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僕の妖精

ロクサス視点です

「それじゃあまたね、ティーナ」

「ええ、外まで見送りできなくてごめんなさい」

「気にしないで。夕方はまだ少し寒いからね。ティーナが風邪をひいちゃいけないから」


僕は笑顔で、申し訳なさそうにソファーの前で立っているティーナにそう言った。今日はティーナにお呼ばれしてミハエル公爵邸を訪れたのだけど、まさかティーナからデビュタントの祝いの品を貰えるとは思っていなかった。ティーナは自分のときに銀のティアラをくれたお礼だと言っていたけど、別に気にしなくても良かったのにと思った。ただティーナの特別な日が、僕の作った物でさらに輝かしいものにしたかっただけなのだ。その証拠にあの日のティーナは本当に美しかった。当時デビュタントを迎えていない子供の僕は一目彼女を見ようとこっそりと彼女の邸を訪れていた。会場に向かう前のティーナを見たかったのだ。馬車が待機していた正面玄関には、すでにティーナの義理の兄であるメリオロス様が待ち構えていた。あの人も行くのかと、内心舌打ちをする。あの人も僕同様、ティーナに特別な感情を抱いているのはすぐにわかった。だって眼が違うから。あの人の他人に向ける視線はとても冷たい。まるでそこらへんに落ちている石ころを見るような、感情の籠らない視線だ。実際、僕に向ける視線はまさにそれだから分からないはずがない。周りは一切気付いていないみたいだけど。まあ、あの人は人の心を操作するのが上手いうえにポーカーフェイスが平常だからね。あの人の母親と養父であるティーナの父親には、普通の家族としての感情はあるようだ。僕が見た限り、あの無感情の視線を注いではいないみたいだから。だけどティーナへの感情は、僕が言うのもどうかと思うけれど、異常だ。いや、血の繋がらない兄と妹だから女としてティーナを見てしまうのは正常なのかな?まあ、僕があの人と同じ立場でもきっとティーナは妹には見えないだろうけど。

玄関の扉が開いた。メリオロス様の表情から、どうやらティーナが出てきたようだ。ティーナが邸から出てきたときは一瞬、呼吸が止まってしまったよ。闇夜に照らす月の光を一身に浴びるその姿は、まさに女神だった。氷のような淡い青のドレスと他を寄せ付けない圧倒的な美が彼女を周りの人間から遠ざけるだろうけど、あれではまたティーナに囚われる男が増えるのではと不安になる。公爵家に釣り合わない者、見てくれに自信のない者はどれだけ憧れようと彼女の視界に入ることすら許されない。それが分かっていても惹かれてしまうのは必然なのか呪いなのか。だけどティーナは色々と護られている。あの血の繋がらない兄といい、この国の王子といい、この僕といい・・・だから彼女は気付かない。護られているからこそ自分がどれだけ危うい場所にいるのかを。一歩踏み間違えてしまえば、彼女はきっと抜け出せない迷宮に囚われてしまうのだろうな。叶うなら、それが僕の迷宮であってほしいけどね。

しかし本当に残念だ。彼女と同じ歳か上なら、彼女の輝かしい瞬間を見ることができたのに。だから来年はと、彼女が乗った馬車を悔しい思いで見送ったんだ。そして待ちに待った僕のデビュタントの日がすぐそこまで来ている。彼女に僕のパートナーとして一緒に出てもらうのだ。優しい優しいティーナは絶対に断らない。幼馴染みの僕が『お願い』と一言いえば、困った顔をしても最後は微笑んで頷いてくれるはず。


「だけどあの人がいたら邪魔をしてくるよね」


きっとあの手この手を使ってティーナが不審に思わないように断らせるはずだ。冗談じゃない。僕はこの日のために一年我慢したんだ。


「あの人が留守の合間にティーナと公爵様にちゃんと了解とってしまおう」


となれば、僕が次にすることは一つ。あの人の近々の予定を入手しなくては。僕は足取り軽く公爵邸の廊下を歩き簡単に情報を教えてくれそうな(メイド)を探すのだった。

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