106_意外な事実にびっくりです
「どうか、どうか……私を助けてくださいませんか!!!」
縋るような、悲痛な叫びを受けた後。
私は……スラン王城に足を踏み入れていた。
はわあー!まさかの展開!こんなに簡単に王城に入れてしまうなんて!
一時は大賢者の肩書きが使えなくてどうしようかしらと思っていたけれど、やっぱり大賢者の肩書きは大きかったわね!
自分の強運さに思わずニマニマしていると、隣を歩いているフェリクス様が何ともいえない複雑な顔で私を見つめた。
「……それにしても、ルシルがメイドなどと……」
そう、今私はスラン王城のメイド服を着ている。これにはちょっとばかし理由があって……。
いえ、今はそれよりも、フェリクス様の表情と、不満溢れる言い方がとっても気になるわね。
「えー!似合ってませんか?このメイド服」
私はスカート部分をちょんとつまみ、自分の体を見下ろしてみる。
スラン王城に務めるメイドに支給されるメイド服、結構可愛いのよね!
「いや、似合っているが……というか、ルシルならば何でも似合うだろうが」
おやおや、フェリクス様ってばそんなお世辞も言えたんですね?なかなかいいですよ!オレリア殿下の心もきっとつかめるに違いない。
カイン様も、そんなフェリクス様にどこか満足げに頷いている。
まあ、実際の所私も自分でなかなか悪くないのでは?と思っているのだけれど。
ふっふっふ!メイド服も似合ってしまう私!リリーベルの時だって、色んな猫ちゃん用お洋服を飼い主たちの周りの人たちに献上されて着たことがあったけれど、どんなものでも着こなしちゃってたものね。
そんな私たちの会話が聞こえたようで、前を歩いていたオレリア殿下が申し訳なさそうに振り向いた。
「本当に申し訳ございません……大賢者様にこのような格好をさせてしまって……」
大賢者、というワードだけとても小さな声で言っているオレリア殿下。
それもそのはず、どこで聞かれているか分からないからだ。誰かに聞かれてしまうと、耳に入ってしまう可能性がある。
大賢者に不信感を抱き、この王城に決して入れるべからずとお触れを出した……オレリア殿下のお母様、現女王陛下の耳に。
それこそが、私が今メイド服を着ている理由でもあった。
どうやら、大賢者に対して誰よりも強く不信感を抱いているのが、何を隠そう女王陛下らしいのだ。もっと言うと女王陛下がそうであるからこそ、他の人たちにもその不信感が伝播している部分もありそうだなと思う。
けれど、オレリア殿下の手助けをするにはお側にいる必要があるため、手っ取り早くそうするにはどうしたらいいか?と相談したところ……こうなったのよね。
例えば客人として招いていただいても、四六時中側にいることは難しいから。
というわけで、メイド服に着替えた私は、オレリア殿下が私に助けて欲しいと考える「ご事情」をゆっくりと聞くため、彼女の自室に向かっているところだった。
さすがに誰に聞かれるかわからない外では話せないもの。
王城は広いので、誰かに見られても新しい専属メイドだと思われるだろう。
ちなみにフェリクス様とカイン様は堂々と客人として扱われている。まあ、今はともかく、フェリクス様がずっとオレリア殿下の側に侍るわけにはいかないので、それで問題ないということである。
猫ちゃんたちは王城についてすぐ、大はしゃぎで遊びに出かけてしまった。ふふふ、自由なところもいとかわゆし!
まあ嫌がるマオウルドットにお願いして様子を見ててもらってるので大丈夫でしょう。あの子たちはただの猫ちゃんじゃないわけだしね。
そうして王城の奥へ進み……
(え、ええええ!?!?)
私は思わず心の中で絶叫してしまった。
オレリア殿下の自室に向かう途中、大きな階段の下に、大きな絵画が飾られていたのだ。
薄い紫色の髪、甘やかなピンク色の瞳、少女のようなあどけなさも持ち合わせた、華やかな美少女が、ドレス姿で微笑んでいる……
「ロ、ローゼリアじゃないの!」
そこに描かれていたのは、間違いなく、私の元飼い主の一人、ローゼリアの姿だった。
驚きすぎて一瞬見落としたけれど、その膝には真っ白い猫を抱いているので、さらに間違いない。これ、リリーベルだもの!
えっ、ちょっと待って!?
街並みも、王城もすっかり変わっているから気づかなかったけれど……まさか、スラン王国って、ローゼリアの故国なの!?!?




