名を呼ぶ
今回は若干短めです。
「魔族の方はお食事はされないのではなかったですか?」
目の前に広がるそれは少し見た目は違うものの、普段私が口にしているそれらとなんら変わりはないように思えた。鮮やかすぎる果物に視線を定めたまま、私はそっと呟いた。
「種族によってはこういったものを好んで食するのだ。我も糧にはならぬが、たまに嗜好品として口にするな」
そうなのですね、とまた呟きながら少しだけ勇気を出してスプーンで掬った果物を口に含んだ。見た目の派手さからは想像できないさっぱりとした酸味と甘味に、この果物は好きな部類にカテゴライズされた。
「気に入ったようで良かった。食事が済んだら、この城を案内しよう。まだそなたの知識はこの城のごく一部しかないだろう?」
「魔王陛下自ら案内などされなくとも・・・」
「我の妃を我が案内しなくて誰がする。それに、人間の気配を纏ったそなたを我から離すのはまだ危険だからな」
そういえば、私はまだこの魔王と宰相であるヴァンパイア、そして私の専属侍女だというミレイユしか会っていないことを思い出した。隔絶された世界の魔族というものが人間である私をどう捉えるかは分からない。もしかしたら敵だと認識され殺されてしまうかもしれない。改めて直面した自分の危うい立ち位置に体が震えた。私の青ざめた顔を見て、魔王は優しい声色で安心させるように言葉を紡いだ。
「我がそなたを護る。だからそのような顔をせずともよい」
「陛下・・・」
少しだけ、ほんの少しだけ胸の奥がきゅんとする。
「名で・・・呼んでほしい。ガイナリアスと、その愛らしい唇で我の名を呼んではくれぬか?」
「・・・・・・ガイナリアス、様」
先程の護る発言に若干ほだされてしまった私は、魔王の小さな願いをあっさりと受け入れてしまった。名を呼んだ後でやはりいけないと思うも、嬉しそうに目を細める魔王を見てしまったら、やはり駄目ですとは言えなくなってしまった。
「ああ、やはりそなたに我の名を呼ばれるのは心地好い。その声を聞いた時からずっと、名を呼んでほしかったのだ。これからも、我の名を口に出来るのはそなただけだ、クリスティーナ」
どうやら私は自らの逃げ道を塞いでしまったようだ。後悔してももう遅いが、うっとりと此方を見る魔王に、やっぱりほだされてしまうのだった。
クリスティーナさん、どんどん魔王様にほだされています。そして魔王様はクリスティーナに名前を呼んでもらって大層嬉しそうです。対等である感じがしてそれがいいのでしょうね。現在のパラメーターは15%といったところでしょうか。頑張れ魔王様!!




