屈辱
遅くなりまして申し訳ないです。今回は婬魔のフレイラ視点です。
「ちょっと!!こんなところに連れてきてどうするつもりよ!!」
私がヴァンパイア族の男に連れてこられたのは窓のないだけの一見普通の部屋だけれど、魔力を封じる仕掛けがしてあるのか先程から体に力が入らないような感覚がする。こんな部屋に長居したくなくて男の向こう側にある扉から出てしまいたいけれど、魔力も使えない【人間】のように無力な今の私では、単純な力ですら負けてしまう。苛立ちがじわじわと湧き上がって威嚇するように男を睨み付ける。しかし当の男は此方の睨みにピクリとも反応せずに冷徹な視線で私を見下ろした。
「お前には此処で礼儀というものを根本からやり直してもらう。本来ならば他所でやらせたいところだが、間違ってまたも両陛下の御前にその面を出させるわけにもいかないのでな」
「礼儀?私は婬魔の中でも上位にいるのよ?今更そんなもの必要ではないわ!」
私は見た目だけじゃなく家柄も申し分ないのよ。それこそ陛下の御側に侍る程度にはね。しかし私の言葉が通じないかのように男は二の句を嗣ぐ。
「本来ならば此方から、礼儀作法に厳しい者を教育係に選ぶべきなのだが妃陛下はお優しい。お前の身内から教育係を選出することをお許しになられた。同種族ならお前も受け入れやすいだろうというご判断だ。無駄にすることのないように」
また、またあの女のせいなのね。私が陛下のもとから連れ出されたのも、こんな部屋に閉じ込められることになったのも・・・たかが人間の分際で!!
「・・・私や陛下ならお前の命なぞ妃陛下への失言の時点で跡形もなく消し去っていた。こうやって今、お前の命が長らいでいるのは間違いなく妃陛下のお陰だというのに・・・」
あの女のお蔭ですって?違うわ。あの女さえいなければ私はこんな惨めな場所にはいなかった!!こんな辱しめも受けることはなかったのよ!!
「教育係は既に呼んである。少しはまともになれるように努力するのだな。ああそうだ。この部屋の扉には門兵がいるが、力を使って誘惑しようとしても無駄だぞ。もとよりこの部屋では魔力は生み出せないうえ兵はヴァンパイア族の者から選んである。このような言い方はあまり好ましくはないが、婬魔とヴァンパイアではそもそもの格が違う。お前如きの力では僅かでも同胞の精神は動かせないだろう」
男はそう言うと背を向けて門の向こうへ消えていった。
「なんなのよっ!!あんな人間の女の言うことなんか信じちゃって!!私は婬魔族のフレイラ・アーチェよ!?人間の女と魔族の私なら当然私の方が格上じゃないの!!それなのに・・・それなのに陛下も宰相も・・・っ!!あの女さえいなければっ!!」
苛立ちを表すように手当たり次第物を扉へ投げつける。それでも治まらない怒りの矛先は当然陛下の隣にいたあの女へと向かう。陛下に愛しげに見つめられ毅然と立つ女の姿が瞼の裏に焼き付いて離れない。
「そうよ、あの女さえいなければきっと陛下も目を覚ましてくださるわ!陛下に相応しいのは脆弱な人間の女なんかじゃない・・・美しいこの私よ!!ふふっ、簡単なことじゃないのぉ。消しちゃえばいいのよね。でもただ消しちゃうんじゃあつまらないわぁ。私が受けたこの屈辱を倍にして返してやらなくちゃ!!そうと決まったらこんなところでのんびりしていられないわぁ。さっさと出て計画を立てなくちゃ!!」
せいぜい今のうちに残りの時間を楽しんでいればいいわ。私が此処から出たら生きていることに絶望するくらいぐちゃぐちゃにしてやるんだから。
あの澄ました顔が恐怖と絶望で歪む様を思い浮かべ、私は牢獄の如き部屋の中で高笑いした。
やっぱり年末になると忙しいですね。やることいっぱいありすぎてなんも手につかない状態です。今月もう一回あげられたらいいなぁという希望的観測。それか番外編みたいなのでもやっておこうかなと思案中。




