞いた人間によって判断が分かれるところだろうが、いずれ本格的な探索を行うことを考えれば補充しないわけにはいかないわけで。


「……巡業に出るか」


ポーションやハイポーションが貴重品とされている所以は、その入手方法が確立されていないから、否、正確には入手方法が公表されていないからだ。


公表していないだけで、国やギルドの連中は知っている。


ハイポーションは深層に出現する魔物が稀にドロップするだけでなく、四〇階層に出現するボスもドロップするアイテムだということを。


ボスの場合は討伐した際に必ず落とすアイテムではなく、極めて稀に落とすレアドロップに分類されるアイテムだということを。


しかしてレアドロップを確定で得る方法があるということも連中は知っている。


その方法とは、単純にして明快。

ずばり”最初にボスを討伐すること”だ。


例を挙げれば、俺が持っている【ステータス成長率倍化の指輪】と【全ステータス+一〇〇】がわかりやすい。


これは記憶の中の俺たちが五〇階層に出てくるボスを討伐した際に得たものだが、こんな貴重で希少なアイテムがボスを討伐する度に毎回ドロップするはずもなく。


ギルドナイトは数年かけて何度か五〇階層のボスを討伐したが、ドロップしたのは全く違う皮や肉や牙や爪で、同じ系統のモノさえドロップしなかった。


同じように六〇階層のボスも【状態異常耐性(極大)の指輪】と【環境適応の指輪】を落としたのは一度だけで、それ以降は全く違うアイテムしかドロップしていない。


そうしたことから、最初にボスを討伐したときに得られるドロップアイテムは”レアドロップの中でも一度しか手に入らない可能性がある極めて貴重なアイテム”と言われていた。


先日俺と奥野が遭遇したレアな黒鬼もこれと同じケースになる。


今後同じ黒鬼が出現し、誰かがそれを討伐したとしても【雷撃のスキルオーブ】が出現する可能性は極めて低い。


ダンジョンのボスとドロップアイテムの関係とはこのようになっている。


ただし、これらには『同じダンジョン内のボスに限った話』という盤外ルール的なものもある。


どういうことかというと、まだ一度も四〇階層まで攻略されていないダンジョンに潜り、そのダンジョンの四〇階層に出てくるボスを討伐すればレアドロップであるハイポーションが確定で得られるということだ。


また、四〇階層のボスは他のボスとは違い、レアドロップアイテムと通常のドロップアイテムの系統が一緒という特徴がある。


つまり、ポーションが欲しければ下層や深層で周回せずとも、一度討伐された四〇階層のボスを討伐すれば確定で手に入るのである。


当然このこともギルドの上層部では常識となっていた。


連中がこれらの情報を公表しないのは、当然自分たちでポーションを独占するためである。


ただまぁ、当然というかなんというか、国やギルドとしてもポーションよりはハイポーションが欲しいので、ギルドナイトを同じダンジョンに送り込むようなことはしておらず、ポーション集めは専ら軍や警察の仕事となっていたが、それも記憶の中の話。


現在日本国内に存在するダンジョンは約五〇個。


その中で現時点で四〇階層が攻略されているのは、新宿を除けば横浜と千葉と埼玉にあるダンジョンのみ。


さらに、現時点で四〇階層のボスを討伐できるのはギルドナイトのみ。


つまりハイポーションやポーションを確実に得ることができるのは日本でギルドナイトだけであり、ハイポーションの順番待ちとは即ちギルドナイトが地方のダンジョンを攻略するのを待っているということでもある。


この、ギルドナイトによる地方ダンジョンの攻略を指して『巡業』という。


ちなみにダンジョンは地方によって最下層が異なっているらしい。


実際、俺が知る限り日本のダンジョンは新宿と大阪を除いて四〇階層が終点となっていた。


その四〇階層を攻略したところでナニカあるわけでもなく。

普通に徒歩で帰還して終わりだった。


尤も、もしかしたらなにかしらの条件を満たせば隠し部屋が現れたり、四〇階層よりも下に行く手段が出てくる可能性は否定できない。


ただ、少なくとも一五年後でも四〇階層以降に進むためのナニカは発見されていなかったので、四〇階層よりも下の階層がある可能性は少ないと思われる。


ちなみのちなみに、大阪のギルドと東京のギルドは極めて仲が悪く、大阪のギルドが東京のギルド所属であったギルドナイトに五〇階層以降のレアドロップを奪われぬようギルドナイトを立ち入り禁止としていたため、大阪ダンジョンを攻略していけば【ステータス成長率倍化の指輪】も【全ステータス+一〇〇】も【状態異常耐性(極大)の指輪】も【環境適応の指輪】も手に入れることは可能であったはずだが、彼らがソレを得たという情報は終ぞ得られなかった。


なんとももったいない話である。


ダンジョンの謎とギルド同士の対立に関してはこれくらいにするとして、ポーションの補充について続けよう。


といっても答えはもう言っているのだが。


そう、攻略済みのダンジョンにいる四〇階層のボスこそ俺にポーションを供給してくれるありがたい存在なのである。


ハイポーションが不足している今、ギルドナイトが一度攻略したダンジョンに派遣されることはない。

今なら警察も軍も四〇階層のボスには挑まない(正確には、挑めない)。


よって、現時点で一度攻略されている横浜と千葉と埼玉のダンジョンでは四〇階層のボスが放置されている。


なので、ポーションを補充したいなら横浜か千葉か埼玉のダンジョンに行けばいい。


完璧だ。

もちろん俺がダンジョンの四〇階層を攻略できるということが前提になるのだが、四〇階層程度なら今の俺であれば問題なく攻略できるだろうから完璧な計画なのだ。


四〇階層のボスを討伐できるということは、まだ攻略されていない地方のダンジョンに行って四〇階層のボスをぶちのめしてポーションの完全上位互換であるハイポーションを乱獲することもできるということでもあるのだが、それはやらない。


それをやると、ハイポーションの順番待ちをしている国やギルドのお偉いさんに『ギルドナイト以外にも四〇階層を攻略できる探索者がいること』がバレる上、自分たちが確保している貴重品をかっさらった――別に連中のモノではないのだが、連中にそんな常識は通用しない――と敵視されてしまうからな。


なぜ敵視されるのか? 

困っている人に回らないから? 

面白いことを言うね?

連中がそんな殊勝なことを考えるわけがないじゃないか。


確かにそういう可能性があることも否定はしないが、基本的に連中は『いざというときのため』に回復手段を確保しようとしているだけだ。


もちろんその”いざというとき”とは、彼らや彼らの身内に問題が発生したときのことであり、今現在本当に困っている人に回る可能性はほとんどないと断言しよう。


現にギルドでそれなりの数を確保しているはずのポーションでさえ、死にかけていた奥野の両親や彼らのパーティーメンバーに回されることはなかった。


しかしその反面、先日の決闘(笑)で負傷した黒羽弟には二本ものポーションが惜しげもなく使われたらしい。おかげで彼は後遺症もなく、面子を潰されたことに腹を立てるくらいの余裕があるそうな。


もちろん彼にポーションが使われたのは”彼が学生だから”という理由ではない。

対外的にはそういうことにしているようだが、実際は彼がギルド関係者の子供だからだ。

そうでなければ、誰が子供の喧嘩で負傷しただけの阿呆にポーションを使うものか。


一応料金は請求するようだが、それもギルド関係者価格の二本で一〇〇〇万円くらいだろうと思われる。


いや、もしかしたら学割も加わって五〇〇万円くらいに収まるかもしれないが、確実に一本二〇〇〇万円はしないだろう。


なんとも不公平で不平等なことだが、世の中なんてそんなもの。


俺としても思うところがないわけではないが、()()()()()()連中を敵に回すつもりはないので、()()()()()()大人しくポーションの回収に勤しむつもりである。


「横浜、は人が多そうだから埼玉かな」


ショートカットを使っていきなり四〇階層! は無理にしても、三〇階層くらいまでならショートカットできるだろうし、四〇階層くらいなら一泊二日で十分攻略可能だしな。


「さ、気合い入れて行きますか」


……数時間後、俺はこの極めて杜撰な計画を実行に移したこと後悔することになるのだが、それはまた後の話である。

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