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思惑の夜会

「ロクサス様、宜しかったら私と踊ってくださいませんか?」

「いえいえ、是非私と」

「私はロクサス様の描いた絵が見たいですわ」


キイキイと五月蝿く、身体中に香水を振り撒いた女供が煩わしくて仕方ない。僕が此処に来たのはティーナと一緒にあの日をやり直すため、一緒に大人になるためなのに。なのにその当人は僕を盛りのついた雌猫の中に放り出して自分は壁の華を演じている。あれでは自分から誘ってくださいと言っているようなものなのに、ティーナはそれが分かっていない。物事の機微には敏感なはずの彼女は、自分に向けられる好意にはことのほか鈍感なのだ。周りにいる男どもがどんな眼で自分を見ているかなんて気づきもしない。まあそのお陰でメリオロス様の気持ちなど知らずにここまでこれたのだからそれは良かったのだけど。僕のこともただの幼馴染みとしか見てくれないし、そのお陰で誰よりも傍にいられるけれど、いつまでも幼馴染みという立場に甘んじる僕でもない。今日はティーナに、僕がただの男であるということをちゃんと分かってもらうつもりだ。その為の布石はすでにばら蒔いてある。ティーナ、僕がなんのために妖精を描き続けたのか、君は知らないだろう。妖精は僕とティーナを繋ぐたったひとつのものであるけれど、それだけじゃないんだよ?



「ロクサス様?」


少し気を遠くにやっていた為、周りに蔓延る女がさらに体を寄せてきて思わず顔をしかめる。本当に、彼女でないというだけで気持ち悪い、吐き気がする。最早全身が彼女以外の女を拒絶している。


「申し訳ありませんが、僕には大切な人がいるので他の女性に構っている暇はないんですよ」


と、やんわりではなく直球で彼女達を一蹴した。まさか僕がそんなことを言うとは思っていなかったのか唖然としている。僕はそんな彼女らの間を縫って出て次々と声をかけられているティーナのもとへ向かった。





「ティーナ、ごめんね待たせて」

「待っていないけれど・・・それよりも、どうだったの?誰か好ましいご令嬢はいた?」


ティーナに気付かれないように男どもに睨みを効かせる。これで大体の男は僕の容姿に負けて尻尾を巻き逃げていく。今回も一睨みですごすごと逃げていく男どもに内心笑いながら表情はティーナに微笑みかけた。


「いるわけないよ。ティーナのように心地よい声も花のような軽やかな香りもないんだよ?僕、耳と鼻がおかしくなるかと思ったよ」

「貴方のお眼鏡にかかるにはとても努力が必要ということは分かったわ」


悩んだように頭を抱えるティーナは、僕がティーナ以外に惹かれることは有り得ないと本当に分かってくれない。僕のほうが頭を抱えたいよ。


「それよりもティーナ。今日はね、僕の妖精シリーズの新作をここで発表する予定なんだよ」

「あら、そうだったの?まあ、有力貴族の集まる場だから、問題はないのだろうけど」

「うん。一応成人と同時に大々的にロクサス・ティアハートを売り出すことになっているんだ」

「まあ、でも貴方そんなことをしなくとももう既に随分と有名でしょうに」


確かに、既に僕の名前はその世界では有名だけれど、いままでは家に守られていたわけで、これからはそれが薄らぐ。まあ個人の遺産もそれなりにあるから、私兵を雇うことも可能だけれど。きっと家族愛の強い我が家ならその心配はないと思う。ただ、知らしめたいだけだ。僕の生み出す物が欲しいなら、僕が望まないことはしないようにと。僕が望まないこと、それはティーナと僕を引き裂くことだ。そんなことは許さない。例えそれが王族であろうと。そしてティーナ自身であっても。


「楽しみにしててね」


僕のことを絶対に捨てられなくしてあげるから。



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