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30話 無自覚なカン・ユー

一〇万文字は超えたけど、もうちっとだけ続くんじゃ

無事に圧迫面接(なお圧迫されたのは面接する側とする)を終えた月曜日。


「……!!」

「……!」


「ん?」


いつも通りに登校してみると、なにやら人だかりができているのが見えてきた。


人だかりの中心にいるのは、数少ない顔見知りの少女、というか奥野せらだな。


彼女はローンの返済に目処が付いたことで意欲が削がれていたり、半ば無理やりな勧誘だったことを根に持っていたら困るなぁと考えて、こっちから「ローンはもう返済できるけどどうする? 契約上は今後三年拘束されるけど、もし嫌だっていうならポーション二本買って返してくれたらチャラにするけど?」と確認してみたところ「え? このままなら龍星会は確実にAランククランになりますよね? せっかく勝ち馬に就職できたんですからこのままがいいです!」と恩讐とかではなく純粋に将来性を見据えて龍星会に残ることを決めてくれたお嬢さんである。


そうだね。Aランククランって、いうなれば超が付く一流企業だもんね。


給料もいいし福利厚生は……よくわからんけど、結構自由にさせてもらえるみたいだし。

実力さえあればかなり気楽な職場だと思う。


そういう現実が見られるところ、嫌いじゃないわ。


とまぁ俺としては極めて高い評価を下しているわけなのだが、これまでの貪欲な姿勢が災いして周囲からは距離を置かれていたはずだ。


もちろん”友人ができた”というのであれば問題はない。


ボッチ生活なんてやらないに越したことはないからな。


だが、この学校は探索者のための学校である。

必然的に【友人】とは、利害が一致した相手になりがちだ。


いや、もちろん普通の学校に通う学生だって友人関係を構築する際には多少の利害は絡むだろう。

だが、探索者の場合ほどあからさまではないはずだ。


なにせお互いが個人事業主なのだ。

言い換えれば同業他社である。


では同業他社とはなにかといえば、時に手を組み、時に蹴落とすべきライバルである。


つまり探索者にとっての友人とは、同じクランやパーティーのメンバー、または己のパーティーと利害が一致する相手のことを指す。


稀に全く利害関係が発生しない相手と友人になるときもあるようだが、俺にはわからない。


というか、記憶の中の俺に友人いなかったし。


俺の周りにいたのは、俺を監視するヤツと、俺を研究するヤツと、俺を利用するヤツと、俺にサービスしてくれるお店の人たちくらいのもんよ。


うん。モルモットですね。わかります。


世界に一人しかいないユニークジョブ持ちという立場上しょうがないのかもしれないが、もう少し、こう、なんとかならなかったものかね?


無理か。まず当時の俺に自分が悲しい人生を送っているっていう自覚がなかったもんな。


自覚ができなかった俺が馬鹿なのか、それとも自覚させなかったギルドの連中が凄いのか。


両方か。そうだな。


とりあえず今回は自覚もできたしギルドにも関わっていないから、記憶の中の俺よりはまともな生活ができる……といいなぁ。


「ふぅ」


悲しい記憶を思い出してナーバスになっても仕方がないので、現実に目を向けるとする。


奥野の周囲に集まっているのは、クラスでもトップカーストと言える連中だったような気がする。


その中でも積極的に声をかけているのは、確か生徒会長の弟だったはず。


察するにパーティーメンバーへのお誘いだろうか?


俺の記憶が確かなら、奥野は彼らと一度パーティーを組んだものの、数日で追い出されていたと思うのだが。


もしそうだとすると、彼らは追い出した相手に再度アタックしてきたことになる。

なかなかの強心臓ぶりだが、はてさて。どういうつもりだろうか?


「あ、しぶちょー! おはようございます!」


訝しんでいる俺に気付いたのだろう。

奥野の方から挨拶をしてきた。


……周囲の人間を無視して。


挨拶するのはいいことだが、正直このタイミングはどうかと思う。


みろ。無視された連中が俺を睨んでいるだろうが。


空気を読め空気を。


いや、もしかしたらこれはわざとか?


同級生からの面倒な勧誘を避けるためにわざと俺を支部長と呼んで、自分がもう他のパーティーに所属していることをアピールしつつ矛先を変えた?


面倒な真似を……とは言えんわな。


部下を護るのも上司の努め。

それに、彼女を勧誘した際に『スカウトに応じないこと』と条件を付けたのは俺だしな。


ならば責任はとるべきだろうよ。

子供を諭すのもまた大人の努めでもあるし。


「おはようございます。奥野さん。朝からにぎやかですね」


面倒だが。本当に面倒だが、大人として相手をやろうじゃないか。



―――


「以前は不幸なすれ違いがあったが、やっぱり君は俺たちとパーティーを組むべきだ!」


「結構です。貴方たちは貴方たちで頑張ってください」


「君の気持ちはわかる! だが実力のある者はそれに相応しい行動をとるべきだろう!」


「そうですか。貴方たちは貴方たちで頑張ってください」


「君だっていつまでもソロというわけにはいかないだろう? 君ほどの実力者を活かせるのは俺たちしかいないんだぞ!」


「それは凄いですね。貴方たちは貴方たちで頑張ってください」


なんか登校したら絡まれた。


なんだろうね、これ。


いや、なんとなくわかるけど。

多分だけど、私と支部長が中層以降でレベリングしていたことをどこかから聞いたんでしょ?


龍星会の人、ではない。

あの人たちは力に正直だから、自分たちより強い相手に逆らわないって支部長も言ってたし。


あと、彼らの反応を見る限り私が二〇階層の後半まで行っていたとは思っていないようだから、一五階層あたりで偶然すれ違った人たち経由か?


元々支部長らしき人が中層でレベリングしているって噂は流れていたみたいだし。


それを聞いたこいつは、それが私だったと判断したわけか。


まぁ商人が一人でレベリングしているとは思わないよね。

それくらいならレアジョブである侍を持つ私がレベリングしていると考えた方が自然だもんね。


で、自分が逃がした魚の大きさを知った彼が、再度私を釣り上げようとしている。

そんな感じ?


「遅ればせながら君の事情も聴いた。あぁいう事情があるならば、君があれほどダンジョンに潜ろうとするのも当然だ」


事情を聴いた、か。


支部長が話すはずがないから、確実にギルド経由。


「ちっ」


入院費用に関する融資も断り、ポーション購入に関する融資も断り、優先的に回して欲しいというお願いさえも断った連中が、個人情報の漏洩か。


やはり支部長がいうようにギルドは信用できないね。


それと繋がっているコイツも。


「俺ならポーションを用意できるぞ! 必要なんだろう?」


あ~あ。厭らしい顔をして。

下心が見え見え。


というか情報が古い。

ポーションなんて昨日支部長からさらに二本買ったばかりだっての。


元々お父さんとお母さんに必要だったのは()()()()


契約金と限定セールで六本分は賄ったけど、それを使ってもリハビリが必要なレベルのダメージが残っていた。


なのでダメ元で支部長に「もっとポーションありませんか?」って聞いたら「あるぞ」って言って出してくれたんだよね。


セール中ではないので二本で二〇〇〇万円(社員割引で安くしてくれたらしい)したけど、二億四〇〇〇万の円がある私に怖いものはあんまりない。


ローンの返済と含めて現金一括で支払い済み。


いや、現金はまだないから、厳密には取り分から差し引いてもらったんだけどね。


それでも『取引は取引』と先に現物を渡してくれた支部長には感謝しかない。


それと、専務さんとの面接の後で「ローンはなくなったけどどうする? 会社辞める?」なんて聞かれたけど、辞めるはずがないでしょうに。


借金がなくなったとはいえ、これから何があるかわからないじゃない。

それなら支部長の傍にいたほうが安全でしょう?


これからも勝ち馬に乗らせていただきますとも。

えぇ。私の方針は決まっている。

だから彼の勧誘に対する答えは一つ。


「間に合ってます。それは貴方たちのために使ってください」


そもそも現物がないし。

それじゃあ交渉のテーブルにすらつけないよ。


「はぁ?」


ここまでやって断られるとは思っていなかったみたいだね。

取り繕った表情が完全に崩れているよ?


あと、こいつ、私をパーティーから追放したことを一切謝罪していないよね?


一々謝罪するようなことではないと言われればその通りだろうけど、あのとき掛けてきた言葉に対しては謝罪するべきだと思うよ? 普通にいじめだし。


今となっては別にどうでもいいけどさ。


っていうか、そろそろ面倒になってきたからさっさと諦めて欲しいんだけど、さて、どうしたものか。


……あ。支部長発見!


「あ、しぶちょー! おはようございます!」


挨拶は大事です。


かなり元気になったお父さんとお母さんからも『支部長さんによろしく伝えてほしい』って言われていますからね!


「おはようございます。奥野さん。朝からにぎやかですね」


私の挨拶にやや胡散臭い感じで挨拶を返してくれた支部長。


最初は胡散臭いと思ったけど、慣れればそうでも……いや、やっぱり胡散臭いかも。


それと何やら苦笑いをしているような気がするんだけど、面接のあとでなにか問題でもあったんですかねぇ? 


閲覧ありがとうございます


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