破滅の一歩
前回はガイナリアス視点、今回はまたクリスティーナ視点に戻ります。
私は今にも目の前の女を殺さんとするガイナリアスを引き留める。こんなことで命を奪うのは可哀想だとかそういうことではない。ただ虚勢をはり喚き散らす憐れな女を彼が直接手を下すのが、些か不愉快に感じたせいだ。
「なにを言っても解らぬモノなど不要であろう?」
「それも一つの考えですけれど、直ぐに命を奪うよりは学ぶ機会を与えて差し上げてもよろしいと思いますの。マイヤーズ、同じ婬魔の種族で礼儀を教えることができる人はいるのですか?」
プライドの高いこの婬魔の女が他の種族から教えを請う姿は想像できない。ならば同じ婬魔の中に常識を持ち合わせた者がいないかと、気配を消していたマイヤーズへと声をかけた。
「そうですね・・・種族長やそれに近しい者ならば。今回の失態も含み伝令を出しましょう。それまではこの者は地下牢にでも投げ込んでおきましょう」
「なにを言っているの!!そんなこと許されるはずがないじゃない!!」
髪を逆撫でて此方を威嚇するように睨み付け、さらに大声で叫びだす。
「許されるのですよ。なぜなら貴女は召喚されたわけでもないのに陛下の御前に、更に言えば陛下の客人である私に暴言を吐いたのですもの。これが人間世界であるならば不法侵入罪、侮辱罪が相当でしょう。直ちに首を断ち切られないだけ幸運だと思いなさい」
「人間世界?あんた人間なの!?魔力が感じられないと思っていたけれど人間ならあるはずがないわよねぇ・・・あっはは、人間ごときが私に偉そうな口を聞くじゃない?自分ではなにもできない脆弱な分際で!!ひ弱な人間が魔王陛下のお客人ですって?冗談はその貧相な体だけにしてほしいわぁ」
甲高い声が耳に響き不快になる。思わず眉を歪めるが目の前の女はまだまだ余裕があるのか上機嫌に嗤う。やはり無理矢理にでも矯正をしないと駄目だと、マイヤーズへと視線を送る。すると瞬時に私の考えを読みとったマイヤーズは女を拘束した。あまりの早業に女も驚く。
「ちょっと!!気安く触らないでよ!!」
「これ以上陛下のご気分を害されると此方が困るのでね。では、陛下、妃陛下、失礼致しました」
女を拘束したまま一礼すると、マイヤーズは女諸とも姿を消した。
「クリスティーナは優しすぎる。あんなモノ、一つ消しただけならたいした問題でもないだろうに」
「ガイナリアス様にはそうかもしれませんけれど、私は魔族の数がどれほどなのか知りませんし、奪わなくても問題ない命でしたら残して活用すべきだと思ったまでです」
二人の居なくなった場所を不満げに見つめる彼ににこやかに微笑む。すると彼は表情を一気に変え、蕩けるような柔らかい笑顔で私を見つめた。
「そうか・・・我にはない考えをクリスティーナは持っているのだな。我の妃となるそなたの意志も尊重せねばならぬか。今回のことはそなたに任せてみるとしよう」
「ありがとうございます」
「しかし・・・」
柔らかい表情から一変、見たこともない冷酷な瞳で女のいた場所を射抜く。
「万が一、またそなたに害をなそうとした場合は・・・我の権限で処罰をする。それでよいか?」
「勿論ですわ」
折角与えられた機会を生かせなかった女が悪いのだから。




