色々ありすぎからのラブコールですが
修行開始から4日目の朝、私は朝食を済ませ、図書館に向かう。
じい様との修行は物凄く楽しい。
私の体術が全く通らない程の加速魔法を絶妙にコントロールするじい様は格好よすぎる。
「何をッ! 呆けてる!」
じい様に叱られながらも私は今、物質変化魔法と身体強化魔法を同時に発動する修行の真っ最中、正直言うわ……無理よ!
「こんな複雑な魔法を同時に操るなんて、じい様は化物なの」
「聞こえとるぞ、本来なら戦闘になれば即座に発動しないと命に関わる、必死に覚えろ! よいなカミル」
難しすぎるわ、片方の物質変化魔法は体内の血液や体液を変化させる魔法だし、身体強化魔法に関しては皮膚や毛なんかを鉄のようにする魔法だし、前途多難ってこう言う時の言葉なのかしら……
「集中せいッ! バカもんが!」
私の4日目は泣きたい程、怒られて終了した。
「分からないわ、じい様も少しヒントを出してくれたら良いのに……」
自分の部屋で寝転び考える、別々ならば難なく使えるのに同時に使おうとするとバランスが曖昧になる……
“トントン”
部屋の扉を開き飲み物を運んできたメルリ、私に飲んで欲しいと手渡したのは、蜂蜜とレモンの砂糖漬けを水で割ったレモネードのような飲み物であった。
「あら、美味しそう! 私にも飲ませてください」と、いきなり現れたアララ。
食いしん坊女神が……でも、皆で飲みたいかも?
「メルリ? それ沢山用意できるかしら」
頷くと直ぐに巨大な盥 一杯に作られたレモネードが庭に姿を現した。
修行ばかりで、皆の顔も見てなかったから丁度良いわね。
デンキチ達を呼ぶと夜空を見ながらの乾杯をする。マイヤとレイトもレモネードを酒で割り楽しそうに飲んでいる。
そんな時、カミルはアララのグラスに刺さるストローに目を奪われた。
「へぇ~この世界にもストローってあるのね? まぁ、便利よね」
「あ、これは私が飲みやすいように地球から拝借してきたんです。女神がグイグイ飲むのは、やはり、はしたないですから」
あはは、アララさん、既に5杯飲んでますけど? でもストローか……
「閃いたわ! 見てなさい、じい様にビックリして貰うんだから」
デンキチ達が私の顔を見て不安そうな表情を浮かべる中、私は早々に切り上げ、明日に備えた。
朝になり慌てる私、5日目のその日、寝坊した。
全速力で走る私は図書館の前で鬼の形相になっているじい様を見て固まった。
「じ、じい様……顔が、怖いよ?」
本当に怖いんですけど!
「遅刻厳禁、尻叩き100発じゃ! バカもんが!」
「本気じゃないわよね! こんな女の子の尻を100回も叩いたら腫れちゃうじゃない! じい様のスケベ!」
じい様……本気だ、冗談キツいから、じい様の事だから本当に100発叩く気だ!
私は覚悟を決めたくないが決める事にした。
じい様から10分、攻撃を躱し捕まらなければ、お仕置き免除と言う条件を出し、代わりに10分以内に捕まったらお仕置きプラス、本棚の掃除と言う条件になった。
悪魔の追い駆けっこが始まるとじい様は、やはり身体強化魔法を使い一気に距離を縮めてくる。
予想通りの展開、チャンスは一回だわ。
私を捕まえようと手を伸ばした一瞬に私は身体強化魔法と物質変化魔法を発動する。
物質変化魔法で全身を羽毛のように軽くし、同時に身体強化魔法で軽くなった身体に不可が掛からないように包み込むイメージを膨らませる。
ふふふ、見たか、じい様……名付けて“ストローマジック”! これなら軽くなった身体を完全に操れる!
じい様の手を躱し、一気に逆方向に走り出す。
其処から太陽を背に目眩まし、からの身体強化魔法解除!
風に乗り一気に上昇する。
じい様が地面を蹴り空中に移動したのを確認後、物質変化魔法で身体を鉄の重さに変え、身体強化魔法で全身も鉄の強度に変化させ一気に落下して、じい様から逃れると即座に土石魔法を使い巨大な岩の滑り台を造り出す。
着地する前に通常の重さに戻り滑り台を使い更に逃げる。
じい様が呆れる程の早業であり、気付いたら、じい様が笑っていた。
「いやぁ、参ったわい、まさか1日で二つとも使いこなすか、本当に油断ならん奴じゃ!」
そんな私の服に当たる水滴……え?
「約束じゃ、攻撃はちゃんと当てたからな? 掃除を開始するぞ。カミル!」
「ええええぇぇーーぇぇえええッ!」
じい様が100叩きは免除してくれたのが救いだけど、本棚って……
何処まで続いてるのよぉーー!
掃除開始から2時間……終わりが見えないわ。
私に任されたのは魔法書の棚とそれに対して魔法否定派の本が並ぶ棚だった。
その中には不思議な物が沢山あった。魔法を使わない生活をする人の書いた書物には、風車を使った電気の作り方、他にも、科学の教科書のような内容の物が多くあった。
この“ララリルル”ってそう言えば? 魔法とかあるけど、電気とか無いもんなぁ、御風呂も五右衛門風呂みたいな感じだし。
一通りの棚を拭き終わると既に夕方になっていた。
じい様に頼んで、魔法書と科学の本を借りていく。
「可笑しな奴じゃな? 相反する本を同時に借りてくのか、しかも上級魔法書とは、まぁ、構わんが」
私の借りた本は、風車や水車で電気を作る仮説が書かれた物と上級魔法書の2冊だ。どうしても興味があり、我慢など出来ない。
その日、私は本をひたすら読んだ。メルリが構ってちゃん状態だったので仕方なく隣に座る、すると私を抱き抱えて膝に座らせる。
悔しいが小さい私はメルリの膝が余りに座り心地が良いので許した。
「お嬢様、今日は素直ですね? ハッ! 私の気持ちを受け入れてくれる決心が!」
「ないない。静かにしてメルリ、集中してるの」
あっさりとメルリのラブコールを玉砕する私、今は集中なんだから!




