14.石の腕からの手紙
騎士は、瑠璃と乳母の母子をつれ、王さまのお城に帰りました。
乳母は石の腕の母として、また瑠璃はたいせつなともだちとして、王さまに丁重にあつかわれ、お城にすむことになりました。
王さまには騎士から、石の腕からあずかった手紙と、もう一本の腕がわたされました。
「……彼は?」
「おひとりで、旅立たれました」
「……そうか」
王さまは重々しくうなずき、手紙と、ずっしりと重い宝石でできた腕をうけとりました。
手紙をそっと開きます。
『王さまへ。
たいせつな騎士と、剣をかしてくれてありがとう。
たくさんの本をつめこんだ、すばらしい図書館をありがとう。
自由に生きていい、といってくれてありがとう。
ぼくにはたったひとりしかともだちだと思える人はいない。
その人以外にともだちはほしくないけど、君のことはすきだったよ。
お礼のかわりに、ぼくの腕をおいていく。
ありがとう』
王国は、さずけられた石の腕のおかげで、たくさんの宝石を作りだし、その先もゆたかに栄えて、国民はいつまでも平和にくらしました。
乳母にあてた手紙にはこう書かれていました。
『乳母やへ。
ぼくをそだててくれて、ありがとう。
でも、ぼくは乳母やになにもしてあげられなかった。
たいせつなともだちをくれた乳母やをかなしませることしかできなかった。
あなたがしてくれたことをぼくは忘れない。
本という教師をあたえてくれたこと。
いのちにかえてぼくを守ってくれたこと。
感謝してもしきれない。
どうか、瑠璃としあわせに長く生きてください。
ぼくも、同じ世界で生きていきます。
たとえもう会えなくても、ぼくは同じ世界で生きています。
ありがとう、ぼくのお母さん』
乳母は、石の腕からもらった感謝の言葉が書かれた手紙を、生涯たいせつにしてすごしました。とても長生きをして、孫やひ孫に囲まれ、眠るようになくなったときも、その手紙はかたわらにありました。乳母への手紙は、ひつぎにいっしょに入れられました。なくなったときの乳母の顔は、しあわせそうにほほえんでいたそうです。
瑠璃はといえば、めざめてから数年後に、自分を助けてくれた騎士と結婚してしあわせにくらしました。
しかし、子どもが産まれても孫が産まれても、小さなころにともにすごした、石の腕のことを忘れることはありませんでした。
年老いて、南向きのあたたかな窓辺におかれた揺り椅子に腰かけ、ゆらゆら揺らしながら、瑠璃は古い手紙をそっと開きます。
たいせつなともだちで、母の乳をわけた、たったひとりのたいせつな兄弟からの手紙を何度も何度も読み返しました。
『瑠璃へ。
たいせつな、ぼくのたったひとりのともだちへ。
ぼくは、このきらきらした腕をもってうまれたことを、いちどだって、しあわせだと思ったことはなかった。
君にふれることもできず、ふれたら宝石にしてしまうなんて。
とてもとても長いあいだ、たすけてあげられなくて、ごめんなさい。
おわかれの言葉もいえず、ごめんなさい。
せめてものつぐないに、この腕を一本、のこしていきます。
たいせつな、ぼくの、瑠璃。
君に会えたことだけは、しあわせだった。
この腕がなければ、君にはあえなかった。
だから、ぼくは、世界をうらまないでいられた。
それでも、生きていこう、と思った。
君とはいっしょにいられないけれど、いつまでも君のしあわせをねがっているよ。
どうか、しあわせに、瑠璃。
さようなら。君のともだちより』




