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私の出した答え

難産でした。本格的なスランプが到来したようです。

「昨日は随分と賑やかだったそうだね、クリスティーナ」

「お義兄様・・・」


昨夜の出来事にすっかり鬱ぎ込んでいる私に、義兄は容赦ない言葉をぶつけてくる。確かに、義兄の忠告を聞かずにいた私の責なのだけれど、もう少し優しくしてくれてもと思ってしまう。


「先程王城へ、正式に殿下の妃候補から外れるという書簡を送ったと父上が仰っていたよ。クリスティーナもさほど乗り気ではなかったから良かったと言えばいいのかな?」

「こんな形で叶うとは思いませんでしたが、そうですわね」


バルトロスとの婚約がなくなったのは嬉しい。私だけでは断るなんて出来なかっただろうから。しかしそこにロクサスが絡んでくるのは予想外だった。


「で、どうするんだい?今世間の話題は公爵家の姫君と伯爵家次男の身分違いの恋だそうだ」

「なんですの、それ」

「伯爵家の次男には幼い頃からずっと好きな少女がいた。しかし少女は筆頭公爵家のご息女でありもっとも王妃に近しい位置にいたそうだ。諦めなければいけないと思いつつもついつい彼女を思ってしまう。胸に溢れる思いをキャンバスにぶつけることが唯一彼が彼女に愛を告げる手段だった。いつか自分を見てくれるのではないかと、後ろ姿の彼女を描き続けているうちにその才能が開花し世に名が知られることになった・・・凄いね、たった一晩でここまで面白おかしく広まるなんて。女性のロマンスと噂好きはいつの時代も変わらないのかな」


ふふっと穏やかに笑ってはいるもののその声には何処か刺がある。私はそれを横目で見て、また窓の外に視線を戻した。


「このままでは、君はあの芸術家気取りにしか嫁げなくなりそうだけど・・・」


どうするんだい?と、無言で問うてくる義兄に、私はどう答えるべきか分からないでいた。


ロクサスのことは嫌いではない。幼い頃からの仲で義兄と両親以外に心許せる数少ない人だから。だけど恋をしたかといえばそれはなかった。あの頃はこの記憶がないのだから綺麗な顔のロクサスを好きになってもおかしくないはずなのに。知らずに眠っていた記憶が好きになることを拒んだのかもしれないとも思う。これまでも、そしてこれからもロクサスに恋はしないはずだったのに、あの告白が私を惑わせる。ないはずの気持ちが芽生えてしまいそうで、それが怖かった。


「クリスティーナはどうしたい?どうなりたい?」


私・・・私は・・・


「きちんと、ロクサスと向き合うべき、なのですよね。ロクサスの行動の元凶はすべて私なのですもの」

「一人で立ち向かえる?クリスティーナは優しいから、流されてそのまま・・・なんてこともあり得るんだよ?俺が手を出してもいいんだけど」

「いえ、それは駄目です。お義兄様が出てしまったら大事になってしまいます。お義兄様に私のことで手間をかけさせるわけにはいけませんわ」


安心させるようにふんわりと笑えば、義兄はとても困ったような表情を見せた。


「俺にとってクリスティーナはなにより大切な存在なんだよ。困っていたら助けたくなるし、泣いていたらその原因を無くしてしまいたい。だから手間とかそんな風には言わないでほしいな」

「ふふっ、お義兄様ったら、妹愛が強すぎですわ。お義兄様のお嫁さんになる方に睨まれてしまいそう」


私の言葉に傷付いた顔をする義兄。その理由に気づかない私は首を傾げ「お義兄様?」と声をかける。それに義兄は「なんでもないよ」と切な気に微笑んだ。


「分かった。なら俺はなにもしないよ。ただ、なにか起こりそうになったら知らせてほしいな。助けになりたいから」

「ありがとうございます」



私はロクサスと話し合うべく、彼に宛てた手紙を書き始めた。


ロクサス編のクリスティーナは義兄であるメリオロスには義兄以上の感情はないので結構平気で兄妹を主張してきます。クリスティーナ大好きなメリオロスさんは言われるたびに胸にぐっさぐっさ刺されるのでした。

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