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【完結】おかん転移 残念でした私が聖女です〜娘を癒すために異世界で食堂をはじめたら、娘に一途なイケメンが釣れました〜  作者: 黒砂 無糖
第3章 母と娘の恋模様

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甘い策略 前編

バレンタイン特別編╰(*´︶`*)╯♡

前編中編後編です。

お楽しみくださいませm(_ _)m


「二人に会えるのは嬉しいけど、チャコ、あなた、そろそろ臨月じゃないの?」


 今日は、アルゼとの定期的な約束で、チャコと私は王宮に招かれている。


「だって、赤ちゃんが生まれたら、当分お出かけできなくなるもの。アルゼにだってなかなか会えなくなるじゃない」


 チャコは、ぷっと膨れて見せた。


「そうだけど……」


 アルゼは、小さな体のチャコの、はち切れそうなほど大きくなったお腹が心配なようだ。


「アルゼ、お母さんが定期的に見てるから、チャコのことは心配しなくても大丈夫よ」


 チャコの性格的に、今はじっとしているとネガティブになりやすいらしく、お母さんからも気を紛らわすように言われている。


「トーコさんも、瑠璃が生まれる直前まで、動き回っていたらしいから平気よ」


 だから平気だと、チャコはアルゼに胸を張っている。


「それよりチャコ、ちょっと見ない間にアルゼはすっかり王妃様らしくなったと思わない?」


 先月会った時より、立ち居振る舞いが洗練されている。チャコも同意なのかうんうんと頷いている。


「あら、そうかしら? 毎日、嫌になるくらい教育して頂いているから、ちょっとはマシになったのかもしれないですわね?オホホ」


 アルゼは、振る舞いは上品に、わざとらしくチグハグな喋り方で笑いかけてきた。


「アルゼ、喋らないで。なんか台無しだわ」


 わざとだと理解していても、アルゼは今、仮にも国の王妃だ。


「三人の時くらい、いいじゃない。最近は、猫被りすぎて……いっそ猫になりたい」


 アルゼはヨヨヨと、フカフカのソファの袖にしなだれかかった。


「どうせアルゼは猫になって、シュラーフ様のお膝に乗りたいんでしょ?」


 チャコは、お茶請けに出されているクッキーを食べながらアルゼを揶揄い始めた。


「だって!!シュラーフ様は最近忙しくて、なかなか二人の時間が取れないし。思うくらいいいでしょう?」


 今度はアルゼがぷっと膨れている。


 国王と王妃は仲睦まじく、先日、めでたくもアルゼの懐妊が認められた。


「毎度、来るたびに惚気るわよねぇ。その調子ならフェルゼンは安泰ね?」


 きっと、アルゼは子沢山になりそうだ。


「そういえば、そろそろバレンタインの季節だよね?」


 チャコはそう言って、お皿に盛り付けられているチョコレートに手を伸ばしていた。


「チャコ、カフェイン入っているから、ひとつだけにするのよ」


 私が、チャコを指摘すると、


「え?そうなの!? ならやめとく」


 しゅんとして、チョコレートから手を引いていた。


「少しだけならいいんじゃない?」


 アルゼが私に確認してきたので、


「たくさん食べなければ大丈夫よ?」


 と、伝えたけれど、


「いい、後から気になるからやめとく」


 チャコは、そう言ってお腹を撫でていた。


「そっか、大事にしたいもんね」


 アルゼも、チャコに釣られて自分のお腹を気遣っていた。


 ——なんだか、羨ましいな。


 お腹を幸せそうに撫でる二人を見て、私はちょっとだけ羨ましく感じていた。



「それよりも、バレンタイン!!」


 私の感傷的な気持ちをぶち破るように、チャコは急に大きな声を出した。


「バレンタインがどうしたのよ?」


 アルゼも驚いたのか、びっくりした顔でチャコに声を掛けた。


「チョコレートがあるなら、この世界にバレンタインはないのかな?」


 チャコは首を傾げて、アルゼに尋ねている。


「国の祭事やイベントでは聞いたことないわ。瑠璃は何か知ってる?」


 アルゼが尋ねてきたけど、


「民間の行事でもないわね。でも、日本の時期的に考えると今頃よね?」


 バレンタインか……


 私はちょっと昔を思い出してしまった。


「チャコと瑠璃は日本にいた時、どう過ごしていたの?」


 アルゼは転生者だから、行事としてのバレンタインは知っている。


 ただ、記憶がないから、私とチャコの過去が気になったのだろう。


「あー、ちょっと……」


 チャコは、私と同じくらい苦笑いだ。


「……チャコも私もろくな思い出がないわ」


 チャコも、私と同じくらい。いや、それ以上に男運がなかったので、力なく笑う。


「……なんか、ごめんね?」


 アルゼは、目の座った私たちを見て、顔を引きつらせながら謝ってきた。


「今が幸せだから、気にしなくていいわ」


 ありがたいことに、今はもう、過去を思い出しても笑っていられる。


「ねえ、みんなで旦那様にあげてみない?」


 アルゼはソワソワしながら提案してきた。


 私は、ソージュにあげたら喜ぶかな?と考えてみた。


 ——喜ぶ……わよね?



「旦那様?」


 チャコが、うーむと眉を寄せている。


「え?旦那様にあげるのはダメなの?」


 アルゼは、ギョッとしている。


「今更ペリル相手じゃ、チョコレートをあげるのに全くドキドキしないわ」


 チャコは、ふぅとため息をついた。


「チャコ、気持ちはわかるけど、なんだか随分悩ましげな表情ね?」


 ペリルに不満でもあるの?


「え?チャコと瑠璃はドキドキしないの?」


 アルゼはショックを受けたのか、両手を口元に当てている。


「アルゼはまだドキドキするの?お腹に子供がいるのに?」


 チャコは、首を傾げてアルゼを見ている。


「だって……ほら、私、長い間シュラーフ様に片想いだったから」


 アルゼは、今でもそばにいるだけでドキドキするらしい。


 ——ちょっと羨ましいな。


「あー、アルゼたちはお互いがそうだったね」


 チャコは、納得したのか頷いている。


「瑠璃とチャコは?全くドキドキしなくなったの?」


 真っ直ぐなアルゼの瞳に、私は居心地が悪くて思わず目を逸らしてしまった。


「今の私は、全くドキドキしないわ」


 チャコは、あっけらかんと言い放ったけど、私は、開き直るほどの域に至っていない。


 ——なんだか後ろめたいわ。


「瑠璃と私は毎日、旦那様との距離が近すぎるから、ドキドキしていたら身が持たないわ」


 チャコはふう、とため息をついた。ソージュもペリルも愛情過多なので、私もチャコも毎日お腹いっぱいなのよね。


 チャコの的を射た言い分に、ホッとした。


 ——ドキドキしないのは保身のためね。


 超絶美形の旦那様なのに、ドキドキしないとか、自分は薄情なんじゃないかと少し心配したけど、そうではなかったらしい。


「瑠璃、そういえば、ケルナーとトーコさんはどうなってるの?」


 アルゼが急に、お母さんとケルナーについて尋ねてきた。


「どうって?」


 何か、特別なことでもあったかな?


「確かにあの二人、最近いい感じよね?」


 チャコが、ニヤニヤしながら私を見た。


「あー、ふふ、ケルナーは隠してないよね」


 ケルナーが、ずっとお母さんのことを思っているのは、私も分かっている。


 いつもお母さんを気にかけてくれている。


「でも、全く距離感変わらないわよね?」


 アルゼから見ると、あの二人の関係は不思議なんだろうな。


「多分、お母さんの気持ちを尊重してるんだと思うわ。ケルナーは絶対気持ちを押し付けたりしないから」


 遠慮とは違うのよね。


 ケルナーはただひたすら、お母さんの心を一番にしているだけだ。


 ——だからお父さんみたいなのよね。


「でもそれって、この先も絶対変化しないやつじゃない?」


 アルゼはおでこに手を当て、天井を見た。


「でも、ケルナーはそれでいいみたい」


 二人とも、関係を進展させたいわけではなさそうよ?


「はぁー、なんか大人だねー、そっかー」


 アルゼはため息をつきながら、ゆるく首を振っている。


 もしかして、まだ独身のケルナーのことを、シュラーフから何か言われているのかな?


「うーん、ケルナーねぇ」


 チャコが、意味深にニヤリと笑った。


「チャコ?」


 ……何を企んでいるの?


「ケルナーに、バレンタインのことを教えてみない?」


 チャコは、楽しそうに提案してきた。


「え?お母さんに伝えるならまだしも、ケルナーに教えても……」


 多分、何も変わらないわよ?


「瑠璃、違うよ?バレンタイン、贈り物はケルナーからトーコさんにだよ」


 チャコはどうよ?とウインクをしてきた。


「何それ?いいじゃない! ありよ!あり! 今から、ここにケルナーを呼びましょう!」


 アルゼはなぜか張り切っているし……


「さすが王妃様。使える権利を発動ね?」


 チャコも乗り気のようだけど……


 あの二人に限って、関係が変化するとは全く思えないのだけど……


 ——とりあえず黙っておこう。

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