明けた朝
今月2回目の更新。あともう一回くらいできたらいいなぁ・・・
「すぐには・・・気持ちの整理も出来ませんわ。だから少しずつ、貴方のことを考えていって良いですか?」
こんなことを言えば魔王の逆鱗に触れるかもしれないと少しだけ恐怖したけれど、だけど彼ならば大丈夫だと何故か思えた。
「・・・そうだな。環境も変わりすぐに我のことを考えろと言うのは難しいのかもしれぬ。そなたが一刻も早く我を好きになるよう此方も努力をしよう」
彼の言う努力がどのようなものなのか、この時の私には想像がつかなかったけれど、どこか純粋さを見せる漆黒の彼ならさほど大袈裟なことはしないだろうと思っていた。私の予想は大きく外れるのだけれども。
「おはよう、我の妃」
「・・・おはようございます。女性の部屋に、しかも眠っている間に勝手に入るのはとても失礼ですわ」
「うむ?そうなのか?しかしこの部屋は我の部屋との続き部屋だから厳密には一つの部屋ということになる。故に勝手に入ったというのには当てはまらない」
朝の目覚めに最初に見たものは深紅の瞳を細めた美貌の魔王様だった。覗き込むようにじっとりと向けられる視線に慣れないことと、身嗜みも整っていない無防備な姿を見られたことに少しばかり不機嫌になり少しだけ刺を含んだ言葉で攻撃してみるも、当の本人にはまったく伝わらず、私が不機嫌なことにも気づいていないようだった。その不機嫌さを紛らわすように視線を窓へ投げると、大きな窓には眠る前に閉めた厚手のカーテンが変わらず外の景色を遮断していた。此処は昼夜の区別がないようだから一日を把握するのに苦労する。
「はぁ・・・兎に角、部屋から出てください。着替えますので」
「手伝おう」
なにを言っているのかと目を丸くして一瞬思考が止まるも、次の瞬間には止まっていた思考も動きだし冷静にこう返した。
「結構ですわ。それに、女性の着替えを手伝うなど・・・相手を辱しめる行為ですからあまり言われないほうが宜しいと思いますよ」
すっかり眠気の覚めた私は魔王から距離を置くようにベッドから抜け出た。勿論寝着を見せないようにシーツをすっぽりと被って。
「こんなことはそなた以外には言ったことはない。でもまあ、しつこくしてそなたに嫌われては敵わないからな。大人しく出ているとしよう。着替えが終わったら呼ぶのだぞ?」
私の簡単な抵抗などすぐに破いてしまえるのだろうけれど、眠る前に私に自分を好きになってほしいと言っていたから、そういう嫌われるだろう行為をしないようにしているのだろう。近付くことなく微笑みだけを残して自室の方へ下がっていった。そしてそことは別の扉がノックされ入ってきたのは黒のメイドドレスを纏った女の人だった。まるで見計らったようにやって来た彼女に少し驚いてしまった。
「失礼します。お初にお目にかかります。本日より王妃様の身の回りのお世話をさせていただきますミレイユと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「私はクリスティーナ・ミハエルです。あの、まだ魔王様の妃になると決まったわけではないのだけど・・・」
「このお部屋を使われるのは陛下の妃となられる御方だけですので間違いではありませんよ?では王妃様、本日のお召し物はどれに致しましょうか」
「できればクリスティーナと名で呼んでほしいわ。王妃様と呼ばれるには私自身まだ納得できないから。・・・ドレスはなんでも構わないわ。だけど私に合うドレスがあるのかしら?私が此処へ来たのは昨日なのだからドレスなんて用意できないでしょう?」
ドレスのように体に合わせて作るものはそれはそれは時間がかかる。花嫁が着るものとなれば一年以上かけるなんてざらだ。だからミレイユがさも私専用のドレスがあるような発言が理解できないのだ。
「此処は人間界とは違いますから・・・」
その一言で片付けられ、目の前に立つ彼女はその手に眩く輝く星が散りばめられた闇色のドレスを携えていた。




