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1話 プロローグ

気付いたらローファンの四半期でも一位になっていたので初投稿です。

【過客】

辞書を調べれば、旅人。旅をする人。と出てくるし、一般的な解釈もそうだろう。


日本人が【過客】と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、おそらく松尾芭蕉の紀行文である”おくのほそ道”の冒頭『月日は百代の過客にしてゆきかふ年も又旅人なり』でなかろうか。


元ネタは古代中国の詩人李白が謳った『天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり』からきているのだが、そのことを知っている人はあまりいない。


同じ姓だから興味を持って調べたことがあるんだが、結構引用とか多いんだよな芭蕉って。

まぁ当時は漢詩を引用できること自体が教養人の証明にもなっていたので、別にパクリだなんだとは言いはしないが。


松尾芭蕉の引用ネタについてはさておくとして。


辞書には同じように書かれているが、松尾芭蕉が”月日”を【過客】として、”ゆきかふ年”を【旅人】としているように、両者には明確な区別がある。


元ネタの李白の詩を参照にすればわかりやすいが、ざっくりいうと”旅人”は旅を()()()()――もしくは()()()()――人を指し、”過客”は()()()()()()人を指す言葉として使われている。


これに鑑みるに、俺のジョブが旅人から過客に昇華したのは、俺が『月日を跨いだ旅をしてきたから』なのではないかと考えられる。


だが、もしこの考えが正しいとすると、誰かが、まぁこの場合は仮にシステムとでも名付けようか。


その、システムさんが俺の状況を観測していることになるのではなかろうか?


確かにレベルアップ時にそれまでやってきた行動によって上昇値に補正が掛かったり、パーティーメンバーの数によってボスを討伐した際に得られるレアドロップの数や、宝箱の中身の数が変化するなど、ナニカによって観測されていると思しき部分はある。


だが『時空を超えてきた』なんて、第三者が観測できるようなものなのか?


もしかしたら俺の意識の問題なのかもしれないが、それなら過客なんて洒落た言葉が出てくるのも不自然な気がするし。


「結局……どういうこと?」


情報が少なすぎる。

元々高校すらまともに通っていなかった俺に小難しいことを考えさせるなと言いたい。


いや、ジョブが昇華したこと自体は嬉しいことなんだが、どうにも釈然としないというかなんというか。


「まぁいいか」


そういった小難しいことは後で考えることにして、他にも考えるべきことはある。


それは謎のスキル【結合】だ。


【ルーム】はある意味そのままのスキルだったし、俺よりもギルドの検証班が嬉々として検証や解析を行っていたので俺が何かする必要はなかったが、新たに得たこのスキルに関しては俺自身が検証する必要があるだろう。


大前提として上位職に就いた際に覚えるスキルは、元のジョブが宿していたスキルを強化したモノか、元のスキルとはまったく関係ないモノを覚える場合がある。


前者の例えとしては、水魔法使いが覚える【水魔法】と水魔導士が覚える【水魔導】が挙げられる。

水魔法は、水の属性魔法を使った際にプラスの補正がかかるスキルなのだが、水魔導は水魔法以上の補正に加え、出した水を氷にしたりお湯にしたり気体にしたりと、水に関わることなら大抵のことができるようになるスキルである。


ある意味で水魔法の上位スキルと言えるだろう。


後者の例えとしては、剣士が習得する【剣撃】と剣聖が習得する【見切り】が有名だ。

剣撃は剣による攻撃にプラス補正がかかるスキルだが、見切りは敵の攻撃を予測・回避しやすくなるスキルである。


便利は便利なのだが、剣撃とはまったく関係のないスキルだということがわかるだろう。


このような感じなので、まず結合がルームと関係しているのかいないのか。

関係しているのであればどう関わっているのか。

関係していないのであればどんなスキルなのかを調べる必要があるわけだ。


「とはいえ、こっちも別に急ぐ必要はない、か」


レベルはまだまだギルドナイトの面々に劣っているが、ステータス上ではすでに圧倒している状態だ。

これなら彼らにちょっかいをかけられてもなんとかなる。

というか、なんとでもする。


記憶の中の俺はダンジョンの攻略をしたいギルドナイトたちやスキルの研究をしたい研究者たちに急かされていたこともあって、毎日必死になってレベリングしたり、ギルドナイトが休養に入ったかと思えばスキルの研究に付き合わされたり、それに一段落ついたと思ったら素材の回収やら『いうことを聞かない悪い子』を送迎したりやらで休む間もなく働かされていたからな。


あんな余裕のない生活をするのは真っ平御免だぞ。


偉い人も言っているじゃないか。


『探索者ってのはね。好きなときに好きな子がいるお店に行けるくらいになればいいんだ。それが忙しすぎでもなく、貧乏すぎでもない。ちょうどいいくらいってとこなんだ』ってな。


俺が目指すのはその”ちょうどいいくらい”の場所なのだ。


もちろんそのために力が必要なことは分かっているので、スキルの研究やレベリングを止めるつもりはないが、余裕をなくすつもりもないのである。


差し当たってはアレだな。


「とりあえず今日は奥野のレベルが三〇になったら帰るか」


これでいい。

ついでに俺のレベルも一か二くらい上がってくれれば尚更いい。


「え? あ、はい! わかりました!」


ヨシ! 奥野も納得したことだし、普通にレベリングしてから帰ろうか。



閲覧ありがとうございました


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