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40_怪しい薬と思われてます?

 


 だけど、今はそんなことより目の前で苦しんでいる人のことよね。


 万能薬は闇魔法で作った空間にたくさん持ってきているし、万が一足りなくなっても、今日のためにラズ草も溢れるほど摘んできている。全員に問題なく薬を渡すことはできるはずだけれど、それでも症状の重い人から順番に飲ませてあげるべきだろう。


 そう思って私は教会で休んでいる人の様子を見渡す。こういう場合、まず大事なのは状況を把握することだからだ。

 そして、そんな中でもうひとつ気になることが見つかった。


(なんだか、レーウェンフックで同じ病に罹っていた人たちに比べると、あまり症状が重くなさそうに見えるわね?)


 もちろん、皆顔色は良くないし、辛そうに呼吸をしている様子も見られる。

 だけど、レーウェンフックでは今にも命を落としてしまうのではないかというほど、重症な人も多くいたのに、ここにはそこまで重い症状の人はいないように見える。


 実は王都の父からの手紙からも、どうにもそこまでの緊急性を感じなかった。王都の状態についても、完全な治癒はできないものの、病を回復魔法でなんとか和らげることができていると書かれてあった。

 だから、元々レーウェンフックが一番被害が重く、王都よりの場所に暮らす人達よりもレーウェンフックよりの場所に暮らす人たちの方が症状が重いのではないかと、私とフェリクス様は考えていたのだけど。


 私が不思議に思っていると、その心の内を読んだかのようにフェリクス様が説明をしてくれた。


「病の原因が分からないから、他にも理由はあるかもしれないが、レーウェンフックの民に病の症状が重く出たのは、恐らく土地に広がる呪いのせいもあったのだろう」


 そうか、そういう可能性もあるのね……。

 私はレーウェンフックに暮らしていて、土地に広がる呪いのことをあまり実感したことがないので、どうにもイメージが湧きにくいのだけれど。フェリクス様がそういうということは、その可能性が高いのだろうと納得する。

 それに、それなら王都の民の症状を回復魔法で和らげることができていることも辻褄が合うわね。というのも回復魔法が一番効果を発揮するのは怪我などの外傷で、病気は普通、専用の薬で治すのが一般的なのだ。だからこういう万能薬が重宝されるんだもの。


 クラリッサ様くらいになると、そんなことは何も関係なしに怪我も病もばんばん治していっていたけれど、そんなことができるのはやはり『聖女』と呼ばれるほど優れた能力をもつ人くらい。

 ひょっとして、エルヴィラも覚醒すればそういったことができるかもしれないけれど。


「このくらいの症状なら、万能薬を一本丸ごと飲まなくても大丈夫かもしれないですね」


 私は教会の中を見渡せる場所に立つと、声を上げて、休んでいる病人やその人たちの看護をしている人たちの注目を集める。


「皆さん、ここに、この病を治すことができる万能薬があります!これから皆さんにお配りするので、瓶の中身を半分ずつ飲んでください。元気な人は、薬を配るのを手伝っていただけますか?」


 すると、病人たちの世話をしていた教会の人たちが、訝しげな視線を私に向けた。


「この病は原因不明だと言われています。そんな病を治す薬だなんて、その万能薬の効果の保証はできているのですか?そもそもあなたは一体……?」


 ああ!私としたことが。そりゃあ、突然現れてこんなことを言っても、怪しいに決まっているわよね。

 とにかく早く病を治して楽にしてあげたい一心で焦ってしまったけれど、こういう場合はまずは自分の身分を明かして、少しでも信用してもらうのが先だったわ。


 気を取り直して、私はもう一度周囲を見渡して礼をした。


「失礼いたしました。私はルシル・グステラノラと申します。王都からの要請でこの万能薬を持っていくために向かっている途中で、この町に立ち寄りました」


 しかし、私に向けられる視線は一層厳しいものになってしまった。どうやら私の自己紹介は、残念ながらさらなる不信感を呼んでしまったらしい。


「ルシル・グステラノラ……?グステラノラ侯爵家の?あの、第二王子殿下に婚約破棄された悪女と噂の?」


 なんてこと!まさか私の名前がこんなにも有名になっていたなんて。王子のことを口にするあたり、どうやらさっきから私に疑惑の目を向けているこの女性は、貴族のご令嬢のようね。

 そうなると、もう言葉で何を言っても安心してもらうことはできないに違いない。

 ……仕方ないわね。とりあえず薬の効果がどうとかを信用してもらうより先に、この薬が人体にとって危険なものではないと分かってもらう必要があると考える。

 それで、私は万能薬を一本手に持つと、皆に見えるように大きく手を掲げた。


「はい、ご覧ください!これが先ほど紹介した、この病を治すことができる万能薬です!」


 そして、私はそれをぐいっと飲み干した。せっかく作った万能薬を、元気な私が飲むのは少しもったいない気がするけれど、背に腹は代えられない。それに、薬はまだまだたくさんあるしね。


「これで、この薬が害のあるものではないと分かっていただけましたか?」


 どうだ!とばかりに自信をもって胸を張ったのに、この場に広がったのはさらなる戸惑いの空気だった。あれ?これじゃあだめだったかしら?

 私はなんて不甲斐ないのかしらと思わず俯いて少ししょんぼりしていると、フェリクス様が私の隣に並び立ち、はげますようにそっと背中に手を添えてくれる。


 そうよね、とにかく誰か一人でも薬を試してもらわなくては。きっと、目の前で薬が効く姿を見ればわかってもらえるはずだもの。

 そう思って俯いていた顔を上げると、なにやら周りの人たちの表情がさっきとは違っていた。


「体が、光った……?」

「薬を飲んで光るなんてありえるか?やっぱり、怪しい薬なんじゃ……」

「いや、それなら自ら飲んで見せたりはしないんじゃないか?」


 ひそひそと、近くの人同士で話しているようだけれど、内容までは聞こえない。どうしたものかしらと思っていると、奥の方で座り込んでいた小さな男の子が立ち上がって言った。


「おねえちゃんは、ひょっとして、天使様なの?だから、ポワポワって、光ったの?」

「こ、こら!」


 慌てて男の子を止めているのは、この子の母親だろうか?


 すると、今度は男の子のそばから、ぴょん!と一匹の猫が飛び出してきた。

「あっ!」


 男の子が思わずといったように声を上げたけれど、猫はそんなことはお構いなしに私の側まで走り寄ってくると、「うにゃんうにゃん」と甘えた声で鳴きながら、私の足に体を擦り付けてくる。

 うーん、こんな時でも猫ちゃんは可愛いわ!無意識に焦ってしまっていた気持ちが、癒されていくわね。


 猫ちゃんは甘えながらも、ものすごく私に話しかけてくる。


「にゃあ!」

「あら、あなた、甘えるかお話しするか、ひとつずつ順番にしたら?私はもう少しここにいるつもりだから」

「にゃあ〜ん」

「えっ?あの子、ずっと病気で苦しんでいたの?」

「みゃおん」

「……そう、そうなの。でも、もう大丈夫よ!」


 私はそう話しながら、猫を抱き上げる。


 ふと気がつくと、周囲の人たちどころか、なぜかフェリクス様まで驚いたような顔をしていた。


「……あなたは、本当に猫と話ができるのだな」

「はい、この子はとってもおしゃべりな子みたいですから!」

「…………多分、そう言う問題ではない気がするが」


 周囲の人たちも、またもや口々に話し始めた。


「お、おい、動物と話してるぞ……!」

「昔読んだ本で、聖女様が動物と話すことができたって読んだことがあるわ……」

「まさか、じ、じゃあ、そういうことなのか?あの光も、そういう光だった……?」


 どうやらまだ、薬を飲んだ時に少し体が光ってしまう現象のことを話しているわね。

 私もなぜなのか分からないのよね?同じレシピでコンラッドの作った薬にはそんなことは起こらなかったのに。


 万能薬を作る工程の一つで、魔力を流す必要があるのだけど、そのときに早く良くなりますように、飲んだ人が元気になりますように!って、おまじないをしているのが変な風に作用してしまうのかしら?

 でも、たかがおまじないなのよ?


 まあともかく、副作用もなくきちんと病が治るのだから、このくらい別に問題はないわよね!




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パワー型つよつよ聖女の新連載もよろしくお願いします(*^▽^*)!

【異世界から勇者召喚するくらいなら、私(ダメ聖女)が世界を救います!】
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[良い点] 猫好きに悪いやついないのルール発動!
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