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サンタ希望者に祝福を

クリスマス及び誕生日の短編です

 クリスマスが今年もやってくる。いくら阻みたいと思ったとしても、そういうものと決まっている以上、この世界の誰にもクリスマスを止めることはできない。

 それは誕生日も同じである。

「クリスマスの雰囲気は好きですけど、僕、誕生日がクリスマスイブなんですよね」クリスマスがあと数日に迫った頃。僕はすっかり根城にしている曽根崎さんちにてぼやいた。「だから誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントと一緒にされがちで、そこは切ないなーなんて思ったり」

「わかる」

「わかられちゃった。そういや曽根崎さんの誕生日、クリスマスでしたっけ」

 こんな偶然もなかなかないだろう。そういうわけで、思わぬ仲間を得た僕は割と心穏やかにクリスマスイブを迎えたのである。

 小さいケーキと一番安いチキンを買って、その一部を曽根崎さんの口に突っ込むことでこれを経費扱いとする。曽根崎さんの食費は経費で落ちるから、こういう裏技を駆使すればクリスマス及び誕生日ディナーをエンジョイできるのだ。

「そんなことをしなくても」でっかい鶏肉の塊を無事嚥下した曽根崎さんが言う。「君さえその気なら夜景が美しいレストランを一晩貸切にするのに」

「僕みたいな庶民がその条件で120%楽しめるわけないでしょう! 胃をがちがちに強張らせて味もわからなくなって終わりです!」

「情けないことを自信満々に宣言するんじゃない」

 事実なんだから仕方ないだろう。それでも現状、近年稀に見るハッピーなクリスマス及び誕生日なのだ。

 僕はほくほくと温かい気持ちでベッドに入った。今晩も曽根崎さんはリビングのソファで寝るらしい。そろそろ自分用のベッドを買えばいいのにな……と思ったが、そういや今僕が寝ているベッドこそ曽根崎さんのである。

 まあ……いいか……。

 思考を放棄し、僕は入眠した。遠くでシャンシャンと鈴の音が聞こえた気がして、またほっこりと幸せな気持ちになった。




 一方、一人リビングに残る曽根崎は、ふうとため息をついた。やたら騒がしい一日だった。竹田景清という人間は、誕生日を忌避する割に祝われると非常に喜ぶらしい。また、ああだこうだ言う割にクリスマスの雰囲気自体は好きなようだ。結果、いつもよりテンションの高い彼から品数の多い夕食を振る舞われ、プレゼント交換までさせられた。

 ……もっとも、自分も悪い気分ではないのだが。

 だからこそ、景清の一日をそのまま終わらせてやりたかったのである。曽根崎はもう一度ため息をつくと、低い声で言った。

「そろそろ出てきたらどうだ」

 声に応答したのは、シャンシャンという鈴の音。キッチンからである。見ると、そこから知った男が顔を出していた。

「バレていましたか」

 藤田直和である。

「バレていましたか、じゃない。不法侵入で通報するぞ」

「ここらの警察とは全員寝たから大丈夫です」

「不法侵入に名誉毀損も追加」

「あー! やめてください! なんで嘘だと決めつけるんですか。オレならワンチャン可能性あるでしょ!」

「名誉毀損は嘘だろうが真実だろうが社会的評価を低下させれば成立するんだよ」

「うええええん、曽根崎さんの聖夜をオレの体で素敵に彩ってあげますから見逃してくださいー」

「呆れた自己評価の高さだな。で、何をしに来た?」

 そう曽根崎が尋ねると、藤田は指をもじもじとさせた。

「えーと……景清のね……サンタさんになってあげたいなって思って……」

「ならばプレゼントだけよこせ。彼が完全に眠った頃に枕元に設置しておいてやろう」

「それだとオレ、景清の寝顔が見られないじゃないですか!」

「別にいいだろ。サンタクロースだって、こどもの寝顔を対価に無償事業を行っているわけじゃないんだ」

「オレはそういうタイプのサンタなんです!」

「二度とサンタを名乗るな」

 だがここで曽根崎はもうひとつの気配に気づいた。足音を消して寝室に忍び寄る。そして、開きかけていたドアをぴしゃりと閉めた。

「ひゃんっ!?」

 かわいいハスキーボイスで驚いたのは、柊である。

「も、もう! びっくりしたじゃない、シンジ! 気づいてたなら一声かけてよ!」

「生憎と闖入者にかける言葉はなくてな。君まで何をしているんだ」

「そっちのナオカズと一緒よ。ボク、景清のサンタクロースになりに来たの!」

「そうか。私が渡しといてやるから帰れ」

「嫌よ! アンタ絶対中身を検閲するでしょ!」

「逆に検閲されると没収されそうなものをプレゼントに選んでいるのか」

「そんなことないわ! そんなこと……。……。そんなことないわ」

「今露骨に考える間があったな」

 曽根崎は警戒して寝室のドアの前に陣取った。こうなると柊はお手上げである。彼女はずかずかと藤田のほうへと向かった。

「ねえちょっとナオカズ、話が違うじゃない」柊は藤田に詰め寄る。「シンジはいかがわしい乱痴気パーティーに出かけてるんじゃなかったの?」

「ごめん! オレってばてっきり、クリスマスに予定がない人は全員いかがわしい乱痴気パーティに行くのが常識だって思ってて」

「アンタの非常識にボクを巻き込まないでくれる!? んもう、プレゼントの中身がびっくりしちゃうでしょ!」

「中身、生き物なの?」

 藤田の問いに柊は答えなかった。よって曽根崎はますます警戒した。

 だが、曽根崎の頭脳は別の訪問者の気配を察知していた……。

「……まだそこにいるな? 私の目をごまかせると思うなよ」

 しばらくの間沈黙があった。だが、諦めたのだろう。「チッ」という舌打ちとともにソファの後ろから阿蘇が姿を現した。

「なんでわかったんだよ」

「簡単な推理さ。このマンションの鍵を持っている者、かつ、この二人がつるむと知って監視をしそうな者は忠助しかいなかった」

「マジで簡単な推理だな。クソッ、おいテメェら、面が割れちまったならこのヤマは切り上げるぞ!」

 阿蘇が藤田と柊に声をかける。だが二人は揃ってイヤイヤと首を横に振った。

「だってオレ、まだ景清の寝顔舐めてないし」

「ボクも景清が驚く顔見てないし」

「それにせっかくみんな揃ったんだし、クリスマスパーティーとかしたいし」

「お酒飲みながら夜の特番見たいし、もっとおしゃべりしたいし」

 もしょもしょと往生際の悪いことである。しかし二人ともここ数日激務で、この日を楽しみに生きてきたのだ。そしてそれは阿蘇も同じであり。

 阿蘇は曽根崎に向き直ると、おそるおそる尋ねた。

「……兄さん、一杯だけ、いいか?」

「君たちは仕方ないな、まったく……」

 曽根崎は本日三回目となるため息をついたあと、人差し指を立てた。

「一杯だけだぞ」

 わぁっと歓声が上がった。だが景清はこれしきで起きる男ではない。依然変わらず寝室でぐっすり眠っている。

 無論、このあと藤田が自分が圧倒的に不利な野球拳を提案した時も、柊がボトルを一本一人で空けた時も、阿蘇(疲労)がリサイタルを始めても景清は起きてこなかった。




 翌朝。目覚まし時計の二度目のアラームで起きた景清は、目をこすりながら身を起こした。なんだか素敵な夢を見た気がする。まるでみんなでパーティーをしたような……。

 ふと枕元に視線をやる。瞬間、目を見開いた。

「え」

 そこには、大小さまざまな形のプレゼント箱が四つ置かれてあったのだ。さすがにこの年でサンタクロースを素直に信じられるほど純じゃない。ゆえに景清はそれらの贈り主にすぐあたりをつけ、微笑んだ。

(ほんと、優しい人達だな)

 だけどプレゼントを堪能する前に、自分のやりたいことを先に済ませようと考える。リビングへと向かう。静かな室内で、珍しく曽根崎がソファの上で熟睡していた。

 そっと近づく。小さな箱を取り出し、曽根崎の腹の上に置く。

「お誕生日、おめでとうございます」

 景清がそう呟いても、曽根崎は起きる様子がなかった。滅多に見ない寝顔に苦笑し、景清は朝食の用意のためにキッチンへと向かう。


 そこに折り重なった二日酔いの阿蘇、藤田、柊を見つけるまで、あと三秒である。


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