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60_同居人候補と心が育つ時間

 


 レーウェンフックに戻り、フェリクス様に離れにエリオス様を迎え入れてもいいか聞いたのだけれど、思いのほかフェリクス様は迷っているようだった。

 てっきり、別に構わないと言われると思っていたのだけど……やっぱり、自分は本邸にいるとはいえ、自分の屋敷に関係のない人が暮らすのは抵抗があるわよね。優しさに甘えて、そんな当然のことにも気がつかなかったわと反省する。そうよね、私にとっては久しぶりに再会した大事な元飼い主だけれど、フェリクス様はついこの間初めて会っただけの人なんだし。


(だけど、エリオス様を一人ぼっちにはできないわよね。魔塔で一人で寂しかっただなんて、そんなことを聞いて放っておけないもの!離れで一緒に暮らせないとなると、私が魔塔に行くのもアリよねえ)


 どうせ、エルヴィラとフェリクス様が結ばれた時にはここの離れからも出て行くことになると思っていたわけだし。この場所はとても居心地がよくて、気に入っているから、少し残念ではあるけれど、ただ出て行く時期が早くなるだけとも言える。


 そんなことを考えていると、ずっと黙って私の背中に隠れていたエリオス様が、おずおずと顔を出し、フェリクス様に向かって小さな声で言った。


「ねえ、それなら、もう一人一緒に住むのはどうかな?そうしたら、二人きりではないでしょう?それなら、僕も一緒に住んでもいい?」


 えっ!もう一人って、エリオス様は誰のことを考えてそう言っているのかしら?

 首を傾げているのはフェリクス様も同じだった。


「ねえ、それならいい?」

「あ、ああ。それなら、まあ……」


 エリオス様はもう一度、フェリクス様にたずねる。

 弱々しく、涙目で、懇願するようなその様子に、フェリクス様は思わずと言ったふうに頷いた。


「やった!それなら、さっそく同居人候補に会いに行こ?」



 ✳︎ ✳︎ ✳︎




「え?一緒に住みたいかって?住みたい住みたい住みたい!オレもルシルと一緒に住む!!」


 マオウルドットは興奮気味に叫んだ。そう、エリオス様が一緒に暮らす同居人……同居ドラゴン?として提案していたのは、マオウルドットだったのだ。


(まあ!それにしても、あんなに何度も激しく首を縦に振って、首が取れちゃうんじゃないかしら?)


 マオウルドットも封印されて長いし、この森から自由になれるかもしれないことがとっても嬉しいみたいだわ。


「エリオス様、だけど、マオウルドットは封印されていてこの森からは出られないんですよ」


 勇者エフレンが封印し、緩んだところをフェリクス様にさらに封印し直してもらったばかりだもの。私だって、これほど喜んでいる姿を見るとマオウルドットのことは連れて行ってあげたいけれど、森から出られないのだからどうしようもない。


 私はそう思ったのだけれど、エリオス様は満面の笑みで言った。


「ふふっ、僕だって、伊達に大賢者だなんて呼ばれていないからね、大丈夫だよ」


 エリオス様の言葉は、もちろんマオウルドットも聞いていて、期待に赤い瞳をキラキラと輝かせていく。


「ただし、マオウルドット。この封印を変えてあげる代わりに、ちょっとだけ、僕のお願いも聞いて欲しいんだけど」

「聞く聞く!なんでも言ってくれよ!」

「あれ、どんなお願いか聞く前にそんなこと言ってもいいの?」

「だって、そうしたらオレを連れて行ってくれるんだろ!?それに、さ!リリーベルが選んだ飼い主だったやつだもんな!そんな変なことは言わないだろ!」

「そっか、リリーベルを信用してるんだね」

「まあ、オレとリリーベルの付き合いは誰よりも長いからな!」

「……ふうん」


 エリオス様は少し二人だけでマオウルドットと話したいと言い、私とフェリクス様は少しだけその場から離れる。


「なんだか、ごめんなさい、フェリクス様。やっぱり嫌だと思ったら、すぐに言ってくださいね!」


 何かを考え込むようなフェリクス様にそう告げる。


「もしも、そうしたら、あなたはどうするんだ?」

「エリオス様は、ほんの小さな子供ですから。一人で寂しいと言うあの子を放って置けないので、そのときは、私が魔塔に向かうことも考えますね!」


 あれ?でもその場合、マオウルドットも一緒に行けるのかしら?エリオス様が離れに住むための交換条件のようにこの話は持ち上がったわけだものね。だけど、あれほど喜んでいるのだから、連れて行ってあげたいわよね。


「……あなたが離れを出る必要はない。いや、本邸に来るなら、大歓迎だが」

「そうですよね」


 私はうんうんと頷く。だって、私とフェリクス様って一応婚約者だものね。だから離れに住まわせてもらえているのだし。運命のヒロインであるエルヴィラが現れるまでの、暫定婚約者だけれど。


「……伝わらないな……」

「えっ?」

「いや、なんでもない。ところで、ルシルは大賢者殿を小さな子供扱いするが、見た目は子供でも、長い時間を生きているのだろう?心は大人なのではないか?」


 まあ、そう思うのも理解できる。けれど、私はそうじゃないと思うのよね。


「フェリクス様、私は、心は環境や周囲の人が育てると思ってます。エリオス様は、長い時間のほとんどを一人で過ごして、普通、大人になる過程で経験するようなことは何一つ経験していないでしょう?世界の時間がどれほど流れても、見た目同様、エリオス様の時間は止まったまま、少しも進んでいないんだと思うんですよねえ」


 初めて出会った時も、幼児の見た目に反して、エリオス様は、まるで赤ちゃんのような心だった。

 あの時も、ほとんど人の手で育てられず、暗くて小さな部屋に閉じ込められるばかりだったから、心が育つ機会がなかったのよね。


(うふふ、今度こそ、エリオス様に自由を教えてあげたいわね!)


 他の飼い主たちが私にそうしてくれたように、愛して、それを伝えて、楽しいことをたくさん一緒にするの!興味を共有して何かが起これば今の気持ちを伝え合って、そうして、自分を大事にしてくれる他人を介して、自分自身を知っていくのよ。


(きっとその時にやっと、エリオス様は私をルシルと呼んでくれるのではないかしら?)


 小さな子供を育てるようなものだ。野良猫として生きていた頃に、仲間たちの中のわがまま子猫を育てるのだって、私は上手だったのよ!

 私がこれからのことを想像してワクワクしていると、フェリクス様は少し不思議そうに首を傾げた。


「あなたは、ずっと昔から大賢者殿を知っているように話をするんだな。ひょっとして、以前から知り合いだったのか?」



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パワー型つよつよ聖女の新連載もよろしくお願いします(*^▽^*)!

【異世界から勇者召喚するくらいなら、私(ダメ聖女)が世界を救います!】
― 新着の感想 ―
[良い点] マオウルドット可愛い…。 [一言] エリオス様歪んでるなぁ…と思ってたけど、そりゃ小さい頃(リリーベルに会う前)からずっと閉じ込められてて、リリーベルしか接する人(猫)が居なくて、その唯一…
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