112_女王陛下の教育(という名の試験)とっても楽しかった!
女王陛下にお呼ばれしたときはどうなるかと思ったけど、なんとかなったわね!
直々にオレリア殿下のお側につくことを認められて、私はとっても上機嫌だった。
だって、こっそり潜り込むよりも、きちんと認めてもらえるならその方がいいに決まっているもの。
教育とは言っていたけど、どう見ても私を試していることが分かったから、実を言うと結構ドキドキ緊張していたのだ。
失敗して正式に失格を言い渡されちゃったりしたら、もはやこっそりオレリア殿下の側にいることすらできなくなっちゃうと思って。
(だけど、全部そんなに難しくない内容ばかりで本当に良かったわ~)
むしろ、とっても楽しかった!
紅茶はマシューが好きだったんだよね。天才料理人の腕はもちろん飲み物にも生かされていて、とっても美味しい紅茶を淹れるコツを何度も私に教えてくれたっけ。もちろん、猫だった頃の私に紅茶なんて淹れられるわけもなかったけれど、「リリーベルと一緒に淹れた紅茶は格別に美味いな!」とマシュー大喜びするのが嬉しくて、いつも手伝ってあげてたんだよね。実は、内緒のコツは魔力。だからリリーベルにもお手伝いができて楽しかったなあ。
おまけに今日用意されていたのは珍しい紅茶だったけど、コンラッドが「この紅茶は特別だけど、だからこそ人気なんだよ」とかいいながら取り扱っていたからよく覚えていたし。
毒も、錬金術師でもあったコンラッドがよく扱っていた。クラリッサ様も毒は好きだったし、ローゼリアも毒には詳しかったわよね。
ローゼリアってば一応王女様なのにすーぐお忍びで一人でふらりと出掛けちゃうから、狙われることも多くって。だけど「自由を奪われるなんて冗談じゃないわ!」なんて言って、いつだって自分でどうにかできるように毒の知識はすごく豊富だったんだよね。
何度も何度も死にかけながら毒との最適な付き合い方とやらを探すもんだから、どれだけ私がお手伝いしてあげたことか!
今思い返しても、私がアリス様の闇魔法やクラリッサ様の聖魔法、マシューやコンラッドの知識を覚えていなかったら、ローゼリアは1000回以上死んでたに違いない。
だけど……あの日々を思い出しながら、毒の入った料理を堪能するの、実はとっても楽しかった。
全部ものすごく美味しかったし。あ、あんなに食べたのに、思い出すとよだれが……いけない、いけない。
その後だって、リリーベルの頃から逃げるのは得意だったから、すっごく強いメイドさんとの手合わせはなんとか切り抜けられたし、剣の訓練はとにかく楽しかった。
エフレンが剣で敵をバッタバッタと倒していく姿、実はかっこいいなって思ってずっと羨ましかったんだよね。でも、私は剣を握れなかったから、いつだって目に焼き付けていた。
そうなったらもう、基礎を教えてもらえたらこっちのものだわ!
なんたって、私は自分の体を思った通りに動かすのが大の得意だから!猫の身体能力は素晴らしいのです。
礼儀作法を教えてもらえなかったことだけがちょっと残念。
一応、ローゼリアの真似をしてみたけど……スラン王国は元々ローゼリアの祖国だったわけだから、マナー違反は少なくともないはず。作法も時代で変わっていくから、古臭いとは思われちゃったかもしれないけど、あとはまあオレリア殿下に教えてもらえばいいよね。
そんな風に、今日のことをすごく楽しく思い返しながらオレリア殿下の元へ戻ったんだけれど。
「──ルシル様!」
女王陛下のメイドさんに案内してもらって、オレリア殿下の部屋に到着したところ、扉を開けるまでもなくオレリア殿下が飛び出してきた。
「わわ!オレリア殿下!?どうかされたんですか?」
「どうかされたんですかって……心配していたんです!」
あ……なるほど。
オレリア殿下の反応に、ちょっと反省しました。
そりゃそうだよね、あの流れでさっさと連れていかれて、なんとも思わず平気で待っていられるわけがない。
部屋に入れてもらってソファに並んで座り、いまだに不安そうなオレリア殿下を安心させてあげるべく、私はえっへんと胸をはる。
「女王陛下直々にオレリア殿下のお側にいても良いとお墨付きをもらってきました!」
「ええっ!?」
おっと、オレリア殿下、目をまんまるに丸くしちゃっていとかわゆし!
だけど、何もそんなに驚かなくても。
「あの陛下が、お墨付きを……?あんな風に呼びつけるだなんて、教育と称していびって追い出すつもりなのだとばかり……」
すごく戸惑ってそんなことをぶつぶつ言っているけど、母親に対する印象が辛辣だわ!?
ひょっとして、二人の間には過去になにかあったのかしら?
「とにかく、明日からオレリア殿下のお側にいますから。お話はその時にゆっくり聞きます。その上で、オレリア殿下の抱える問題を一緒に解決していきましょうね」
「ルシル様……」
「きっとどうにかしてみせますから、どんと任せてください!」
まだ問題がなんなのかは分からないけど……だけど、どちらにしろそれを解決できなければ、スランは滅びるし、妖精は消え去るし、私は死ぬに違いない。予知夢のようにね。
つまり、やってのけるしか選択肢はないのである。それなら、不安に思うよりも「絶対に大丈夫!」と信じてあとは前向きに頑張るだけだわ!
「だから、今日は安心してゆっくり眠ってくださいね。最初にお会いした時から気になっていましたが、オレリア殿下、少し顔色がよくありません。……そうだ!」
私はふと思いついて、闇魔法で作った空間に手を突っ込み、目当てのものを取り出した。
「え、ええっ!?今のはまさか、伝説の空間魔法……!?」
うーん、空間魔法とはちょっと違うと思うんだけど、まあいいや。今から説明するとオレリア殿下の就寝時間が遅くなってしまうし。
そう思い、オレリア殿下の驚きは聞こえなかったことにして、私は取り出したものを差し出した。
「これは……?」
「緊張がほぐれて、安眠できるように、私が作った特製のサシェです!この後はゆっくりお風呂に入って、ぜひこれを枕元に置いて眠ってくださいね」
実はこのサシェ、何種類かあるんだけど、オレリア殿下の顔色からして、きっとこれがぴったりだわ!
「ルシル様……何から何まで、本当にありがとうございます……!」
「オレリア殿下、明日からは私はオレリア殿下の専属メイドなので、ルシルと呼んでくださいね?さあ、今からすぐに練習ですよ!もちろん敬語もナシですから!」
「ふふ、分かったわ、ルシル」
少しだけ憂いの晴れたお顔を見て、私はオレリア殿下の部屋を後にした。
しかし、私にはもうちょっとだけやることがあるのである。




