黒の救世主
だいぶ遅くなりました!!難産にも程がある!!
薄汚い古びた部屋で軋むベッド。そのベッドで体を揺らしているのは銀髪紫眼の女。絶えず上がる嬌声は決して本人が望んで出しているものではない。悲鳴ばかりでは興が削がれると婬魔の体液を摂取させられ、すべての刺激が快感に変わるように作り替えられたのだ。
かつてその美貌で国中の男を虜にし、望めばなんだって手に入った公爵令嬢の姿は最早形すら残していない。あるのは魔族の欲をその体に一身に受け続ける憐れな女の姿だけ。その身に魔族の子供を宿し続ける。いつか訪れる解放があると信じて、最早光の宿らない瞳から涙を流すのだった。
本来迎えるべきだった私の末路が一瞬で脳裏を駆け巡る。少し過程は違えども、訪れる未来はやはり変えられないのだろうかと絶望する。
俯き、長い髪で表情の見えなくなった私を嘲笑うように婬魔は獣人達をけしかける。
「さあ、私がほしいならまずはこの女からよ。人間にしては見れる容姿だし貴方達も楽しめるんじゃない?」
婬魔は魔力で彼等を操り、身動きの出来ない私を襲わせた。
「うふふっ、とても素敵な光景よ?やっぱり貴女みたいな低俗な存在は、こうやって私達の餌になるのが相応しいわね」
クスクス笑いながら場違いな椅子に腰かける婬魔。彼女からしてみれば今の私の状況は実に喜ばしいものであろうことは安易に想像できる。地べたに横たえ、自分よりも劣ると勝手に思っている獣人に好きにされているその姿は、彼女の虚栄心を満足させるのか、その笑みは更に更に深く醜く妖艶になる。
だが一つ誤算だったのは私の着ているドレスがかなりの防御力を持っていたことだろう。力の強い獣人ですら解れしか作れないそのドレスに、彼の私に対する執着が垣間見えるようで胸の奥が温かくなる。
「まったく、何時まで遊んでいるつもり?私が欲しいならさっさとその人間を犯してしまいなさい!!」
婬魔の瞳の色が一瞬変わったと思ったら緩慢だった獣人の動きが変わった。まるで死の淵に立たされた手負いの獣のように、すべての動き、力が増したのだ。それにより引き裂かれていく美しいドレスに焦りが生まれる。このままでは婬魔の望む通りになってしまう・・・と。
引き裂き音とともに見る影もなくなったドレスであったものを見て悲しくなる。彼の私への想いも、このドレスのように千切れて消えてしまうのではないかと、色のない瞳で、まるで物を見るみたいに私を見るのではないかと。
「漸く楽しいものが見られるわね。獣に犯され啼いて悦ぶ姿を早く見せてちょうだい?」
全身を獣人に舐められ、嫌悪する。しかし身体はそんな心とは裏腹に敏感な部分を刺激され反応してしまう。
このまま好きにされるくらいなら舌を噛み切って死のう。彼は悲しむだろうが私にも公爵令嬢としての誇り(プライド)がある。暴漢に犯され生きていく恥より、公爵令嬢の誇りを持ったまま死にたい。それに、彼ならば私の意志を尊重して、理解してくれるだろうと信じていた。
ただひとつ、心残りがあるとすれば、彼に「愛している」と伝えられなかったことだけ。きっと私は、初めて彼に出会ったあの時から惹かれていたのだと思う。ただ素直になれず、彼が私を愛していたことに胡座をかいていた。だから罰がくだったのだ。彼に愛を伝えることを許さない・・・いや、それを乞うことすらしてはいけないという罰が。だがそれも仕方ないと受け入れる。私の行動の結果がこれであるならば、私は受け入れるしかない。
「・・・ガイナリウス様、愛しています」
誰の耳にも届かない、自身に響くだけの言葉だけど、私は満足だった。初めて口にしたその愛が想い人に届くことはなくとも、彼を愛した真実は私の中へ確かに染み渡ったのだから。
獣人により割り開かれた両足に、覚悟を決める。骸は汚されても魂までは汚させない。その思いが死への恐怖を薄れさせる。熱いなにかが下肢に触れたと同時に、私は力の限りで舌を噛み切った。
それと同時に生じた破壊音となにかが悲鳴をあげる。なにかが何なのか、激しい痛みと急速に失われていく血液に意識を持っていかれ考えることもできない。ただ、
「クリスティーナ!!」
聞きたかった彼の声が聞こえた気がした。そして真上から覗き込む彼の瞳に、もう、出血しすぎて動かすことも出来なかった口角が上がるのを感じた。
口を開いた私から出るものは言葉ではなく溜まった血液。彼が必死な形相でなにかを言っていたけど、それがなにかなんて分からないし、最早伝えるだけの気力も生命力も残されていない。それでも伝えたかった。
―愛してくれてありがとう―
彼の紅い瞳から透明な雫が落ちるのを見守り、私の意識は暗い暗い闇の中へと沈んでいった。
約1ヶ月ぶりの更新すみません!!ホワイトデーまでは鬼のように忙しくてなにかをする気力が起きず、終わったらその反動でぶっ倒れるという魔のスパイラルでこんなに遅くなりました。あれが燃え尽き症候群なんだなぁと思いました(^o^;)もうそろそろラストが近いので自身に課していた目標は達成できそうで良かったです。終わりに向けて頑張ります!!




