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私とロクサスの成り立ちについて

幼少期のクリスティーナとロクサスから始まります。

突然だけれど、私には歳の近い幼馴染みがいる。彼の名前はロクサス・ティアハート。彼とは物心がついた頃からの関係で、バルトロスの訪問などがなかった日は、義兄と遊ぶかロクサスと遊ぶか三人で遊ぶかのその三択であった。


公爵家と伯爵家、家格が違う私達が幼馴染みという形になったのは偶然であった。たまたまお父様がティアハート家へ出向いたときに私が着いていったことが始まりだ。


「お父様は少しお仕事の話をしてくるから、クリスティーナは良い子で待っているんだよ?終わったら一緒にケーキを食べに行こう」


ケーキという言葉に、私はにっこり笑って大人しくお父様のお仕事が終わるまで待つつもりでいた。だけど子供の私がじっと待てるわけもなく、伯爵家のメイド達があたふたする中勝手に探険をすることにした。それでも、子供の体では部屋の扉は開けられないから、そうなると必然的に行ける場所は庭になる。


庭、と言っても公爵家のように華やかさには欠ける。どちらかといえば植物園などでよく見かけられる芝の絨毯を想像した方がぴったりな気がするほど、さっぱりとしたものだった。伯爵家は男兄弟しかいない。だから当主としては、庭で剣術の稽古でも、そう思ったのかもしれない。なにも目新しいものに出会えないとがっかりした私は、来た道を戻りお父様の帰りを大人しく待とうと踵を返そうとした。そう、したのだ。だけど私の視界に入ったモノに、私の体は動きを止めた。


(足がある・・・)


さっきは目に入らなかったけれど建物の影に誰かがいることに気付く。私はそっと気付かれないように近付くとそっと覗き込んだ。




目に入ったのは太陽に煌めくキャラメルブラウン。風に揺れるとふわりと揺れる柔らかそうな髪の毛に、思わず触れたくなる。無意識に動いた指の先に見えたものに私の動きは止まる。その子は私には気付かず、下を向き、黙々と手を動かしていた。少し体をずらしてなにをしてるか覗いてみると驚きで目を丸くした。


(とっても上手)


身長的に私とそれほど年齢が変わらない子が、自分には描けないような絵を描いているのだ。私は感動して思わずその子に声をかけてしまった。


「貴方、絵がとても上手なのね!」


私の声にびくりと肩を震わせ恐る恐る振り向く。柔らかそうなキャラメルブラウンの髪と同じく甘い色の瞳が、私の姿を捉え大きく開いた。私は動揺を見せる彼に構うことなく隣に座ると、彼が持っていたスケッチブックをその手から奪い、鑑賞した。小さな花の絵から始まり、犬や猫、羽ばたく鳥、そして忙しく働くメイドの姿が、まるで生きているように描かれていた。


「本当に素晴らしいわ!貴方には才能があるのね!えっと・・・お名前は?」


すっかり礼を欠いた行いの数々だと言うのに、彼はそんなこと少しも気にせず小さく「ロクサス」とだけ呟いた。


「ロクサスというのね。私はクリスティーナよ。今日はお父様に付いてここにやって来たのだけれど、それは正解だったみたい。だってこんなに素晴らしいものを見ることが出来たのだもの!」


にこにことスケッチブックを捲っていると、ロクサスはまたぽそりと呟く。


「クリスティーナは、絵が好きなの?」

「絵が、というわけではないのよ?綺麗なものはなんでも好き。だからロクサスのその綺麗な髪と瞳も大好きよ!」


私の言葉に顔を赤くしたロクサスは、視線を逸らすとまたぽそりと呟く。


「僕より、クリスティーナの方が綺麗だよ。銀の髪も紫の瞳も、まるで妖精みたい」


ちらりと此方を見て、またぽっと赤く頬を染めると直ぐ様眼を逸らす。幼い私はこれを見て、どうしようもない庇護欲を掻き立てられた。こんな弟がいたらさぞかし可愛がったろうと。


「私が妖精みたいというのはなんだか落ち着かないけれど、そうね・・・ロクサスが描く妖精がどんなものか、私はとても気になるわ。ねえ、私のために妖精を描いてくれない?」

「クリスティーナの、ため・・・?」

「駄目かしら」


こてんと、首を傾けると、ロクサスはふるふると首を振り「描きたい」と言ってくれた。


「良かったわ!」


嬉しくてにこにこ笑っていると遠くからお父様の呼ぶ声が聞こえた。どうやらお仕事が終わったようだ。


「お父様に呼ばれてしまったわ。もう行かなきゃ・・・」

「帰っちゃうの?」


まるで捨てられた子犬のように瞳をうるっとさせ私を見上げるロクサス。このまま連れ帰りたいとか思ってしまったけれど彼は人間、ここが彼の家なのだとしっかりと頭に叩き込み私は再びにっこりと笑った。


「またすぐに会えるわ。なんだったら会いに来てもらっても構わないのよ。絵が完成したら是非来てちょうだい?」

「・・・わかった。ティーナに気に入ってもらえる絵を持っていくから」

「ティーナ?」


聞き慣れない呼び名に首を傾げると、


「ティーナって呼びたい・・・ダメ?」


ダメ?とまたもや子犬の瞳で見つめられ、嫌ではなかったしぶるぶると首を振って否定した。


「駄目ではないわ。ロクサスが呼びたいならティーナと呼んで?」

「うん!」


こうして私達の幼馴染みとしての関係はスタートした。





クリスティーナが幼女のわりに雄弁に喋りやがる。そこは公爵令嬢の嗜みですわぁとあまりお気になさらず。まだロクサスの方が幼さが残っていて可愛いですね!!

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