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纏う怒り

「貴様、誰に向かってそのような口をきいている」

「陛下?」

「我がいつ、貴様に口を開いていいと言った」



怒りをこの身に宿したのはいつぶりであろうか・・・いや、初めてやもしれぬ。今にも目の前にいる婬魔の女を引き裂いてやりたいという衝動が渦巻くが、我の横で凛と立つクリスティーナに醜いものを見せられぬとぐっと我慢をする。


我等魔族は人間のように身分などは然程気にはしない。種族間の確執などはあれど優劣はないと我は思っていた。しかしそれは間違いであった。それはこの婬魔の女の発言で明らかである。それにしても同じ女だというのにこうも違うのかと呆れてしまう。まるですべてにおいて自分の方がクリスティーナより優れているかの言動をする婬魔の女。だが婬魔ならばそれは当然のことだろう。婬魔はその容姿で相手を誘惑する種族だ。寧ろすべて劣ってしまうならば婬魔など辞めてしまえばいいとも思っている。だが我にはクリスティーナの方が圧倒的に魅力があると断言できる。美しき銀糸の髪に我を捕らえて離さない紫水晶眼(アメジストアイ)。鈴を転がしたような甘い声に触れれば壊れてしまいそうな白く柔らかい身体。そして幼き頃より身につけてきた洗練された動作、彼女を構成しているすべてが愛おしく狂おしい。


だからこそ赦しがたい。我の妃を、唯一の存在を貶めようとし我に媚を売るこの女が。クリスティーナは優しいゆえ愚かな女に反省を促すが愚かな女にはそんな優しい彼女の声は届かない。それどころか更に彼女に罵声を浴びせる。


もう良いのではないか?このような存在しなくても構わないものは今すぐ消してしまっても。彼女が血で汚れてしまっては可哀想だから塵にして消滅させてやろうか・・・それともあの女の周りに強力な結界を張り重力操作をし押し潰してしまおうか。我が頭の中で様々な方法でこの婬魔をどう消そうか考えている間にも、彼女を罵り見下した眼を向ける。我の怒りと共に抑えきれない魔力が身体の外へと溢れ出す。我の変化に直ぐ様気付いたマイヤーズがさっと身を引き、己に被害が及ばないように結界を張る。その判断は正しい。クリスティーナへの結界は念入りに張っても、マイヤーズにまで気を回すことはないだろうからな。それに引き換え、この婬魔は我の放つ魔力にすら気付いてはいないようだ。婬魔の中でも底辺に位置しているのであろう。ただ容姿が優れているという点のみでなんとか婬魔として認められているというところか。婬魔の数がまた一つ減るが問題はないだろう。こんなモノよりクリスティーナが産む子の方が余程美しく、そして有能であろうからな。


我はもう目の前の存在を不要と判断し、消滅させるために己の右手に魔力を集中させる。あとはもうそれを目の前のモノに放つだけだ。我は静かに右手をあげようとした・・・。しかしそれは隣に立つ愛しい存在によって止められた。


「いけまけんわガイナリアス様」

「・・・しかしアレは我の妃を愚弄したのだぞ?痛みを感じることなく消し去るだけの温情を与えるだけましであろう?」


本来ならば簡単に消すことなく、殺してほしいと懇願させるまで死の一歩手前まで痛めつけることが望みなのだが、この場で消して彼女にこの先嫌な思いをさせないことの方が重要だと判断し、それを実行しようとしたのだがそれを止められた。優しいクリスティーナだからじわじわと痛めつけるやり方を望んでいるとは思えない。いくら優しいからと明らかな悪心を抱く相手すら許すのは、我は理解できぬ。

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