90_思い出の玩具は大事にとっておくタイプです。
大きくなってしまったマオウルドットをもう一度小さくするために、私はイヤリングに詰め込まれていった魔力を探ってみる。これが封印に直結していて、ここに魔力を流してマオウルドットに送り込んだわけだから、ここからその分を魔力取り出してやればいいわけなんだけど……。
(うーん、なかなか大変そうね!)
そもそも、最初は私だけで悪魔の魔力を吸い込み尽くしてしまおうとしたけれど、それができなくてマオウルドットに渡したわけで。今の私がこの魔力を吸い上げてあげることはちょっと難しそうだった。
「だとすると、どうするのが一番いいかしら?」
考えながら、すっかり大きくなっているマオウルドットを眺めてみる。うん、大きいわね!マオウルドットのことが大好きな子猫軍団は、大きなドラゴンにも怯えることなく、むしろ大興奮であっちにじゃれつきこっちにじゃれつき好き放題している。すっかり仲良しになっているため、そんな風にいいようにされていても「やめろ!」「オレはおもちゃじゃない!」と怒りつつ、マオウルドットは好きにさせてあげているようだ。うふふ、微笑ましいわねえ!
今のマオウルドットは悪魔の魔力でパンパンになっている状態と言えるけれど、そこはマオウルドット自体を媒介しているため、猫ちゃんたちに悪影響はなさそうだ。というか、悪魔の魔力そのものだったら猫ちゃんたちどころか、今この場にいるサラを始めとしたレーウェンフックの使用人たちは、誰一人耐えられなかったに違いない。
(さすがドラゴンよねえ。あれだけの量と圧の悪魔の魔力を、完全に自分の魔力に変換しているようなものなんだから)
うんうんと感心しながら考えて、ふとひらめいた。
今このままマオウルドットから魔力を吸い上げても、彼の中で変換されている魔力は悪魔のものに戻ってしまう。だから、どうにか私が吸いつくして、他に影響を出さないようにしなくちゃと思っていたわけだけど……私も変換してしまえばいいのでは?そして、害のない魔力にした後に、外に放出してばらまいてしまえばいいのでは?
それはとんでもなく名案に思えた。
じゃあ、今度は、どうやって魔力の種類を変換するかっていうことだけど……。
私は次に、イヤリングではなくてマオウルドットの中の魔力を探ってみることにする。
ピトリとマオウルドットの体に全身でひっついて、魔力を探ろうと自分の魔力を流してみると、マオウルドットがなぜか大慌てし始めた。
「な、な、な、ルシル!お前、何するんだよーっ!?」
「えっ?マオウルドットの中で、悪魔の魔力がどうやって変換されているかなって思って調べているのよ」
なによ、猫ちゃんたちに散々じゃれつかれているんだから、別にいいじゃあないの!
そう思い、気にせずへばりついたまま、マオウルドットの中を探ってみる。
……うーん、別にいいじゃないと思ったものの、確かにこれだけ好き放題魔力を探っていたら、ちょっと気持ち悪いかもしれないわね。ドラゴンであるマオウルドットは、自分の魔力に遠慮なく干渉されるなんて経験も初めてだろうし。
(まあ、そんなこと言っていられないから我慢してもらうしかないんだけど)
「う、うひゃひゃ!やめろー!くすぐったい、いや、気持ち悪い、ううっ、時々気持ちいいのが悔しい……」
あー分かる分かる!私も歴代飼い主たちに魔力をもらうときに、多分同じような感覚を味わったんだと思うけど、あれって慣れないと気持ち悪いけど、慣れるとちょっと気持ちいいのよねえ。
そうやってひーひー言っているマオウルドットを無視して気がすむまで調べた結果、なんだかいけそうな気がしてきた。
「あとは、一応ちょっと練習して……」
私は闇魔法で作った空間を開くと、その中に手を突っ込んで中の物を探り当てる。
わ、ちょっとこの中、悪魔の魔力がたくさん入ってて、手を入れると気持ち悪いわね……。マオウルドットの中の魔力を吸い出すのが上手くいったら、こっちのもどうにかしよう。
そんなことを思いながら、私は少し小さめの竪琴を取り出した。
気になったらしいフェリクス様がおずおずと近づいてきて、私の手の中の竪琴をじっと見つめる。
「ルシル?それはなんだ?」
「うふふ、これは、私が猫だった頃の飼い主の一人が作った、ちょっとした面白アイテムです!一つの魔力では一つの音しか鳴らないので、この竪琴でまともに音楽を奏でるには、魔力の質を変換させなくちゃいけないんですよねえ。それがすごく面白くて、猫だった頃によくこれで遊んでました」
「そ、そうか……」
もちろん、これを作ったのはコンラッドだった。当時の私は猫だったから、当然普通の楽器は上手く弾けなかったのだけれど、これは魔力を流せば音が出るように作られているから、私でも音楽が楽しめたのよねえ。大商人だったコンラッドは長い距離を旅することが多くて、私が飽きないようにって作ってくれたんだけれど。
次の飼い主のローゼリアは歌が好きだったから、私がこれで音楽を奏でて、ローゼリアが歌ってくれたりもしたっけ。一緒に遊べて楽しかったなあ。
そんな、懐かしくも幸せな思い出に浸りながら、私は竪琴に魔力を流す。
久しぶり過ぎて少してこずったけれど、すぐに勘を取り戻すことができた。あの頃、散々これで遊んだものね……。
「さて、それじゃあやりましょうか!」
私は慎重に、イヤリングを通してマオウルドットの中にある悪魔の魔力を吸い上げていく。そして、同時に魔力を変換し始めた。
(どうせなら、このまま竪琴を通して放出しちゃおう!)
楽しくなってきて、私は変換した魔力を使って、竪琴を弾いていく。今の私には人の手もあるけれど、実際に竪琴を弾いたことはないので、手の動きはなんとなーく適当に添えて。ふふ、こうしていると、私ってばとっても上手な竪琴奏者みたいじゃない?
そうして私の魔力で奏でる音楽が広がり始めると、ふわり、ふわりとどこからともなく小さな光の粒が浮かび始めた。




