俺だけのものに・・・
アーダルベルト視点です。まあ彼の攻略場面ではないので詳しくは書きませんが。
彼女に初めて会ったとき、あれが俺の人生を大きく変えたのだと今なら分かる。
「初めまして、バルトロス様の婚約者のクリスティーナ・ミハエルです。アーダルベルト様のお話はバルトロス様からよく聞いていました」
月の国の妖精姫のように透明な笑みを俺に向ける彼女に、俺は今まで受けたことのない胸の痛みを感じた。
ミハエル公爵家の愛し姫、月の女神の化身、それが彼女の愛称だ。俺は当時聖騎士になったばかりで彼女については噂しか知らなかったがそれでも彼女の類い稀ない美貌は聖騎士団は愚か社交界でも相当な噺種だった。それに加えて幼い頃からバルトロス王子の婚約者なのだから周囲が彼女を一度は拝みたいと思うは仕方がないことだろう。しかしまだ成人していないうえに大事に育てられてきた彼女は滅多に人前には現れない。王城へも数えるほどしか訪れたことはないらしいうえ、彼女を出迎える役目は王子自ら行うほどの徹底ぶりに、それほどまでに王子の心を掴む姫はいったいどんな令嬢なのだろうかと気になった。いつか会えるのだろうか・・・そんなことを頭の片隅に考えるようになっていた。
そしてそれが叶うことになったのは、俺が聖騎士隊長に就任してからすぐのことだった。次期国王であり俺の主になるバルトロス王子が彼女と俺を引き会わせてくれた。王子にしてみれば次期王妃の彼女を護るために国随一の剣の使い手である俺を彼女の傍にと考えたのだろう。しかしそれは間違いだった。なぜなら俺は一目で彼女を自分のものにしたいと思ってしまったのだから。
「アーダルベルト様は随分と静かな方なのですね。でも、多くを語らない方が信用するに足る人ですよね」
「私とお喋りしていて退屈ではありませんか?やはりアーダルベルト様は剣を振るう姿が一番ですわ」
「私が来る度に貴方の仕事を中断させてしまって・・・本当に申し訳ないです」
言葉を交わしたのはほんの数度だったが、それだけでも幸せだった。あの綺麗な声で、瞳で、俺だけに語りかけてくれる・・・それがどんなに俺を満たしてくれたことか。しかしそれも俺の不注意で失われた。彼女に触れようとしたところを王子に見られてしまったのだ。薄々気付いていたようだが今回のことが決め手となり公の場以外での接触を固く禁じられてしまった。
遠くから見る二人の姿に、何度拳から血を流しただろう。何度頭の中で王子に剣を突き立てただろう。幸せそうに微笑む彼女を見るたびに、隣に並ぶのは王子ではなく俺だったのにと、俺であるべきだと思った。いつか彼女を奪う・・・そんな考えがいつからか芽生えていた。しかし頭も良く警戒心の強い王子はなかなか隙を見せることはなく、無駄に時間が流れた。しかし好機はやってきた。王子が彼女を森へ連れていくと言うのだ。あそこは王領で王族以外は入れない。そして王子は彼女の周りに必要以上の男が寄るのを良しとしない。だから必然的に彼等を護るのは少数となる。チャンスだと思った。
俺の思う通り、二人の護衛は俺を含めた四人と侍女二人のみだった。王子もさすがに少数だと護りの弱さを懸念して俺を同行させたが、それが間違いだとすぐに気付くだろうな。その時にはもう彼女は彼の隣にはいないのだが。
湖ではしゃぐ彼女はとても美しく可憐だった。神秘的な場所と彼女の容姿も相まって、彼女を本物の妖精ではないかと疑うほど違和感を感じなかった。喜ぶ彼女を見た王子はさらに喜ばせようと奥地へ進んでいく。しかし彼の行動が護衛を引き離し、俺を動きやすくしたのだから皮肉なものだ。湖の源泉へ辿り着いた二人を影から見守る。愛し合う恋人のような二人にいますぐ引き裂きに行きたかったが今はその時ではないと歯を食いしばる。そして訪れた好機。一瞬の隙を見せた王子に俺は特別に調合された眠り薬を背後から嗅がせた。王子は瞬時に俺の存在に気付いたが一足遅かった。眼を見開いた王子は次の瞬間には深い眠りについていた。
ドサッと大きな音を立てて倒れた王子に驚きで紫の瞳を瞬かせる彼女に俺はゆっくりと近付いた。眠らせただけだと言っても恐怖からかその体を震わせて涙で膜の張った瞳を俺に向ける彼女が愛しくて、つい柔らかな体を抱き締めてしまった。想像していたものよりもずっと柔らかく折れてしまいそうな彼女が暴れても、俺は決して離したりしなかった。彼女が動くたびにふわりと香る花のような匂いが俺を刺激する。この場でその体を暴きたい衝動に駆られたが、彼女の柔肌を傷付けるのは本意ではないため諦めて彼女を眠らせ自分の巣へ連れて帰ることにした。
長く使い古したベッドへ彼女を横たわらせると、ここで漸くじっくりと彼女を見ることができた。カーテンを引いた薄暗い部屋に差す一条の光が彼女の体を仄かに照らす。キラキラと光る埃がまるで聖なる光のように彼女を包み、まるで汚してはならないと告げているようだった。俺は自らの手をゆっくりと彼女に伸ばす。艶のある美しき銀の髪も、今は閉じられているが透き通る紫の瞳も、汚れを知らない柔肌も・・・すべてが愛しく、それと同時に己の精で酷く汚してしまいたくなる。
己の中に蠢くこの情欲を彼女に受け止めてもらいたくて、俺は彼女が早く目覚めることを期待した。
「クリスティーナ・・・早く目覚めてその瞳に俺を焼き付けろ。これから貴女を汚すのは誰でもない、俺なのだから」
アーダルベルトの中のクリスティーナがやたら美化されている。これが恋なのね!!催眠姦をしないのは一応ある騎士道精神とやっぱり初めてはお互い覚えていたいという気持ちから。そして作者の都合(書いたらお月様行きですから)次はバルトロスも出るよ!!バルトロスの登場を暫し待て!!




