表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/62

第7章:物語はわたしが紡ぐ(10)

『エルフォリアの迷宮』攻略から、三日が過ぎた。

 その間、わたしがしていた事と言えば、ベッドに横になっている事。

 自覚している以上に消耗してたらしくて、医師から充分な食事としっかり安静を言い渡されたのだ。


「んまああああ、アリエル様! ヘメラは気が気ではありませんでしたのよ!」


 食事を持ってきたヘメラのこの嘆きも、生きているからこそ聞けるのだと、微笑ましくすらある。


「天使ちゃん、天使ちゃんは儂を置いて死なぬよな? 死なぬよな!?」


 お父様、療養すれば大丈夫だって医師も言ってるから、耳元で叫ばないでください。


「お姉様、私、シンと一緒に故郷に帰ります。結婚したらお手紙をお送りしますので、楽しみにしていてくださいね!」


 もうそこまで話が飛躍して、夢見る乙女全開なニナの隣で、完全に諦めモードの人型のシンが、形ばかり礼をする。

 うーん。一応ミナ・トリアの、というか東の大陸(エス・レシャ)の救い主である『聖女』なんだから、国を挙げて結婚式をして良いんだぞ? 帝国から経費出そうか?

 そう言おうと思ったけど、『エルフォリアの迷宮』でニナが零した願望は、本当にささやかなものだったから、大勢の人に見守られずとも、信用の置ける人達に心から祝ってもらえれば、彼女は幸せなんだろうな。


 そして、イルは。


「……イル」


 ベッド脇の椅子に座って、赤い瞳がじーっとこちらを見てくるのが恥ずかしく、寝返りを打って背を向ける。


「そんなに心配しなくても、すぐに良くなりますわよ」


「いえ」


 背中越しに、彼が首を横に振る気配がした。


「一瞬でも目を離して、また貴女がいなくならないように。ここに居させてください」


 そう。

 イルは皇城に帰ってからこのかた、全然わたしの傍を離れない。親猫に置いていかれて怖い思いをした子猫のように、ずーっと付き添っている。


「ルーイ様が元気になったら、どこへでも行きましょう。それまでは」


 だから、そういう事言われると、期待しちゃうんだってば。

 ……いや、今だからこそ、言ってみていいのか?


「イル」


「はい」


 また寝返りを打って、イルの方を向く。何か真面目な話があると察したのだろう。彼が椅子に座り直して、膝の上に拳を置く。

 その拳に手を伸ばして、そっと包み込む。


「貴方には、どこにも行って欲しくないです」


 うわー……これ物凄い緊張するな。お父様にバラそうとした時より声震えるかも。


「貴方には、わたくしの隣に居て欲しいのです。貴方は、わたくしの隣に『居る』事で、『イル』となれるから」


 イルが戸惑い顔で不思議そうに首を傾げる。あっ通じてないなこれ。やっぱりこの子にはストレートに言わないとダメか。


「わたくしはこれから皇帝として生きます。その時、伴侶としてわたくしを支えていて欲しいのです」


 赤い目が、真ん丸く瞠られた。

 まあそりゃあ驚くよね。主君にいきなり求婚されたら、臣下は仰天しますわな。

 イルはわたしの顔を見たり、視線を外したり、を繰り返している。段々不安になるくらいの時間が流れた頃。


「……嫌です」


 ぽそり、と飛雄くん声が鼓膜を叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ