15話 戦いは数だよ
あのあと専務さんを説得して無事に【藤本興業営業部特殊素材調達課課長(課員一人)】と【龍星会探索班学園支部支部長(所属一人)】の役職を得ることに成功した。
いきなり課長とは、流石はハイポーション。
最低一〇億円のアガリが見込める貴重品は伊達ではない。
尤も、最初からこれだけの役職をもらえたのはハイポーションの利益のおかげだけではない。
実績がない有名無実の役職なのでいくらでも盛れることはもちろんのことだが、一番の理由は俺と他の社員との実力差が離れすぎていることが挙げられる。
組織として、圧倒的な実力差があるだけでなく、いきなりポーションだのハイポーションだのといった貴重品を惜しげもなく出してくるような相手を普通の社員と同じ扱いにはできないのだ。
あと、先輩面して変な命令してくるチンピラとかいたら普通に処すぞ。俺は。
また、変に嫉妬するヤツとかに足を引っ張られたらお互いに困るしな。
専務さんとしても、俺のことは一般社員ではなく自分の直属の社員として様子を見るつもりだったので、組織的には営業部長である美浦さんの部下であるが、実際は専務さんの部下として動くことになっているそうな。
とはいえその専務さんから『学生のうちは学校生活を優先してかまわない』というお言葉を賜っている。
どうやらよほどのことがない限りは自由にやってもいいらしい。
所謂ワンマンアーミーである。
完全に信用はされていないだろうが、そもそも今の藤本興業に潜りこんでどうするという話だからな。
無駄に疑うくらいなら放し飼いにする。実に合理的な判断である。
当然、自動で希少な素材を持ち込むbotのような扱いをしつつ、俺がやらかしたときは即座に切り捨てるための準備もしているだろう。
むしろそれくらいの用心深さがなければ組織としては信用できないので、是非奥の手を隠し持って欲しいところである。
とにもかくにも、俺がすることに口を挟まないというのはありがたい話だ。
これだけ自由にやらせていただけるのであれば、会社のために尽くさなければ無礼というもの。
今後も適度にポーションを含めたそれなりの素材をそれなりに売却する所存である。
ギルド? 知らない子ですね。
レア素材の対価にタダ券を渡すような組織に売るものなんてないよ。
……使ったけど。その時は幸せだったけど。
これからはちゃんと現金で通うからな。
アイツらとはもう関わらんぞ。
世間知らずだった当時の俺とそれを利用していた職業倫理の欠片もなかった連中に関してはともかくとして。
ひとまず社会的な立場を得たものの、俺が目指す最強にはこれだけでは足りない。
会社からの信頼はこれから実績を積むことで構築していくつもりだが、その実績を積むために不可欠なものがある。
それは数の力。すなわちパーティーメンバーである。
ダンジョン攻略は簡単ではない。
俺一人が順調にレベルアップを重ねたところで、個人でいけるのは五十階層あたりが限界だ。
いや、ルームを駆使すれば六〇階層まではいけるかもしれないが、間違いなく行き詰る。
これは予想とか予測ではなく確定事項だ。
どれだけ強くとも、一人では数体の魔物に囲まれただけで死んでしまう。
そのためこちらの火力を補填すると同時に、魔物からのヘイトを分散してくれる前衛は必要不可欠な存在である。
また、戦闘の前や戦闘中に魔物からの不意打ちを警戒してくれるメンバーも必要だし、探索中にダンジョンに設置された罠を発見・解除してくれるメンバーも必要だ。
理想は、どの場所にも対応できる俺を除いて、前衛が二人、中衛が一人、後衛が一人の合計五人くらいでパーティを組みたいと思っている。
もちろん俺との実力差が開きすぎていては意味がないので、しっかりと例のアイテムを使ってレベリングしてもらう予定だ。
その分信用のおける人間を探さなきゃいけないので大変と言えば大変だが、まぁ多少はな。
世界最強を目指すならその程度の苦労は苦労とは言わないだろう。
懸念があるとすれば、やはり目的を共有できないことだろうか。
十五年の巻き戻りを知らない人間からすれば、俺の行動はどう考えてもやりすぎだ。
最初のうちは黙っていても、レベルが上がれば『そこまでする必要があるのか? 五〇階層以降に潜れる実力があるならそれでいいのでは?』と諦観を抱かれたり、俺に対して不信感を抱かれるかもしれない。
確かに、暮らすだけならそれでも十分だ。
むしろかなりいい生活ができると思う。
パーティーメンバーがそれを望むことも否定しない。
しかし俺の目的は、ただ安穏と暮らすことではない。
いや、最終的にはそれが望みなのだが、そのためには解き明かさなくてはならない謎がある。
『自分に十五年の記憶が宿った理由』
これを解明しない限り、俺は常に『巻き戻り』に警戒して生きていくことになるだろう。
それは決して俺が望む安穏とした生活ではない。
謎を解き明かすために強さが必要かどうかは不明だが、あって困るものではないし、なにより大事な時に『力が足りなかった』と後悔するつもりもないのだ。
力が必要なのだ。何があっても対処できるだけの力が。
その力を得るための力が。
パーティーメンバーに求める絶対条件は、簡単には裏切らないこと。少なくともギルドに俺の情報を流さないと断言できることが求められる。
その上で理想は、優良なジョブに就いていることと、レベルが上がりきっていない状態であることだ。
……この時点で簡単なことではないが、実は該当する人間に一人だけ心当たりがある。
俺の記憶が確かならこの時期は相当大変な状況に陥っていたはず。
つまり、恩を着せるには最良のタイミングってことだ。
というわけで、藤本興業との交渉を終えた翌日の放課後。
「やぁ。こんにちは。いい天気ですね。少し商売の話をしませんか?」
俺はもともと目星を付けていた一人の少女に声をかけていた。
「は?」
いきなり声をかけられて驚いたのか、一瞬目を丸くするも、すぐにキッと睨みつけてくるクラスメイトのお嬢さん。
身長は大体百六十センチくらい。
体格はやや細身。黒髪黒目で、長い髪を後ろで縛っている。
目つきが鋭いように見えるのは、過度のダンジョンアタックによる疲労と寝不足と不信感がブレンドした結果だろう。
目つきといい雰囲気といい高校生になったばかりの少女が出していいモノではないが、そういうのが好きな人には堪らないのかもしれない。
実際、そういう需要は多かったみたいだしな。
需要と供給についてはさておくとして。
俺が見込んだパーティーメンバーの第一候補。
それは孤高の侍、奥野せら。
レアジョブの侍を得たお嬢さんにして、とある事情からこの時期にソロでダンジョンに潜っているお嬢さんにして、十五年後の世界で一番仲が良かったお嬢さんである。
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