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第7章:物語はわたしが紡ぐ(1)

 フッフフー……。


 ピンチです。

 いきなりですが最大のピンチです。


「ほ、本当に申し訳ございません、アリエルお姉様……」


「だから、油断したわたくしも悪い、貴女だけのせいではない、と何度も言っているでしょう。次に謝ったらデコピンですわよ」


「はっ、はいい……ううう……」


 ニナは逞しい顔で半べそをかきながら、足をくじいたわたしを背負って、薄暗い道を行く。


 そう、ここは『エルフォリアの迷宮』。

 の。

 どこだかわかんねえ!!


 のである。


 イルが辺境へ発った後、わたしはニナを呼び立てて、『エルフォリアの迷宮』攻略に同行する旨を言い渡した。


「あっ、あっ、ありがとうございますアリエルお姉様! まさかお姉様に案内していただけるとはハウッ!」


 また例のごとく心肺停止しそうになったニナの隣で、彼女に憑いた悪魔だというヒョロ男が、やたら優雅な礼をしてみせたのだ。


「新皇帝陛下御自らご案内くださるとは、恐悦至極。このフォクスロキ、「聖女」ニィニナの分まで、心より御礼を申し上げます」


 あっ。そういやこいつの声聞き覚えあるぞ。

 シノこと篠原慎一だ。

「わたし」の友人の最愛声優。昔は主役を張った作品がことごとくけっちょんけっちょんに言われたけど、今は中堅として若手の脇をしっかり支えている。実写映画に出演したり、歌も歌う上に、トークも上手い。更には超有名な愛妻家。欠点らしい欠点と言えば、最近幸せ太りですっかりおっさんになった事だが、まあそれもご愛敬の内よと、友人は惚気ていた。


 そのCVシノがラスボスかー。

 正直、友人の顔を思い出してやりづらいな、とは思ったが、こちらも破滅フラグをへし折って生き残る為に命懸けてるんだ。


「ええ、よろしくお願いいたしますわ」


 わたしは偉そうに腕組みなんてして、不敵に微笑んでみせた。


 までは良かったんだが。


『エルフォリアの迷宮』は、リバスタリエル皇族の墓所。リバスタリエルの血をもってその扉を開く。

 入口の認証石版(これがどういう仕組みになっているかはわたしにもわからん、設定しなかったんだ)の前で、短剣で軽く小指の先を切り、一滴血を垂らすと、石の扉は重たい音を立てて開いた。

 この中に進むのは、わたしとその肩に乗るケージ、ニナとその傍らに当たり前のように付き添う、なんか狐みたいな名前をしたCVシノの『掟知らず』。万一はぐれてわたしの加護から離れたら、迷宮の凶悪な罠に呑み込まれるだけなので、それ以上の同行者はわたしが許さなかった。

 ……というのは建前で、悪魔との戦いなんて、知らない人がすぐに信じて対応できるものじゃあないからね。できるだけ、わたしとニナだけで、ケリをつけたかったからだ。


 長年閉ざされた墓所特有のかび臭さと、どういう理屈で焚かれているのかわからない灯り。そしてどこからともなく漂ってくる冷えた空気。

『セイクリッディアの花輪』で「わたし」が書いた通りの迷宮が広がっている。

 でも大丈夫。わたしがいる限り、迷宮の罠は発動しない。


「な、なんだか不気味ですね、お姉様。ほら、このガイコツなんていかにも……」


 そうそう、ニナがうっかりいつものドジを発揮してガイコツとか余計な物に触らなければ……って。


「何故触ったーーーーーッ!?」


 わたしがツッコミを入れるが早いか、がばっと、足元の床が消失して。わたしとニナは奈落の底へ落ちてゆく。

 頭上から、『掟知らず』が、黒い瞳を細めて笑っているのが見えたような気がした。

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