いざ、会場へ
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ロクサスのデビュタントの日当日、私はロクサスに贈られた青いドレスとティアラを着けて彼の到着を待っていた。改めて着たドレスはシンプルなAラインだけど然り気無く刺繍やフリルがあしらわれていて、去年着たものよりもずっと素敵だと手伝ってくれたメイドにも絶賛だった。
「クリスティーナ様、ティアハート伯爵家のご子息がお見えになりました」
「ありがとう」
部屋を出て階段に向かうと、階下には私を待つロクサスの姿が見えた。視界に私の姿が入ったのか、此方に振り向くと素敵な笑顔を見せた。本当に、ロクサスは幼馴染みの私から見ても素敵な人だと思う。あの甘い笑顔と優しい性格、そして今日はそれだけではなく少し大人びたところまで見えて、きっと会場に着けば年頃の令嬢達の視線を独り占めしてしまうだろう。それが誇りでもあり少し寂しく思うのだけど。
「ティーナ、綺麗だよ。こんなに綺麗だと誰にも見せたくなくなるよ」
「ふふっ、ありがとうロクサス。私もこのドレスとても気に入ったわ」
クルリと回ればふわりとドレスの裾が舞う。それを眩しそうにロクサスは見た。
「では、行きましょうか。僕の妖精さん」
そっと差し出された右手に、私は自らの左手を乗せた。行きと帰りはティアハート家から馬車が出されることになっている。ロクサスは常に紳士的に、私をエスコートしてくれた。それがまるでお姫様になったみたいで、少し恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちを一気に沸き上がらせた。会場に入ると、やはり私達・・・と言うよりもロクサスは注目の的だった。誰だって見目麗しい者を見ていたいと思うだろう。残念ながら会場の中にロクサスを越える美青年は見当たらない。だから必然的に主たる令嬢達の視線はロクサスに釘付けというわけだ。羨望の視線で見つめられるロクサスは良いけれど、彼の横に立つことであらぬ嫉妬の視線を浴びるのではないかと此方は冷や汗ものである。早く最初のダンスを踊って何処か静かな場所に逃げたいけれども、果たして隣のこの男がそれを許してくれるかどうか。チラリとロクサスを見上げれば、彼も私を見ていたようで目があってしまい何故か微笑まれた。何処からか令嬢達の歓喜の声が聞こえてくる。
「ロクサスはご令嬢たちに随分人気があるみたいね。もしかしたら、この中にロクサスの生涯のパートナーがいらっしゃるかもしれなくてよ?」
「そんな人、いるわけないじゃない。僕は外見だけに囚われて僕自身を見てくれない彼女達になんの興味もないし」
甘いマスクの美青年、そして有名な芸術家のロクサスは、つまりそういう眼で今まで見られてきた。残念なことに、価値ある人間としては見られても、ただのロクサス・ティアハートとして接してくれたのは家族と私以外いなかったのだ。本来ならここでヒロインが現れていれば、私達以外で初めて彼の内面を認めたということで大きな変化をもたらすのだけど・・・これは私がロクサスの良さを周囲に分かってもらうように行動するべきなのだろうか。折角の社交の場だもの。これを生かさない理由はないわ!
「ロクサス、そんな悲観をしては駄目よ!今からでも遅くはないわ。この場を利用して貴方自身を知ってもらいましょう!!」
「ティーナ?僕はティーナがいてくれるだけで構わないよ?」
「そんなのは駄目よ。いつまでも私が傍にいることなんて出来やしないのよ?貴方にも大切な人を見つけて欲しいの」
恋人が出来れば幼馴染み離れも出来るだろうし、もっと社交性を身に付けさせれば、変な考えも起こさないでしょう。私はロクサスの腕を引いて煌びやかな会場の中心へと足を進めた。
ロクサス編は大分迷走しております。ラストはなんとなしに決まっているんですけどその道中が・・・それ次第でラストもコロコロ変わってしまうからやばいです。ゴールが見えない・・・




