静かな誓い
見守ってくれてありがとうね
今日は、ソージュ様の拠点に
ルリが移動する日だ。
私は朝からいつもの3倍のスピードで
仕事をこなした。
「ケルナー、今日は何があるのか?」
シュラーフ様は、
さすがにおかしいと気付いたようだが
今日は、構っている暇はない
「今日は——-早く帰ります」
私の圧にシュラーフ様は
黙って首を縦に振っていた
とにかく、酒でも持って、
トーコの元へ向かおうとしてふと気付いた。
——-さすがに、お酒はまずいでしょう
仮にも男女だ。
私がシラフなら大丈夫ですが
しかし、酔っていたら?保てるだろうか?
——-無理ですね
私はどうするか、散々頭を悩ませ
"ベーレンを呼ぼう"と、結論を出した
ベーレンの執務室の前で待機している時に
——-そう言えば禁酒中でしたね?
と、思い出したが
トーコの元に連れて行けるほど
信用できる奴は、ベーレン以外には居ない
トーコのために、
頑張ってもらいましょう
彼も私と同様
トーコを守りたいと考える男です
私は頭を下げて
ベーレンに助力を願った
「俺は禁酒中だ!」
ベーレンは叫んだが、
結局付き合ってもらう事になった
——-優しい男ですね
私は思いつく限りの、トーコが好みそうな
食事や果物を買っていたら
「お前さん、マメだよな?」
と、ベーレンに言われたが
「普通ですよ?」
と返しておいた。
トーコを元気づけたくて、必死なのは
——-さすがに自分でも自覚しています
店に着くと、既に中は暗く
キッチンの奥の電気は付いていた。
その暗さに私は不安になり
いつもより慌てて扉にてをかざした
カランカラン♬
——-鍵すらしていないなんて
入り口のドアは開いていた。
いつもなら閉まっているのを確認した後
鍵を開けて入るのですが・・・
暗い店内を中に進むと、キッチンから
「ごめんなさい、今日はお休みなの」
と言って、トーコが出てきたが、
その顔を見て、
——-私はかなり動揺した
思っていた以上に辛いのだろう
もっと早くに来るべきだった
私は苦い気持ちを飲み込んで
「トーコ、一緒に呑みませんか?」
と、いつものトーンで話しかけた。
今、刺激したら
多分トーコは泣き崩れそうだ
「ちょっと、どうしたの?」
トーコは意外そうに聞いてきたので
「今日、ルリが出て行ったでしょう?いきなり1人は寂しいので」
と、あくまでもいつも通り接したのに
「ケルナーが思いついた癖に、1人じゃ無理だからって誘われたんだ。トーコ平気か?」
ベーレン、余計な事を言わないでください
やってしまったと、思った時には
「もぉ、やめてよー、せっかく、涙止まったのにーやだもーありがとう」
トーコはやっぱり泣き出した。
泣きながらも、お礼を言うのは
トーコらしいです
––––さすがに泣かれると胸にきますね
「トーコ、座敷を借りてもいいですか?」
とりあえず、トーコを座らせよう。
彼女はいつだったか
"座敷が一番落ち着く"と言っていたので、
座卓での宴会にしましょうね
トーコはスイッチが切れたのだろう。
ひたすら泣き倒している
思えば、トーコはずっと気張っていた。
転移した直ぐから、
ルリのために侍女として働こうとしたり
娘の為に透明化して資材を集めたり
娘を守る為にその身を犠牲にしたり
怒りのまま敵陣に乗り込んだり
私はその都度驚きました。
支えたいと思っていました・・・
私は泣き止まないトーコに
なんとか食事を取らせる為に
「ほら、トーコ、こちらも中々美味しいんですよ?このお酒なら、合うはずです」
と、次々と、少量ずつ手渡して行った
トーコは律儀だから、渡されたら食べる
タイミングを見ながら、
味見する様に少しずつ渡していた
ふと、ベーレンを見たら
酒だけを呑んでいたので、
「ベーレン、そのお酒なら、コレと一緒だと旨みが増しますよ」
と、お酒を中和する食材を勧めた。
直ぐにお酒は抜けるでしょう。
私がトーコに渡した
皿の空くタイミングを見ていたら
「ケルナー、お前少し休んだらどうだ?」
と、ベーレンに言われ、トーコを見たら、
彼女は既に出来上がっていた
——-ちょっと飲ませすぎましたね
やってしまった。気が急いでいたので、
顔色を見落としてました・・・
私は、ふわふわしているトーコの横に座り
トーコにお水を渡した
トーコは「ありがとう〜」と言って
水を飲んでいる
「ケルナー、お疲れ」
ベーレンは私にもお酒を注いでくれた
「ありがとうございます」
私も少しずつお酒を頂きながら、
横にいるトーコにちょっとずつ
酒を中和できるおつまみや
トーコの好きなフルーツを渡していた
完全に酔っ払ったトーコは
生まれる前から、今までのトーコのルリへの気持ちを、時に笑い、時には泣き、そして怒り、やっぱり最後には笑って
「でね・・・瑠璃がね・・・可愛かったのょ・・・」
「聞いてる?ケルナー」と言いながら
私にしがみついてきて
——-眠りましたね
私は今、トーコに抱きつかれている・・・
無理に動くと起こしてしまうので
頭を抱き止め、少し体を捩り
トーコの頭を自分の太ももに乗せた
トーコはスースーと眠っている。
やっと、ホッとして、お酒に手を伸ばした
また明日、泣くのだろうな・・・
だけど明日は幸せの涙なはずだ
私は気付けばトーコの頭を撫でていた
「お前、それ、どうするんだ?」
ベーレンに尋ねられ、
膝の上のトーコをみると
ふにゃふにゃ言いながら眠っている
私はフッと体の力が抜けた。
「後から、部屋に運んでおきます」
これだけよく眠っているなら
運んでも起きないでしょう。
私はそのままお酒を飲んでいたら
「お前凄いな?尊敬するぞ」
と、唐突にベーレンに褒められたが
何かしただろうか?
ふと、以前ベーレンがトーコに
告白した事を思い出した。
「貴方は、この先どうしますか?」
今はどう思っているのでしょう?
私は、どうするのだろう?
「俺の好きと、お前のは多分違うぞ」
違う?何が違うのでしょうか?
「違います?お互い見守る立場ですよ」
違うとしたら、
ベーレンよりも、私の方が本質的に
欲深いからではないでしょうか?
今日ここに来るまでは、
私はトーコを支えたい、と感じていました
彼女を守りたいとは言ったけど、
実際には、そんな必要ないだろうと
けれど、トーコの涙を見て
私の考えはあっという間に変わりました
——-私が守りたいと思ってしまった
今の私はトーコの大切に感じている
人や物、全てを守りたい
———-私は果てしなく欲深いんですよ
私はトーコの頭を撫でながら
たとえ、名前のつく存在にはなれなくても
—————-ずっと貴方のそばに居ます
と、心に誓った
その時、トーコが少し身じろぎをした
——-寒いかもしれませんね?
私はジャケットを脱いでトーコに掛けた。
彼女がいつだって安心して笑える様に
私も頑張らなければなりませんね
ケルナーは、猫でも撫でる様な気持ちでトーコを撫でてました。




