子犬ですか?小悪魔ですか?
「ティーナ」
「あら、ロクサス?今日はどうしたの?」
テラスでのんびりお茶を楽しんでいたらロクサスが突然現れた。玄関からではなくて生垣から。どうやって飛び越えたのか疑問しか湧かないけれど、あの長い足で簡単にやってのけたのだろう。ロクサスはキョロキョロ辺りを見回してなにかの確認をすると安心したように私が使用しているガーデンテーブルの向かい側に腰かけた。
「実はティーナにお願いがあって・・・」
「お願い?なにかしら」
きゅるんと愛玩動物の瞳で上目使いをされれば、断ることは難しい。
「もうすぐデビュタントのパーティーがあるでしょ?そのパートナーになってほしいんだ」
「私が、ロクサスのパートナーに?それは難しいのではないかしら。去年はお義兄様が私のパートナーになってくださったけど、それは身内だったから許されたの。本来ならバルトロス王子の婚約者候補の私が他の男性を伴って参加するのはあまり外聞が良くないのよ?」
あのときも別にお父様でも良かったのだけど、お父様が最初からパーティーに参加することが難しかったから代打で義兄が務めたのだ。それならバルトロスでも良かったのでは?と思うかもしれないけれど所詮候補は候補。周りに勘違いさせて不和を喚んでは元も子もない。ロクサスが言っていることもそう。下手に私が彼と参加すれば、ミハエル家はバルトロスの婚約者候補の座を辞してロクサスと婚約したのではと勘違いを生むに違いない。後々消すのが面倒な噂をばら蒔くのは勘弁して欲しい。
「・・・どうしても、駄目なの?」
「とても難しいわね」
そんな、今にも涙が出てきます。泣きますよって顔で見るのは止めて。私が物凄く悪いことしてるみたいだわ。
「僕、ずっと楽しみにしていたんだよ?去年は僕が置いてけぼりだったでしょ?ティーナの大切な日を、僕も一緒にお祝いしたかったのに・・・ティーナは僕を置いていったでしょ?とっても寂しかったんだよ」
「ううっ、それは仕方ないでしょう?私の方が先に産まれたのだもの」
じりじりと責めるような瞳と言葉で私を追い詰めるロクサス。悲しげな眼を臥せて震える唇をまた開く。
「僕だって年下に産まれたかったわけじゃないよ。ずっと思ってた。もっと早く産まれていたら、もっと早くティーナと出会えていたんじゃないかって、ティーナのデビュタントも僕がエスコートできたんじゃないかって・・・全部他人に持っていかれた。僕には、あとはティーナと自分のデビュタントにパートナーとして一緒に出てもらうしか残ってないんだ。ティーナは僕からそれすら奪うの?僕に思い出すらくれないの?」
もうすっかり私よりも背が高くなって中性的な美青年なロクサスが小さな子供のように必死に懇願している。その顔は断れば死ぬと言っているようにも見えて、もう私に選択肢は残されていないと悟る。
「はあ、分かったわ。そうよね、大切な幼馴染みが大人になる日ですものね。お祝いくらい、しないと駄目よね?あ、でもお父様に話をしないと・・・」
たぶん先に知らせておかないとお父様周りに説明するの大変になるわよね。
「それなら大丈夫だよ。ティーナに会う前に公爵様にお会いしてお話したから。公爵様はティーナ次第だって」
「あら、そうなの?」
案外簡単に許可が降りたことに驚きながらも、お父様が許可を出したなら私が断る理由がないわと、ロクサスのパートナーを引き受けることを了承した。
まさかお父様が許可を出した理由が、私の肖像画を一枚貰ったからだとか、その絵に少しだけ亡くなったお母様が重なって見えたからだとか、今度お父様と私の肖像画を描く約束をしただとか、そういうことが裏で行われていたなんて私は知るよしもない。
己の才能と容姿をまたまたうまく使うロクサス君。お父様は絵でコロッと(公爵様がそれでいいのか?)、クリスティーナも幼馴染みにほだされて(ただ美形の涙に負けただけ)・・・ロクサスはきっと詐欺師になれると思います。




