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贈り物

「はあ、なんだか懐かしい気持ちになるわ」


部屋のクローゼットにあった少し大きめの箱を開けると、子供時代の私が宝物だと思っていた物で溢れかえっていた。中でも群を抜いて多かったのはロクサスに貰ったものばかり。


「これは・・・一番最初に貰った妖精の絵ね」


私とロクサスの始まりの象徴でもある。私が妖精を描いてと言った一週間後には、すでにこれは手元にあった。驚きの早さである。この絵を始まりにロクサスは私に自分が創り出したものをくれるようになったのだ。


「その年の誕生日にくれたブローチ、新年のお祝いにくれた縫いぐるみ、これは帽子に飾りがほしいって呟いたらくれたコサージュ・・・なんだろう、本当に箱の中身がロクサスからの贈り物でいっぱい」


それだけ彼との歴史があるということだ。感慨深いものがあるなぁと思いつつ、私は箱を元の位置に戻した。


「今年はロクサスのデビュタントだから、なにかお祝いをした方がいいわよね」


クローゼットから出た私が次に向かったのは猫足の可愛らしいウッドデスク。そこには金の金物で美しく細工のされたガラス箱が、まるでそれだけは特別だと言わんばかりに鎮座している。確かに私にとって、きっとなによりも大切なものだけれど。


「去年の私のデビュタントでは、ロクサスがこれをくれたのだもの。私も、なにか特別なものをあげなくちゃ」


私のデビュタントの当日、ロクサスはいきなりやってきてこのガラスの箱を・・・というよりも、中に入っているものをくれた。中に入っていたのは銀のティアラ。少し小ぶりながらも丁寧に、そして美しく作られていて、私の瞳の色と同じ宝石が数個付けられていた。これを着けて出た時は、皆の注目の的だったのを、昨日のことのようによく覚えている。あの日、私は確かに幸せなデビュタントを迎え、そして終えた。だから私も彼に同じ気持ちになってほしい。


「だけどなにを贈ればいいのかしら?男性のものってよく分からないのよね」


女性の流行は見た目からすぐに分かりやすいのだけど、男性の場合ってほんの少しどこかが変わる程度なのだもの。


「こんなときはお義兄様に聞いてみましょう」


私は夕食の後にでも義兄の部屋を訪れることに決めた。







そして太陽もすっかり沈んでしまった時間、私は義兄の部屋の扉をノックした。


「やあ、こんな時間にどうしたんだい?」


ドアを開けた義兄が私の姿を見つけると、麗しい顔に蕩けるような笑みを浮かべて甘い声音をあげた。


「お義兄様にご相談がありまして・・・お時間宜しいでしょうか」

「勿論、可愛いクリスティーナの頼みだ。俺が叶えないわけないでしょう?」


さあどうぞと体をずらして部屋の中へ促す義兄に従って、私はするりと体を滑り込ませた。義兄にエスコートされて着席したテーブルには幾つかの書類があって、やはり仕事をしていたのを邪魔してしまったのだと少しだけ悪いことをしたなという気持ちになる。


「それで?クリスティーナは俺になにを相談したいのかな?」

「えっと・・・実は、ロクサスのデビュタントに合わせて、私もなにか贈り物をしたいと思うのですけれど、なにを贈ればいいのか分からなくて・・・」

「・・・・・・」


義兄の言葉を待っていても一向に返事がなくて、変だなと思い顔を上げ義兄の顔を伺う。義兄の表情は何故か傷付いているように見えて、私は思わず首をかしげた。


「お義兄様?」

「・・・・ああ、デビュタントの贈り物だったね。しかしいいのかな?君は確かバルトロス王子の婚約者だったと、俺は記憶しているのだけど。他の男性に思わせ振りなことをして相手をその気にさせるのは罪だよ」


何故か責められるような言葉を投げられる。


「少し、違いますわ。婚約者候補なだけであって、正式なものではありません。噂では遠国の王家の姫を迎えるという話もあるそうですよ。他国との友好関係を築くなら、寧ろそちらで決まってしまう方が良いのです。それと、ロクサスは幼馴染みなのですよ?幼馴染みに贈り物をすることは決して思わせ振りなことをすることとは違いますわ。それに、私はお義兄様のデビュタントの年にも贈り物をしておりますでしょう?まあ、子供の贈ったものですから大したものではなかったですけれど」


バルトロスの話は本当。実際、他国から大量の吊り書が送られているとお父様は仰られていた。我が国に足りないものを他国から補う。そのためには王子であるバルトロスがそこの姫と結婚することは必須。一国の公爵の娘より他国の姫を選ぶのは当たり前なのだ。まあ、私がそこまでバルトロスに執着がないからとも言えるけれど。ロクサスのことに関してもそう。子供の頃から仲良しで、きっと親友と呼べる仲。そんな私達に、今更愛やら恋やらが芽生えるなんて有り得ない・・・と思う。だって今までだってそんなことはなかったし、もともとロクサスはヒロインに惹かれる予定だったのだもの。


「クリスティーナから貰ったものは大切にしまってあるよ。大人として認められる日に初めて貰ったものだし、なによりクリスティーナが俺のことを考えて選んでくれたのが嬉しかったんだ」


私が義兄に贈ったのは胸ポケットに入れるハンカチーフ。真っ白なハンカチーフに銀の糸で我が家の紋章を刺繍して贈ったのだ。少し歪になってしまって本当は恥ずかしかったけれど、義兄は大層喜んで正装服の胸ポケットにそれを挿してくれた。家族にはできるけれどさすがにロクサスには無理だと一番最初に諦めたものでもある。その結果なにも浮かばなくてここにいるのだけれど。


「あのね、クリスティーナが彼を幼馴染みとしてしか見ていなくても、周りはそうは思わないんだよ。君も彼も、良い意味で有名だからね。そんな二人が特別な日のためにお互いに贈り物をしあっているなんて知れたら、そういう仲なのではと痛くない懐を探られてしまうのだよ。それは嫌だろう?」

「そう、ですね・・・他人に詮索されるのは好ましくありませんわ」


ならば贈り物は諦める?しかし自分だけ貰っておいてお返しをしないなんてなんだか胸がもやっとする。


「だから、俺とクリスティーナ、二人からのお祝いにしてしまえばいいんだよ。もともと、俺も彼にはなにか贈ろうと思っていたところだし、ちょうど良いのではないかな」


成る程、ミハエル家からのお祝いにしてしまえば、個人というより、家同士の繋がりの方が印象に残るわけだ。私ももやっとを抱えなくて済むし良いことしかないではないか。


「分かりましたわ。では私とお義兄様、二人からの贈り物ということでいきましょう。それで、内容なのですが・・・」



その夜だけでは贈り物を決めることができなくて何日かお互いが部屋を往き来したのだが、結局私ではなにが男性の好みか分からなくて最終的にすべて義兄任せになってしまった。


お兄様、さりげなく邪魔をしています。最後の部屋の往き来は完全にお兄様がクリスティーナと二人でいる時間を増やすため。クリスティーナが品物を決められなかったのは、提案する度にお兄様がさりげなく却下しているから。最初からクリスティーナに決めさせる気がなかったという策士!!


いや、今回は貴方はヒーローではないですからね?そんなに出番作らないですからね?

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