28_衝撃の事実に気付いてしまった
運命の英雄の側に寄り添っていた聖獣の正体は、(恐らく)前世の私、リリーベル。
これは、衝撃の事実に気付いてしまったわ……!
私はリリーベルとしてあんなに長く生きたのに、有名な英雄様にも聖獣様にも一度も会えなかったなんてがっかり!なんて呑気に思っていたわけだけど、それは当然よね。だって本人なんだもの!
皆は自分がそんな風に英雄だなんて呼ばれていること、気付いていたのかしら?だけど、もしも気付いていたら、ヒナコやエフレンを筆頭に、飼い主たちは大体皆、私に「褒めて褒めて!」と自慢してきそうなタイプだから、普通に知らなかったのかもしれないわね。
没後に有名になる、なんてこともよくある話だし。
というか、そもそもの話、私は飼い主たちに愛し抜かれてちょーっと長い寿命と、ちょーっと飼い主たちの能力を分けてもらっただけの、普通の白猫であり、聖獣様なんていうすごい存在ではないのだ。
まあ、とっても可愛かったから、白猫リリーベルが愛すべき尊き存在だったというのはそんなに否定しないけれど。
「ルシルお姉様?どうかしたの?」
アリーチェ様に声をかけられて我に返る。いけないいけない。驚いて固まってしまっていたわ。
私はなんでもないですと微笑み、運命の英雄についての書物を読み漁った。
ちなみに文献の最後は、大体どれも『聖獣様はいなくなってしまった』といった内容で終わっている。中には最後の英雄が聖獣様の怒りを買ったのではないかと考察じみた内容を書いているものもある。
(いや違うから!私は怒っていなくなったんじゃなくて、死んだだけだから!!)
ところで、この場合の『最後の英雄』って、いったい誰のことを指しているのかしら?
だって、私は全ての飼い主の最後を見送って来たわけでしょう?そうすることができなかったのは、最後の飼い主であり、孤児で名前のなかった、あの魂の綺麗な男の子だけ。
だけど、私がいなくなった時はまだほんの子供だったあの子。それに、二人で過ごした時間もそこまで長くなく、一緒にいる時は小さくて暗い部屋で、寄り添って丸くなっていたことがほとんどで、ほんの何回かしか外に出たことはなく、他の皆のように一緒に旅したり、人前に出たりなんてしなかったし。もしも私が死ななかったら、あの子とも色んな所で色んな楽しいことをしたかったとは思うけどね。
だから、あの子が運命の英雄だと思われている可能性はほとんどないのではないかしら?
(ハッ!まさか、私の知らない私の飼い主が存在している……!?)
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「というわけで、マオウルドット、あなた何か知らない?」
「知らねえよ……」
マオウルドットは呆れたような顔で言う。
どうしても気になって気になって気になってたまらなくなってしまった私は、唯一私がリリーベルだった時のことを知っているマオウルドットに会いに来ていた。
ともにアリス様の魔力を強めに受け継いでいるので、闇魔法の応用でその気になれば念話で会話が出来る私たち。実はずうっと、『会いに来い』『話し相手になって』『……いつになったら来てくれるの?』と段々弱々しくなる念話を受け取っていたので、そろそろ会いに来ようと思っていたところだったのだ。
リリーベル時代もこうしてよく呼び出されてたわよね。
「いや、それより、おい、ちょっと待て、は?」
マオウルドットは私の話をろくに聞かず、目を見開いた。
「どうしたの?」
「なんだよ、あれ」
マオウルドットの視線の先には、少し離れた場所に待機しているフェリクス様がいた。
私は一人で馬に乗ってここに来ようと思っていたのだけど、万が一魔物が出てはいけないから、と心配して一緒に付いてきてくれたのだ。うふふ!見た目はいかにも堅物って感じで怖そうに見えるのに、意外と心配性で優しいわよね、フェリクス様って!
内緒の話──リリーベルの話をするために、こうして少し離れたところで待ってもらっているわけだけど。
「フェリクス様がどうかしたの?」
「いやいやいや!うわ!は?嫌すぎるんだけど!なんだよアイツ。すげーやだ!!!」
「はあ……?」
なにがなにやら分からないけど、フェリクス様を見て急に取り乱し、みるみるうちに不機嫌になっていくマオウルドット。
一体何が気に入らないのやら……?
次回マオウルドット視点




