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公爵令息、過去を思い出すその3と現在

婚約者・・・といっても仮のものだけど、それでもこの可愛い義妹が誰かのものであるのは嫌だった。こんなに誰よりも彼女のことを想い傍にいるのは自分だというのに、ただ王子だというだけで、次期国王だというだけで彼女の隣に並び立つことを許されるなんて・・・



「ねえクリスティーナ、君はあの王子が好きなのかな?」


あの金色の髪の忌まわしい存在を、僕の天使を奪おうとしている悪魔を。


「んー?バルトロス様のこと?んーと、お父様とお義兄様の次くらいには好きだよ?」

「そっか・・・ならそのまま、お父様の次でいいから俺のことを好きでいてね?」


俺の言葉の意味がよく解っていないのか大きく首を傾げるが、だけどよく解っていないながらもにっこりと笑って頷いたので今はそれだけで良しとしよう。もっと彼女が大きくなったら、そう、彼女が結婚できる年齢になったら、ちゃんと彼女は自分のものであることをきちんと解らせよう。あの王子になどくれてやるものか。この笑顔も、大人になれば見せるであろう妖艶な姿も、すべて俺のものだ。









「お義兄様?どうかしたのですか?先程から心ここに在らずでしたけど」

「いや、今日のクリスティーナがとても綺麗で、少し目が眩んでしまっただけだよ」



ダンスの最中であることも忘れてつい昔のことを思い出していた。そのせいでクリスティーナのご機嫌を損ねては、連れ出した意味がないからな。そう、今日彼女をこの会場に連れてきたのにはちゃんとした理由がある。俺は口角が上がることも抑えきれずに、目的の人物が入室するのを今か今かと待ちわびた。


そして2曲目のダンスが終わる頃、大広間の扉が大きく開かれ、待ちわびた人物がやっと訪れたことで次のステップに進めると、胸に抱くクリスティーナの腰を強く引き寄せた。




ざわざわ



賑やかな会場が、入室した彼等によってさらに賑わいを増した。会場の参加者の視線の先には、クリスティーナと・・・



「お久しぶりですバルトロス王子。おや、此方のご令嬢が王子のお心を射止めたという女性ですか」

「メリオロス・ミハエルか。それに・・・クリスティーナ」


つい最近、伯爵令嬢と正式に婚約発表したバルトロス王子だ。隣に並ぶ伯爵令嬢はまさに幸せの絶頂だと言わんばかりの笑みを浮かべているが、当のバルトロス王子は真逆の感情がその顔にありありと浮かんでいる。


「お久しぶりでございますバルトロス様。それと、ご婚約おめでとうございます。バルトロス様がお選びになった方だけあって、とても愛らしい方ですわ」

「まあ、ありがとうございます。クリスティーナ様のようなお美しい方に褒めていただき、嬉しいですわ」


伯爵令嬢はクリスティーナに褒められて喜んでいるが隣の王子の表情はまさに絶望そのものだ。まあそうだろうな。なにより大切にし、后に望むほどに愛していた存在に己の婚約を祝われることが、どれほど傷付くか・・・まあ、そこに導いたのは俺なのだけれども。


「本当にお似合いですよ。王子、もしクリスティーナのことを気になさっているのでしたらどうぞお気になさらずに。彼女も立ち直り既に次を考えておりますゆえ・・・ご婚約者様のことだけを大切になさってください」

「っ・・・」


クリスティーナの視線に入らないように憎しみの隠った眼で此方を睨むバルトロス王子に俺は敢えて笑みを浮かべた。もうお前の出る幕ではないのだと、彼女を幸せにするのは誰でもないこの俺なのだと目の前の男に知らしめるように、クリスティーナの細腰に腕を巻きつけた。






それから王子は俺達から逃れるように婚約者を連れて会場の中央に消えていき、その場に残された俺とクリスティーナはそれを見送ったあとそっと目を合わせた。



「お義兄様、先程のは少しばかり意地悪ではありませんでしたか?」



俺の仕掛けたことはどうやらクリスティーナにバレていたようで諌められた。



「ふふっ、クリスティーナの心を傷つけた報いだよ。あれくらい、心の広いバルトロス王子ならすぐに忘れてくれるさ」


まあ、俺の言葉は忘れてもクリスティーナからの祝いの言葉は刺となっていつまでも残るだろうけれど。クリスティーナの表情からすっかり立ち直り王子のことは過去として片付けられたことも今日はっきりと分かったから、早々に次の段階に進めなくてはならない。


「さあ、長居は体に悪い。邸へ戻ろうか」


さて、次は義父上の承諾を得なければ・・・月明かりに照らされた銀の髪に触れながら、娘を溺愛する彼の公爵の攻略法を思案し始めたのだった。

おにいたま、お腹の中は真っ黒け

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