またまた波乱の予感がする
あけました、おめでとうございます。
義兄の壮大なるざまぁ計画を聞かされた私はその日なにもする気力がなくなり早々に眠ることにした。が、凶悪な笑みを浮かべてバルトロスを見下す義兄が夢に出てきて正直眠った気がしなかった。
「クリスティーナおはよう。起きたばかりだというのに酷く疲れた顔をしているね」
夢見が悪くて何度も起きたのは義兄のせいだとは言えなくてひきつった笑みでそれに答えた。
「大丈夫ですわ。夢のせいでよく眠れなかったみたいで・・・陽の光を浴びれば気分も良くなりますわ」
そう?と言いながら私の座る椅子を引き、私はそこへゆったりとした動作で着席した。目の前には出来たばかりの朝食が並べられ、体力を消耗した私の胃袋を程好く刺激する。
「そうだ、クリスティーナに言っておかなければならないことがあったのを忘れていたよ」
「なんでしょうか」
きつね色のベーコンにナイフを入れていると、すでに食べ終わった義兄がミネラルウォーターを飲んだついでのようにびっくり発言をぶちこんできた。
「正式に婚約者になったことを陛下にお知らせしたのだけどね、次の晩餐会で是非君に会いたいと言われたんだ。きっと祝福と謝罪の気持ちからだろう。一緒に行ってくれるよね?」
義兄の発言から程なくして晩餐会の日はやって来た。私は美しいのドレスを纏わされ、メリオロス次代公爵の婚約者として王城に上がることになった。
「ああ、今日のクリスティーナは一段と美しい。こんなに美しいとバルトロス王子の婚約者は霞んで消えてしまうだろうね」
私にすべてを打ち明けてから、義兄はもう義兄として接することを止め、こうやって恋人に語りかけるようなデロデロな言葉ばかりを吐くようになった。正直、精練で優しい義兄としてのメリオロスしか知らない私にとってこれは心臓に悪く、常に心音が乱れている。言葉だけでこれだ、もし触れられでもしたら死んでしまうのではないだろうか。
「その言葉はバルトロス様の婚約者様に失礼ですお義兄様。王族のどなたかに聞かれでもしたら首が飛びますわ」
「誰も聞いていないし、俺はそんな下手なことはしないよ。だけどきっとそう思っているのは俺だけではないと、後々知ることになるさ。・・・漸く着いたようだ。さぁ、お手をどうぞ、俺の愛しい婚約者様」
馬車が目的地に着きドアが開くと、義兄は先に降りて私に向けて手を差し出した。手袋をした自らの手を乗せれば、私よりも大きな掌にぎゅっと包まれる。それに少しだけどきっとしてしまった。
「今日はミハエル家と公爵二家、あとは筆頭侯爵家と隣国の使者の方が数名・・・と聞いているから、そんなに緊張しなくていいよ」
「それを聞いて緊張するなとは無理な話ですわお義兄様」
「政治的な話になるから仕方ないさ。それより、俺のことはメリオロスと呼びなさい。俺はもう君の義兄ではなく婚約者なんだから」
「そうでしたわ。ごめんなさいメリオロス様」
様もいらないけどね、と笑う彼はどうやら照れているようだ。
騎士に案内されて通された広間は大広間より小さく、長テーブルには見るからに高価な白磁の食器やシルバーナイフ等がキラキラと輝きを放っている。すでに到着された公爵家の方達は私達に気付くと立ち上がり軽く会釈した。私達もそれに応える。
暫く歓談していると王と王妃、そしてバルトロスとその婚約者、続いて隣国からの使者の方が来室された。私達は一様に会釈をし彼等が座るのを待った。
そこからはもう男性陣はほとんど政治の話ばかり。女性陣は首を突っ込まない変わりににこにこと笑うだけ。正直なんの面白みもないのだけれど、と顔には笑顔を貼り付け出される料理を堪能した。そして長かった晩餐もデザートに差し掛かれば話すネタもなくなったのか、隣国の使者はバルトロスとその婚約者である伯爵令嬢に話をふったのだ。
「それにしてもバルトロス王子にはこんなに素敵なご令嬢がいらっしゃって羨ましい限りです」
「ありがとうございます」
使者の言葉にそう返すものの、どこか感情の入っていないバルトロス。やはり義兄の言っていたことは本当なのだと改めて知らされた。バルトロスの感情など露知らず、使者はふたりをこれでもかと言わんばかりに祝福した。かの伯爵令嬢はとても満足そうだけれど・・・。そしてなにを思ったのか使者は私達にも祝いの言葉を述べてきた。
「バルトロス王子も羨ましいですがミハエル次期公爵殿もまことに羨ましい。クリスティーナ嬢の噂は此方の国にも届いているのですよ。この国には大層美しい、月の女神の化身がいると。実際にこの眼で確かめて噂は本当なのだと納得しました。こんなに美しい女性が婚約者だとは・・・次期公爵殿は幸福者ですね」
「ええ、彼女と結婚することが私の唯一の喜びです。婚約期間などもたず、早々に式を挙げたいところですが・・・彼女の美しさを引き立てるドレスを作るとなると時間はほしいですからね」
「成る程!!いやはや、クリスティーナ嬢はとても愛されているのですね」
私はその言葉に微笑み返すことしかできなかった。だって此方を射ぬかんとばかりに睨むバルトロスが怖かったから。
あけましておめでとうございます。今年もぼちぼち書いていきますので宜しくお願いします。ですが作者新年そうそう利き手親指の爪と肉をスライサーで削ぐという馬鹿をやらかして大したことはないものの使用率90%の親指を使えなくて修復されるまで他の指でなんとか頑張りたいと思います。とりえず新年の抱負は、キャベツをスライスするときは手元をしっかり確認!!にしたいです。
作中の晩餐会は大規模なものではなくどちらかといえば食事会に近いです。ですが集まる面子がどちらかといえば国の主要人物ばかりなので晩餐会としてあります。メリオロスは次期公爵とはなってますが実質表だって動いているのは今は彼なのでクリスティーナの父であり現公爵はお留守番です。(いや、お父様にもやることはたくさんあるんです)まあ王様に呼ばれたことも理由のひとつではあります。ちなみにメリオロスはクリスティーナと結婚した時点で正式な公爵となる予定です。




