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生還

己の眼に映った彼女の姿に、一瞬にして我を忘れた。気付いたときには我は彼女の体を抱き締めていた。その周りに飛び散る血沫や肉片、そして小屋の隅で下半身を濡らし怯える婬魔の姿など、まったく気にもとめず、ただただ、小さな口から流れ出る彼女の命を留めることにのみ集中した。


「我を置いて逝くのは赦さぬぞ。そなたは我の半身、我の隣に永劫居なければならない。・・・これからすることにそなたは怒るかもしれぬが、それでもそなたをこのまま喪うことは我には出来ぬ」


我は己の舌を咬み切り、溢れる血に魔力を乗せて彼女の口の中へと流し込んだ。初めての口付けがこのような些末な場所などと、きっと彼女は怒るだろう。次はもっと美しい場所で思い出に残るようなものにしよう。我はそんなことを考えながら更に彼女に魔力を送る。暫く血と魔力を送っていたからか、青白く生気の感じられなかった彼女の肌はほんのり紅く染まり、いつものような温もりを取り戻していた。


彼女の生を取り戻せたことに安堵したと共に、彼女の知らぬ間に彼女を人ではあらぬ者へと変えてしまったことへの罪悪感が芽生える。そのような感情は以前の我には存在しないものであった。新たな感情に戸惑いながらも擽ったいような感覚に、また一つ、彼女によって作り替えられた己の心が満たされる。この先もきっと彼女が傍にいれば我は満たされ続ける。


だがその前にやらなければならぬことがあると、漸く冷静に物事が判断できるようになった頭で思い出した。我は眠る彼女の頬をさらりと撫でると元凶である女に鋭い視線を送った。


「我の妃を拉致し、恥辱を与え、死を選ばせた。その罪は重い。そなたには罰を与えよう。殺しはしない。死を望むほど苦しめて天寿をまっとうするまで永劫、苦しめ続けてやろう」

「あ・・・っ、へ、いか、お許しくださ・・・・」


耳障りの悪い声を遮るように女を城のある場所に転移させ、我は彼女の軽やかな身体を持ち上げる。


「そなたの瞳と揃いのドレスを作らせた。きっとよく似合う。だから・・・」


その言葉の続きは彼女の唇へ消えていった。



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