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魔王と呼ばれる男との出会い

それは、いつもと変わらない日常に突然やってきた。











「どういうこと?」


私の疑問は自然と口から溢れ出ていた。だって当然だと思う。普通の人ならば、自分以外のモノが一気に時を止められたように動かなくなれば、思考は混乱しつい日頃の自分ではするはずのない行動をとってしまうはずだ。


「夢・・・そうよ、夢なのだわ。でなければこんな現象なんて起こるはずがないもの」


そうに違いないと、いつ目が覚めるのかしらと若干非現実的な思考に至ろうとしていたその時。


「夢ではないぞ。これは我の力だ。人間の乙女」




突如として私の前に現れた声に驚き目を見開いた。全身に黒を纏った長身の男が、瞳だけを紅く染めてそこに立っていたからだ。そして時が止まったこの世界で唯一、自分以外に動いていることと男の言葉に、私は更に動揺した。


「クリスティーナ・ミハエル・・・で合っているか?まあ、この状態で動いている時点でそうなのであろうが・・・」


男は私を知っている風に問いかける。


「貴方は、誰?」


私は震える声で尋ねる。すると男はその血のように紅い瞳で私を射抜いたまま、うっすらと笑い答えた。


「我はガイナリアス・ディオン・ドゥ・アステリアス。この人間界とは違う世界【魔界】と呼ばれる世界の王である」

「ま、おう・・・」


遥か遠い記憶となっていた前世の記憶が鮮やかに蘇る。平凡であった生活に、ある種の衝撃を与えたゲーム。そしてその中でも平和・平穏が常であった日本人である私に記憶しておきたくないほどの精神的打撃を与えた男。忘れていたそれが一瞬で脳内を駆け巡った瞬間、私の体は無意識に震えていた。


「銀糸の髪に紫石(アメジスト)(アイ)か・・・。人間では珍しい色だが、そなたによく似合っている」


ガイナリアスと名乗った魔王は一瞬で間合いを詰めると、するりと私の髪に指を絡ませた。そしてどうやら触り心地が気に入ったようで無表情に少しだけ口角を上げてひたすらに髪を撫で続けた。私はうっすらと思い出される記憶に戦慄きながらも、目の前の男に恐る恐る尋ねた。


「あの・・・どうして魔王の貴方が人間界にいるのですか?」

「ふむ、言っていなかったか?そなたを迎えにきたのだクリスティーナ」


魔王のその言葉に嫌な汗が流れる。


「どう、して」

「それは魔界に戻ってからゆっくりと話そう」


そう言って私を己の胸のなかに納めると、彼の周りは大きく歪んだ。無重力に似た感覚に心臓が縮んだ気がして急に怖くなった私は思わず目の前の体に抱きついてしまう。するとそれに応えるように彼も私を抱く腕の力を強くした。






















一瞬のような、無限に続くような感覚が終わり恐る恐る目を開く。


「ようこそ、我が魔界へ」



宙に浮く島、鳥とは到底言えない飛行物体、そして昼と夜を混ぜたような色の空・・・そこは先程まで立っていた邸の庭とは程遠い、平穏というものとは無縁そうな景色が私の目の前に広がっていた。






ちょっとだけ前世の記憶に揺さぶられてみました。まあ正規のルートだとクリスティーナは家畜のように実験体のように扱われ壮絶なる死を迎えるはずだったのでやっぱり強烈だったということですね。嫌な記憶は本人が忘れていたと思ってもふとした瞬間に思い出される感じです。

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