豆は人に撒くものじゃない。後編
後編です。(˘・з・˘)ポリポリ
「それで……浮気でもされたのか?」
ケルナーは、静かに瑠璃に尋ねた。
「ちょっと、ケルナー、妻の瑠璃がいるのに、そんなはずないじゃない!」
そもそも瑠璃より素敵な娘なんて、あり得ないわ。
とは思っても、私は結婚は上手くいかなかったので、ちょっとだけ不安になった。
「……浮気はしてないと思う。でも、時間の問題かなって」
瑠璃は力無く笑った。
――そんなこと、絶対許せないわ!
「ルリは、なんでそう思ったんだ?」
気持ちが逆上しそうな私とは違って、ケルナーは穏やかに静かに話しかけている。
私も落ち着かなきゃ……
「だって、男の人って、みんな、若くて可愛い子がいいんでしょう?それにソージュ、前はチャコが好きだったし……」
瑠璃は膝を抱え、諦めたような顔をした。
「瑠璃、それは……」
私が話そうとしたら、横からスッとケルナーの手が現れ、口を塞がれ止められた。
――ケルナー、何で止めるの?!
「ルリ、男を一括りにしてもらっては困る。人を好きになるのに、年齢は関係ない。少なくとも私は違うし、彼も違うと思うよ」
ケルナーはハッキリといい切った。
「どうしてそう思うの?」
瑠璃はケルナーをじっと見つめた。
「以前、彼から直接聞いた。そもそも、彼は女性嫌いだ。チャコちゃんは、初めて自分に狂わなかったから、惹かれただけらしいよ」
簡単に瑠璃に説明をしたケルナーを、私はじっと見てしまった。
ケルナーはソージュの味方なのかしら?
「あら、ケルナーいつの間にソージュとそんな話をしたの?」
いつの間にか、そんな話をしていたのね?
「ん?まあ、以前ちょっとね」
ケルナーは私にニコリと笑いかけた後、瑠璃に向き合った。
「彼にとって、ルリは何よりも大切な存在だと言っていたが、違ったのかな?」
瑠璃を甘やかすのかと思ったら、さっきからケルナーは、瑠璃にソージュの気持ちを理解させようとしている。
「……大切にはされてるわ」
瑠璃は、ソージュの気持ちはきっと分かっている。でも、その上で納得できないのだ。
「彼の思いが心配か?」
ケルナーは、瑠璃の本心を知ろうとしてる。
知った上で、瑠璃にお説教するのだろうか?
「だって!私は昔裏切られてばかりだったから、彼が美女にチヤホヤされてると……」
瑠璃の声が、はじめは反抗的だったけど、だんだん小さくなっていった。
「ルリは、彼に嫉妬したのかい?」
ケルナーが静かに穏やかに、真っ直ぐに尋ねたので、瑠璃は本心を溢していく。
「……不安になるの」
良かった。ソージュが瑠璃に対して何かした訳じゃなかった。
――瑠璃の一人相撲だわ。
瑠璃の過去の不安をぶつけられても、ソージュは困るだけだろう。
どうしたものかと思っていたら……
「そうか、ルリを不安にさせたなら、私からもソージュ様に文句を言わせて貰おうか」
低く圧のある声でそう言うと、ケルナーは急に立ち上がった。
「え?ケルナー?」
説教されるだろうと思っていた瑠璃は、びっくりした顔でケルナーを見上げた。
「ちょっと、ケルナー!」
ソージュに文句を言うのは私の役目よ!!
立ち上がり、ケルナーに歩み寄るが、彼は勢いをつけて襖を力強く開いた。
スパーン!!
「え?ソージュ!なんでいるのよ!!」
襖の向こうには、ソージュが居心地悪そうに立っていた。
――いつからいたのかしら?
見た感じ、話は聞こえていたのだろう。
「ルリ、やっぱり迎えに来た。ずっと怒っていたのは嫉妬だったのか?」
ソージュは悲しそうな顔で、瑠璃に近づこうとしたが……
「ソージュ様、お下がりください。話を聞いていたなら尚更、ここは通しません」
ケルナーが、彼の行く手を阻んだ。
「なぜだ?!俺は浮気などしていない!」
ソージュは驚いた後、ケルナーを不満そうに見つめた。
「そんな事は当たり前です。でも、あなたはルリを不安にさせました。他の誰かが許しても、私はあなたを許しません」
ケルナーは、そもそも瑠璃に説教する気などはなかったようだ。
正真正銘、100%瑠璃の味方だった。
「……ケルナー」
だから、それは私の言葉……
「ケルナー、なんでそんなにルリを……まさか!お前、ルリを……?」
ソージュは誤解したのか、顔を青くしてケルナーを見つめた。
「娘だと思っておりますが何か?」
ケルナーは、全くブレなかった。
「……いや、そうだ。お前はそうだったよな。ケルナー、どうあれ俺は、ルリを悲しませてしまった……申し訳ありませんでした」
ソージュはケルナーに深く頭を下げた。
――いや、謝るなら私によね?
「どう、落とし前つけるおつもりですか?」
ケルナーは尚もソージュを責めている。
「……慣れてきて、いつの間にか気が緩んでいたらしい。側にいるのが当たり前だと思わずに、常にルリがいる幸せに感謝するよ」
ソージュの言葉に、瑠璃は少し安心したのか、表情に不安定さがなくなった。
「ねえ、ソージュ、あなた、本当にルリだけを愛しているの?」
ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないわよ。
「当然だ。ルリ以外は要らない!」
ソージュは瑠璃を見てハッキリと告げた。
「と、言ってるが、ルリ、どうする?嫌ならつまみ出すぞ?」
ケルナーは、ソージュを追い出す気満々だけど、瑠璃に決めさせるようだ。
「……ケルナー、お母さん、ありがとう」
瑠璃は、ソージュの側に行くと穏やかな顔になり、私達にお礼を伝えてきた。
「娘の味方をするのは当然よ。ソージュ、万が一にもルリを蔑ろにしたら、その時は、全力で娘を取り返しに行きますからね」
私はソージュをじっとりと睨むと、バシンと背中を叩いた。
「では、私からはウンザリするほど手間が掛かる仕事を、山ほど振りましょうかね」
ケルナーはソージュを見つめて、にっこりと微笑んでいる。
もちろん、目は全く笑っていない。
「お父さんお母さんごめんなさい!彼、今でも充分忙しいから、仕事はやめてあげて!」
瑠璃、あなたいつからケルナーをお父さんって呼ぶようになったのよ?!
って、それは今はそんな事どうでもいい。
「瑠璃、素直になりなさい。ソージュは瑠璃しか見ていないわ。くだらない誰かと比較したら彼が可哀想だわ」
今まで、瑠璃の男運が悪すぎたのよ。
「ルリ、ソージュ様が嫌になったら、なんとかするから、いつでも私に言いなさい」
ケルナーはいつからこんなに……
「ケルナー、俺に対して厳し過ぎないか?」
ソージュは、瑠璃を抱きしめたまま、ケルナーに不満を募らせた。
「当然です。娘として見守ろうと心に決めたら、あなたがあっという間にルリを攫っていったのです……泣かしたら許しませんよ?」
ケルナーはいつそんな覚悟をしたのかしら?
「うっ……ハイ。絶対泣かしません」
ソージュは顔を引きつらせ、素直にケルナーと約束をした。
瑠璃は、幸せそうにソージュを見ている。
「瑠璃、帰るなら、恵方巻きを持って行きなさい。チャコちゃんも喜ぶわ」
私は手早く恵方巻きを纏めると、瑠璃に渡す鞄に詰めた。
「うん。あ、豆も少し貰っていい?」
瑠璃は、豆の升をチラッと見た。
さすがに、もう彼にはぶつけないだろう。
「まさか、歳の数食べるの?なら、このまま、持って行きなさい」
私は豆を浄化して、升ごと瑠璃に渡した。
「え、こんなに?」
まさかそのまま貰えるとは思わなかったのか、瑠璃は驚いている。
「みんなで食べなさい。お母さんは、今からまた追加で豆を煎るわ」
大豆はまだまだ、たくさんストックがある。
「ありがとう」
瑠璃は嬉しそうに、ソージュに升と豆を見せている。
「瑠璃、お母さんはここにいるから、辛かったらいつでも帰ってらっしゃいね」
私が娘に出来るのは、安心して帰れる家を用意しておくだけだわ。
「トーコ、ルリにそんな思いはさせない。本当に、心配をかけて申し訳なかった」
ソージュが頭を下げ、2人は腕を組んで仲良く帰っていった。
「ソージュは、存在自体が人騒がせだから、心配になるのも仕方がないわね。ケルナー、ありがとう。ちょっとかっこよかったわ」
――色々とお株を取られた気分だけどね?
心の中には少々不満はあるが、まあいい。
「そうですか?ありがとうございます」
ケルナーは、私の心が見えるのか、フッと目を細めて笑った。
キッチンに戻ると、私は再び大豆を取り出して炒り始めた。
「瑠璃ったら。私が聞くより、ケルナーが聞いた方が素直なんだもの。焼けちゃうわ」
私だけだったら、瑠璃はこんなに早く素直にはならなかったわ。
「悩みの内容によると思いますよ」
ケルナーは、やっぱり穏やかな顔で宙を舞う大豆を見ている。
その横顔があまりにも父親っぽくて……
「でも、なんだか母として悔しいわ」
思わず本心が出てしまった。
「……トーコ、いつも私に、父親の役目をくださりありがとうございます」
ケルナーは私に向き合うと、やっぱり穏やかな幸せそうな笑みを向けてきた。
「やだ、そんな風に言われたら、文句言えないじゃない」
この人、こんな笑い方する人だった?
――やっぱり、ケルナーは卑怯だ。
「ふふ、良かった。トーコには文句を言わせるつもりはありませんよ」
なんだか、いつも親子揃ってケルナーの手のひらの上よね。
――勝てる気がしないのよ。
「嫌な人ね?ほら、豆ができたわ。本来歳の数だけ食べるんだけど……」
えっと、私今何歳だったかしら?
「我々の場合、豆の数が莫大では?」
ケルナーも、豆を見て固まっている。
「そうね、これは、さすがに食後に食べる量じゃないわね」
これだけで満腹になるだろう。
お互い、無言で数粒をぽりぽりする。
「残りは全部きな粉にして、スイーツでも作ろうかしら?」
私の言葉に、ケルナーは深くうなづいた。
節分回、最期まで読んで頂きありがとうございました。
毎度ながら、トーコ達の日常は当たり前のように続いています。
次はバレンタイン♡誰のお話がいいかな。誰が見たいとか、希望ありますか?
もしあったら教えてくださいね!
では、また・:*+.\(( °ω° ))/.:+




