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第7章:物語はわたしが紡ぐ(6)

 気がついたら、まっしろな世界を歩いていた。

 どこまでも、どこまでもまっしろで、何にも無い。

 あっ、これ、とうとう死んだかわたし?

『セイクリッディアの花輪』の物語を終えて、悪役女帝破滅フラグを回避しきって、お役御免になっちゃったか。


「……そう、かあ」


 ぽつりと呟く声も、白い虚空に溶けてゆくだけ。聞き届けてくれる人は、誰も居ない。


 死後の世界って、こんなにも静かで、こんなにも孤独なもんなんだなあ。

 もう少し、「ようこそ天国へ!」くらい熱烈歓迎があるかと思ったもんなんだが。それとも、「アーリエルーヤ」に転生したわたしは、世界の摂理に逆らった罰として、永遠にこの孤独な空間を彷徨い続けるんだろうか。


 寂しい、な。


 もう、誰にも会えない。顔を見られない。声も聞けない。

 あー、やだな。後悔なんて、「向こう」からこっちに来た時には全然無かったのに、今、すっごい未練がましい。

 もっと生きたい。

 お父様に親孝行するって決めたんだ。

 ヘメラにもそろそろ楽をさせてあげたいって思ってたんだ。

 皇城の人達とも結構仲良くなってきたし。

 ニナとシンの幸せを見届けたいし。

 ケージも段々愛着湧いてきたんだぞ。


 そして。


 イルに、言いたい。

 好きだよって。

 これからも傍にいて欲しいよって。

 国を発つ時のあれの続き、しても良いのは君だけだよって。


 ぱたぱたぱた、っと。白い地面に水滴が落ちる。

 こんな所に雨なんて降るんだろうか。一瞬不思議に思って頭上を見上げたわたしの頬を、伝い落ちるものがある。

 あ。あーそうか。そういう事ですか。

 気づいてしまうと、もう流れるものは止まらなかった。その場に屈み込んで、子供みたいにしゃくりあげる。


 と。

 誰もいない、何も無いはずのわたしの頭上に影が差して。


「何、情けない姿をしているの。『烈光の女帝』が」


 物凄く聞き覚えのある声が、わたしの耳に届く。


 えっ。あっ。ハイ?

 まさかこれって?

 逸る心臓に静まれと言い聞かせながら顔を上げれば。


 もう十一年見ていなかった、「わたし」が。

 腰に手を当て、眉をつり上げて、わたしを見下ろしていた。

 でも、眼鏡をかけて、長い髪をひとつにしか結えない、冴えない「わたし」じゃない。化粧ばっちり、髪も染めて巻いて、めちゃくちゃできるOLみたいな服装に身を包んでいる。

 これはもしや。恐る恐る、名を呼んでみる。


「……『アーリエルーヤ』?」


 それを肯定するかのように。

「わたし」が、ニヤッと笑んでみせた。

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