地獄へのカウントダウン
体に溜まった熱を漸く沈めた翌日、クリスティーナに事の詳細を聞き出すと、微かに聞いたことのある子爵家とその娘の名前が上がった。その娘曰く、俺とその娘が体を交わしその結果子を身籠ったと・・・だから俺とクリスティーナの婚約を破棄してほしいと、だからクリスティーナは傷つきながらも俺と産まれる(そんな予定はない)子供の幸せを考え身を退こうとあんなことを言い出したと、そういうことらしい。
その娘の腹は膨らんでいたのかと尋ねれば、まだ目立つほど体に変化はなかったけれどコルセットをしていたかもしれないと思い出しながらそう言う。だがそれでも嘘かもしれないと思えないほどクリスティーナは混乱していたようだから、相手方にとっては事は上手くいったと、今頃ほくそ笑んでいるかもしれないな。だが俺達の間に無駄な亀裂を作ろうと画策し、その上優しいクリスティーナの心を傷つけ泣かせたその報いは、しっかりと受けてもらうよ?
「仕事だ。この子爵家について調べあげろ。この家と関わりのある貴族も全てだ。特に俺とクリスティーナの婚約が破棄されることで得をする人間だ」
「3日程お時間を頂きますが、宜しいですか?」
俺は姿なきその男に向かって冷たい視線を送る。
「・・・2日だ。それ以上は認めない」
暗に命はないと脅せば、男は暫くの沈黙の後、「御意に」とだけ告げると一瞬にしてその気配をも消した。あの男のことだ。もしかしたら2日も有することなく欲しい情報を持ち帰るかもしれない。だがまあ、此方も此方で動く必要があるからな。
「まずは、傷心のクリスティーナを癒してあげないとねぇ・・・そう言えば、あの子は小さい生き物が好きだったなぁ。仔猫でも贈ってみようかな?ああ、でも仔猫に構い通しで蔑ろにされるのは嫌だなぁ・・・仕方ない、クリスティーナには見て触るだけで我慢してもらおう」
と、にやついた顔を隠すことなく、俺は旧友の家の産まれたばかりの仔猫をクリスティーナに見せてやろうと、時間を空けておくようにとペンを走らせた。
結果から言えばクリスティーナは大いに喜んでいた。産まれたばかりの仔猫がミーミー鳴いて母猫に乳を求めるところでは、蕩けんばかりのうっとりした表情でずっとそれを見続け、そして夫人の好意で抱かせて貰えることになると、まるで聖母のように慈しみで溢れた瞳で、胸に抱いた仔猫を見つめていた。その胸に抱いているのが猫ではなくて俺と彼女の子供なら・・・ふとそんな風に考えてしまう。彼女ならきっといい妻、いい母親となるだろう。そしてそんな彼女を、俺は変わらず愛し抜く。今生だけでは満足できない。来世も、そのまた来世も、彼女の傍に在り続ける。そんな事を独り思いながら、熱い視線でクリスティーナを見守った。
帰りの馬車の中でも興奮したように先程までのことを語るクリスティーナに、どうやら傷は薄くなったようだと安心した。完全に塞ぐにはさらに俺の愛を与えればいい。愛して愛して、どろどろに溶けて交わってしまうほどに甘美な言葉を囁き続ける。そうすればこの先また彼女を貶めようとする心ない言葉も、きっと彼女には届かない。どれだけ傷つけたいと思っても、俺の愛が彼女を護る。でもまあ、そうなる前には消してしまうけどね。今回は此方が少し浮かれていたせいで小さな小さな虫が飛び回ってしまったけれど、すぐに綺麗さっぱり駆除するからなにも問題はない。
今日の夜には全て分かる。今のうちに精々悦に入っていればいい。それがただの夢幻であり、なにに楯突いたのか、恐怖に染まった瞳に映すことになるのだから。
そしてその夜、予想通り男は欲しい情報を持って帰った。
「ふぅん・・・子爵家はこの伯爵家の駒なわけか」
ペラペラと束になった用紙を捲ると、子爵家の情報の他に、とある伯爵家の名前が書かれてあった。しかもその名前が・・・
「恩を仇で返すとはこういうことを言うんだろうねぇ。まさか、王子だけじゃ飽きたらず俺をも手に入れようなんて、なんて浅はか、いや、ただの愚か者か」
妊娠したと偽った子爵家の上には、俺が王子との間を取り持ってあげた無能伯爵家がいるようだ。王子との婚約で味をしめたのか、さらに権力を持とうと筆頭公爵家にまで手を伸ばしてくるとは・・・勘違いというものは、時に人を愚かにするのか、それとももともと愚か故に更なる愚行に走るのか。この場合は後者になるのだろうけれど。
「今あるものに満足していれば、失わなくても良かったのにねぇ」
それがなにを指すのか・・・答えはすぐに分かるだろう。彼らの絶望に染まる顔を見るのが今から楽しみだと言わんばかりに、自然と口角を上げるのだった。
さあ、断罪の時間だよ。贈り物をしよう。煉獄の炎にその身を焼かれた方が幸せだと思えるくらいの素晴らしい贈り物をね。
クリスティーナ猫と戯れる・・・からのおにいたま悪事を砕く!!いや、もうおにいたまのほうが悪魔やんとか思わないでもないけど。しかしせっかくバルトロスと婚約したのに残念な結果になりましたね。ですがこのまま令嬢の方は王太子妃になりますよ。バルトロスを自由にさせるおにいたまではないので。
次回は残虐?をメインとして載せるので血生臭いこと嫌いなかたは次の次から読んだらいいかも?




