ドレスと私
ミレイユが選んだドレスは、何故だか私の体にぴたりと合っていた。それがとても気味が悪く感じるも、ここは私の常識が通じる場所ではなかったと思い言葉にするのをやめそっと胸にしまった。
「なんだか落ち着かないわ・・・」
「人間はコルセットなるものをお使いになられるのですよね。クリスティーナ様もそれにお慣れになっていたのですから、違和感を感じるのも仕方ありませんわ」
そう。今私はコルセットを着けていない。なので肌に布の感覚が直接伝わり、それがとても居心地が悪いのだ。そしてまるで裸でいるような錯覚さえしてしまい、恥ずかしさから頬が紅くなる。
「準備も整いましたので陛下をお呼び致しましょう」
「え、あ・・・そうね」
そう言えば着替えたら呼ぶようにと言われていたことをすっかり忘れていた。すっと動くミレイユを目で追いながら空返事をした。ミレイユはノックをした後二言三言分口を開くとすぐに此方の部屋のドアから出ていってしまった。そして少し間が開いた後、続き部屋のドアの方が音を立てて開き、先程の服装とは異なる魔王が麗しい微笑みを称えて此方に向かって足を進めてきた。
「よく似合っている。この銀色の髪には夜蝶の繭の布で出来たドレスが似合うと思っていたのだ」
「これ、私の為に用意してくださったのですか?」
聞いたこともない布の名前を出されたけれど、どうやらもともとあったものではなく、魔王が自ら選んでくれたもののようだった。
「そなたの身体の記録はあったからな。それに合わせ様々な型のドレスを作らせておいたのだが、そなたを一目見た瞬間にこれを着せたかったのだ」
するり、するりとミレイユが綺麗に整えた髪を指に絡め弄びながら紅い瞳に感情を乗せ、嘗めるように全身を見渡した。その視線に犯され羞恥から身を捩ると、魔王は髪に触れていた手を下に降ろし背を伝って腰に置いた。
「やはり柔らかな感触の方が良いな。これからはコルセットなるものは着けぬように。まあ、此方にはそのようなものを着ける変わり者はおらぬがな」
「ですが、その、恥ずかしいですわ。コルセットは就寝以外では当たり前のように身に付けておりましたから」
だから着けたら駄目かと視線で訴えてみても、とても素晴らしいお顔を少しだけ緩めて微笑むだけで許可してはくれなかった。きっと私が此方へ着たときのものはすでに廃棄されているのだろうと静かに息を吐いた。
「あの、どちらへ行かれるのですか?」
魔王に連れられて静かな廊下を歩く。手を繋がれ、長い脚に見合う歩幅で歩かれれば自然と早歩きになるも、直ぐに状況に気付き私に歩幅を合わせてくれた。
「朝食を摂っていないだろう。そなたの体はまだ人間であるから、そろそろ空腹になるのではないか?」
「朝食・・・確かに少しだけ空腹を感じておりますね」
色々考えることが多くて、胸がいっぱいになり空腹を感じることはなかったのだけれど、魔王に言われ忘れていた空腹を思い出す。軽くお腹を押さえるとくすりと頭上から聞こえてきた。
「伴侶の儀式を行えば、その体の成長は止まり食物を必要としない体になるのだがな」
「私は食べることも好きなのでこのままでも構わないのですけれど・・・」
相も変わらず魔王は私に妃になるように言ってくる。それを軽くかわしながら私達は目的地である部屋へ辿り着いた。




