その言葉しか出てこなかった
まあ!まあまあ!あらーいいわねぇ?
魔王討伐任務の後処理に追われ、
気付いた時には、数日が過ぎ去っていた。
瑠璃に会ったのは、
任務で"女連れの時"が最後だと気付き
絶望的な気持ちになる
「マズイよな・・・」
俺は、執務室にあるソファに
ドサリと腰を下ろして、瑠璃の事を思う
「来なくていいわ」
あの一言が、俺の足を止めている
迷惑だったのかも知れない。
また、俺の独りよがりだったのか?
自問自答したところで、答えは出ない。
「ソージュ様、ちょっといいでしょうか?」
ペリルが入って来た。
「どうした?1人なんて珍しいな?」
いつも、チャコに張り付いているのに
「チャコはルリさんの所です。ソージュ様が不甲斐ないから、チャコが動きました」
ペリルはチャコが居ないから
不満なのか、俺に文句を言ってきた
「不甲斐ない・・・か」
そうだな、本当に、
俺は何でこんなに
臆病になっているんだ?
「チャコに対して粗相をした時の勢いは、どこに行ったんですか?」
それを言われると、返す言葉が無い
「大切なんだよ・・・邪魔したく無いんだ」
俺の気持ちより、
彼女の想いが大事なんだ
「ソージュ様、おめでとうございます。
やっと、ちゃんと理解したみたいですね?」
ペリルに祝いの言葉を貰い、
思わず顔を見た
「以前のソージュ様は、自分の気持ちを、
チャコに押し付けるだけでした。でも、今はルリさんの為なら、我慢出来てますよね?」
確かに・・・
「そうだな。以前とは、全く違うな。ペリルの気持ちもよく分かったよ」
ペリルはチャコが、
本当に好きだったんだな
「それなら良かったです。わからないままなら、勝手に認識を弄ろうかと思ってました」
ペリルは、サラッと怖い事を口にした
「せめて、一言言ってからにしてくれ」
ペリルになら、
何がされても不満はないがな
「ソージュ様、少しは拒否してください。それより、先日ケルナーから聞いたのですが」
ケルナーは、ルリの父親的存在だよな
・・・たまに殺気を感じたんだ
「トーコと話した時に、元の世界に帰ったら、こちらの記憶は、全く残らないだろう。ということが確認されました」
全く残らないだと?
「それは本当か?全く残らないのか?」
俺は少し焦った。
「召喚は、この世界て今まで何度も行いましたが、似通った時代から召喚されるのに、転移者の記憶は、噂すら全くないそうです」
なら、瑠璃も・・・忘れてしまうのか
「記憶にすら、残る事が出来ないのか・・・」
彼女の人生に、
確かに触れたはずなのに
「・・・今行く。ソージュ様、ちょっと、チャコを迎えに行って来ます。直ぐ戻ります」
チャコから連絡があったのか、ペリルはそう言って転移魔法で目の前から
スゥっと消えた
もし、帰ったとして、
せめて、記憶に残るなら、
良かったかも知れない
——-それすら叶わないのか
俺は途方に暮れてしまう
どうしたらいいのか、
全くわからなくなってしまったんだ・・・
俺は、紅茶のカップを握りしめ
俯き項垂れていた
目の前に、チャコとペリルが急に現れた
戻って来た様だ
「ソージュ!ちょっと、何してるのよ?」
チャコの声にハッとして手元を見ると
手が血で汚れていた
カップを強く握りすぎて、砕いた様だ
「ソージュ、瑠璃ね?ヤキモチだったよ」
チャコがゆっくり話をする。
ペリルは砕けたカップを片付け
俺の手に、治癒魔法をかけてくれた
「瑠璃はね?以前の私と同じで、かなり臆病になっているの。私も、つい最近までペリルの事、信じる事が出来なかったのよ?」
まさかと思った。
「2人は、相思相愛だったじゃないか」
そんな風に見えなかった
「相思相愛なのは本当だけど、好きだから不安になって。でもね?ペリルが信じなくてもいいって。そのままでいいって言ったの」
チャコはペリルを見て微笑み
「私はそんなペリルを、信じたかったの。
出来る出来ないじゃ無くて、自分の意思が、彼を信じたかった。だから今幸せなの」
そう言って幸せそうに、優しく笑った
「ソージュ、貴方はどうしたいの?気持ちを押し付けるのが怖いなら、気持ちを預けて、後は瑠璃に任せてみたら?」
気持ちを預けるか・・・
そんな考えは無かったな
「今は、ただ会いたいな」
他には何も思い浮かばない。
会いたいと口にしたら
俺はもう我慢出来なかった
衝動に駆られ立ち上がると
「ソージュ様、今から送りましょうか?」
ペリルが俺の行動の先を読んだのか
既に隣でスタンバイしている
「ああ、頼む」
俺はペリルと並び立つ
「ソージュ!ガッツリ瑠璃を口説くのよ!絶対帰しちゃ嫌だからね!」
チャコの要望に思わず笑う
「分かった。任せろ」
俺はペリルと共に
「メシヤ」の前に飛んだ
「ソージュ様、貴方なら大丈夫です。僕が動く前に、ちゃんと捕まえてくださいね」
そう言ってペリルは去ったが
「・・・それだけは辞めてくれ」
俺の言葉は空に消えた
店の中で、
トーコとルリが話をしているのが見える
俺は深呼吸をして扉を開けた
カランカラン♬
「あら、ソージュいらっしゃい」
トーコは、声を掛けてくれたが、
瑠璃は目すら、合せてくれない
席を立ち、裏に行こうとしたので
慌てて追いかけて、腕を掴み退路を塞いだ
「瑠璃頼む、俺の話を聞いてくれ」
瑠璃は渋々なのか、困った顔で
俺に掴まれた腕を見てから、こちらを見た。
その困惑顔を見て、一瞬怯んだが
瑠璃が、不安や動揺を必死に隠している
様子をみたら、気持ちが昂り
「好きだ」
色々考えていた筈なのに
その言葉しか出てこなかった
瑠璃は驚いたのか、固まっている
「この先ずっと、俺の隣にいて欲しい」
頼むから帰らないでくれ
俺の唯一の存在なんだ
俺に瑠璃は、無言だ
だけど、明らかに顔が赤い
「あ、あの」
瑠璃が何かを言いかけたが
「お話し中にごめんなさい。2人とも大事な話をするなら、立ってないで座ったら?」
トーコに指摘され俺は周りを
全く見ていなかった事に気付いた
席に着いたら
トーコがコーヒーを淹れてくれた。
「ソージュ、さっきの、プロポーズの言葉よね?ちょっと急ぎすぎじゃないかしら?」
と、トーコに言われ、
言葉を端折りすぎた事に気づく
話しかけたトーコの目に、笑みが見えた
しっかりしろと言われた気がした。
「すまない、やり直す」
俺は、どれだけ瑠璃が特別で
必要かを語る事にした




