閑話_マオウルドットは遊びたい
閑話、マオウルドット視点
時系列は王都に呼び出されて出発する前、とっても忙しいんだけど、あまりにマオウルドットが呼んでくるから一回会いに行っておこうかなと思ったルシルとの一幕
元白猫リリーベル、現人間であるルシルは薄情者だ。
リリーベルの時だって、気まぐれで、自由で、ずっと側に置いておきたいのに捕まえてられなくて、オレはイライラしていた。それなのに、人間になったら、猫の時よりオレに構わないじゃないか!
一体どういうことなんだよ?納得がいかなくて、オレは何度もルシルに念話を飛ばした。なかなか返事をよこさないことにもムカついてるから、こうなったらルシルが返事してくるまで送り続けてやる!
『ルシルー、次は、いつオレに会いに来るんだよ?』
『おい、無視するな』
『お前、オレがその気になれば、こんな封印すぐに解けるんだからな!』
『ハア、分かった分かった!今からくれば、オレの一番立派に育った鱗を触らせてやってもいいけど?』
『オレはお前が寂しいかもしれないと思って仕方なく誘ってやってるんだからな!』
『……そろそろ遊ぶ気になった?』
毎日毎日そうしてたら、ルシルのやつ、やっときやがった。おまけに結局念話は返してこなかったんだけど、本当に一体どういうことだよ?薄情にもほどがあるだろう。
だって、あいつ、リリーベルの時以上に闇魔法が得意になってるだろ?なんたって人間だからな。アリス様仕様の魔力は、そりゃ猫の体より人型の方が扱いやすいに決まっているよな。
オレなんて、ドラゴンだぞ。誇り高き偉大なドラゴンなんだぞ。つまり、自分の力がでかすぎて、人の魔力を使うなんてかなり高度な技術が必要になるわけ。だって、そうだろ?人間だって、例えば蟻の顔なんて小さすぎて洗ってやれないだろ。指先よりも小さいんだから。オレがやってることは、それくらいありえないことなわけ。おまけに元々闇魔法なんて一番苦手な属性なんだぞ。どれほどオレが規格外の天才なのか、もっとよく考えてほしいよな。
そんな超絶天才で偉大なドラゴンであるオレが、リリーベルを呼び出すために覚えたのが念話なわけ。だって、あいつ、せめて二日に一回くらいは来ても許してやるよって言ったのに、放っておくと平気で一年以上来ないんだから。ああ、やっぱり、あいつはリリーベルの頃から薄情者だよ。
だけど、やっと来たんだから、楽しく遊んでやらないとだよな。
そう思って、オレは文句も言わずにルシルを歓迎してやった。
それなのに。
「だからね、せっかくだから王都へ行って、どうにか大賢者様にお会いできないかって思っているのよ」
「へー」
「ねえ、ちゃんと聞いている?大賢者様よ?すごい人なのよ?どんな人なのかな~楽しみ!まあ会えるかはまだ分からないんだけど」
「へー」
「もうっ、気のない返事ばっかり」
だって、興味ないもん。
ルシルがやっと来たから、しょーがねーからいっぱい遊んでやろうと思ってたのに。それなのに、どうしてよく知らない男の話なんて聞かされなくちゃいけないわけ?
もっと、する話は他にもあるだろ。
オレの話とかさ、ルシルの話とか、オレとルシルの話とか!
もしくはどれだけ小さな虫を見つけ出せるかの遊びとか、毒キノコを一緒に食べてどっちが先に耐え切れなくなって解毒するかの勝負とかさあ!
たまにはお前もオレの気持ちを察しろよ。そう思って黙ってくるんと丸くなる。
すると薄情者は、全く構わず話を続け始めた。分かってるよ、オレたちの魔力は繋がってるから、オレの『なんとかのフリ』は全部フリだってすぐにバレるんだ。特に、この前ルシルはオレの魔力もちょっと持っていったから、なおさらだ。
さりげなく、ルシルの匂いを嗅いでみる。うんうん、まだオレの匂い、たっぷりしている。そう簡単に消えやしないけど、多分二千年くらいはもつんじゃないかと思うけど、一応毎回こうして確認しといてやらないといけないよな。
「あー、大賢者様にお会いできたら、なんて自己紹介しようかしら?」
全く、ルシルは大賢者とやらの何に興奮してるんだか。お前、散々大魔女とか聖女とか勇者とか、わけわかんない肩書持ったやつに飼われてただろーが。
それに、断言するね。大賢者なんかより、オレの方が貴重で凄くて尊くて強くて偉大でカッコよくて素晴らしい存在だって!
「ここは、少しでも『おっ』って思ってもらいたいわよね。うーん、なんだろ。私、病気にはなりません!……は、すごさが分かりにくいか。得意な魔法を披露する!?……大賢者様の方がすごそうな気がするわよね。ええっと、そうだ!私、ドラゴンの親友なんです!これならどうかしら?」
「へっ?」
「うーん、でもそれって、私のすごさじゃないものね──」
お、おい。今、サラッと流していきやがったけど、なんだかとんでもないことを言わなかったか?
親友?親友って言った?オレのことを?偉大なドラゴンであるオレのことを?へえ?
オレは、知ってるぞ。人間の中じゃあ、親友って特別な存在なんだよな。オレらドラゴンはほとんど同種とともにいることはないからよく分からないけど、特別な存在ってことは、つまり、オレとずっと一緒にいたいってことだよな!?
「まあ?お前がどうしてもって言うなら?オレの親友だって自慢しても許してやるけど?」
「──日向ぼっこが趣味です!は、全然アピールポイントにならないか。って、マオウルドット、何か言った?」
「お前はそういうやつだよ…………」
ハア、本当にうんざりする。こいつはとんでもない薄情者だから、きっと友達なんてろくにいないに違いない。そうなると、やっぱりオレが見捨てちゃ可哀想だよな。
あーあ、封印がもうちょっと別のタイプのやつならな~。体が小さくなって、力も半分以下にされてもいいから、自由に動けるとかさ。そしたら、もっといつでもルシルの側にいてやれるのに。あとは、例えばオレが人間になれたら、もうちょっとルシルと一緒にいられるのかなー。
だって、リリーベルの時より大きくなったとはいえ、ルシルの体も何かあればすぐ消し炭になっちゃいそうなほど小さくて弱っちいだろ?
ヒナコがいつか言っていたように、オレが守ってやらないとだよな!
「あー、いっぱい話してたらお腹が空いてきちゃった!でももっと一緒に遊びたいから、マオウルドット、尻尾の先っちょちょっとだけちょうだい!」
「だから、オレは食材じゃないんだって!!」
とはいえ、聞き逃さなかったぞ。もっと一緒に遊びたいってさ!
へへへ、なかなか素直にならないんだから、世話の焼けるやつだよ、本当に。
仕方ないから、これからもお前の友達でいてやるよ!
へへ、へへへ!
こうして無自覚に振り回すルシルと無自覚に振り回されるマオウルドット!皆幸せ!




