97.榎崎 朱音⑩〜メンバー決定〜
◼️前回までのあらすじ◼️
ブレバトグランプリのメンバーを賭けたメンバー争奪戦。その勝負は混戦となり最終日まで結果が分からない状態となった。
最終戦、プロテインと闘うこととなったアカネは、闘気を発動させた事で一気に勝負をかける。渾身の一撃で大きなダメージを与えたアカネだったが、相手の体力が僅かに残ってしまう。闘気の効果が切れ絶体絶命となったアカネはあと少しのダメージを与え勝利を掴み取る事が出来るのか?
「ぐ、ぐぬぅ……」
立ち上がったプロテイン先輩は、しかし首へのダメージのためか平衡感覚が保たず足元がおぼついていない状態だ。
(くそっ、あの少し。あとちょっとダメージを与えられたら)
私も必死に残った右足一本で立ち上がる。昨日と違いまだ立っていられるが、はっきり言って立っているのがやっとの状態だ。
「くっ、しまった。朦朧っちまった……」
悔しそうに呟くと、プロテイン先輩は頭を振って早く状態異常を解除しようとする。『ピヨる』とは頭部への衝撃を受けた時に疑似的な脳震盪として平衡感覚の欠落と視野狭窄が発生する状態だ。
(今が最後のチャンスだ)
キッと相手を睨みつけ、追撃を狙う。相手は全身鎧に身を包んでいるため継ぎ目部分でないとダメージが与えられない。しかし、私の今の状態でそこを狙う様な繊細な動きができるか分からない。けど闘気発動状態での攻撃で幾つか鎧が破壊されている部位がある。首裏は真っ正面に立っているため狙う事はできないが、『水穿』で砕いた腹部ならば。
私は前に体重を預けて、倒れ込む様に前のめりになる。体がほとんど動かないけど、倒れ込むぐらいは出来る。そして、前傾姿勢になったら地面を蹴って前に一歩進む事も可能だ。
「スキル発動【縮地】!」
地面を蹴る瞬間にスキルを発動させる。たった一歩の前進だが、スキルの恩恵を受けて弾丸や様な勢いとなり相手に突進することになる。
突進攻撃はプロテイン先輩の得意技だけど――
「私だって捨て身になれば使える。行っけぇーーー!!!」
鎧の破壊されたプロテイン先輩の腹部に向かってスキルの能力を利用して突進する。
ドガッ
凄まじい衝撃と共に身体が弾かれる。
やはり体格差で吹き飛ばす事はできなかったか。だけど、もし少しでもダメージが入っていたら私の勝ちだ。
相手の体力ゲージを見る。しかし、無情にも相手の体力は残ったままであった。
「ぬぁっはっは! 危ない。たまたま腕を前に出していなかったら負けているところだった。
まだ視界は元に戻り切っていないが目の前にいるのがわかっているならば」
プロテイン先輩の上半身が筋肉で盛り上がる。
くそっ、最後の攻撃は、たまたま前に出していた腕にガードされてしまったのか。
「筋、肉ぅ〜」
プロテイン先輩が突進攻撃の態勢となる。
ダメだ。踏ん張りも効かない。避けられない。
こっちは足に踏ん張りが効かずよろけた状態だ。何もする事が――いや、一つだけやれる事がある!
「――『崩穿華』っ!」
全ての力を振り絞って声を張り上げる。
もう身体は動かない。けど、システムの補助にて自動で発動される【スキル】ならば――
私の鍵言にて身体が自動で技を繰り出す。こんな事前コマンド入力みたいな単純な動きでも、視野狭窄が起きている今の相手になら――
ドガアァァァァン!!!!
凄まじい衝撃に私の体は大きく吹き飛ばされて、そこで私は意識を失った。
★
「――ちゃん、アカネちゃん!」
私を呼ぶ声にゆっくりと瞼を開く。
「ルナ? それにSnowも。あれ、私……」
目の前の状況に混乱する。あれ、私何をしていたんだっけ。あ――
「バトルは? バトルはどうなった?!」
慌てて起きあがろうとして、腕に力が入らず崩れ落ちる。地面に頭をぶつけそうになったところをSnowが素早く受け止めてくれた。
「がっはっはっはっは! いい試合だった」
ガシャンガチャンと鎧の擦れる音を立ててプロテイン先輩が近づいてくる。バトルが終わった後なので兜の面が開かれていて歯を見せて笑っていた。
という事は私、敗けたの?
「アカネちゃんの判定勝ちだよ」
不安に思っていると、Snowが結果を教えてくれた。
ただの勝ちではなく、判定ってことは――
「バトルとしては引き分けよ。プロテイン先輩の最後の特攻でアカネちゃんの体力は0になったけど、同時に出していたスキルの【貫衝烈拳】も決まっていて同じタイミングでプロテイン先輩も体力が0になったの」
ルナが説明してくれる。そうか、最後は相打ちになったのか。
「バトルとしては引き分けだったが、今のバトルでの最大威力の攻撃はアカネの回し蹴りだった。流石と言える一撃だった。
俺もまだまだ筋肉が足りないな。あーはっはっはっは!」
プロテイン先輩は豪快に笑う。
「バっカじゃないの。筋肉を増やしても攻撃力が上がるってモンじゃないわよ」
プロテイン先輩の後ろからツッコミを入れたのは、三年のクルミ先輩だ。プロテイン先輩の事を苦手だと言いつつも、こちらの試合の観戦をしていたという事はこっちが気になっていたみたいだ。
「なに見てんのよ。私はこの筋肉ゴリラが三年の中で唯一メンバー落ちするのを最初に笑ってやろうと思っただけよ」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くその仕草が同性の私から見てもすこし可愛いかった。
だけどもこの試合、私が勝ったのでその可能性もあるのだ。三年の先輩からしたら高校最後のチャンスなのに、もしかしたら私がそのチャンスを奪ってしまったのかもしれない。
「がっはっは。そんな顔するなアカネ。俺は全力を出して敗けたんだ。勝者は胸を張れ。
それにミキオが勝てば俺もメンバー入り出来るしな。まぁなる様になるさ」
私の思いを汲み取ってか、プロテイン先輩は豪快に笑う。
「んっ、言ってるそばで、向こうの試合が決まったみたいね。セッつんからメッセが来た」
クルミ先輩が声を上げて、指を宙に舞わす。こっちから見えないが、メニューウィンドウを立ち上げて、もう一つ同時にバトルを行なっていたタッチー先輩vsミキオのバトルを観戦していたセツナ部長からのメッセージを確認する。
「ふ〜ん、なるほどねー」
メッセージに目を通したであろうクルミ先輩はそうやって唸るだけだった。
「おい、クルミ。向こうのバトル結果はどうなったんだ!?」
「ちょ、肩を掴まないでよ。あんた馬鹿力なんだから、痛いっての。このクソゴリラ!」
肩を揺さぶって結果を聞こうとしたプロテイン先輩の手を振り払ってその後頭部を殴りつける。が、兜にその拳が弾かれた。
「って痛っ、くっそアカネは良くこんな防御力お化けに大ダメージ与えられたわね」
殴りつけた手を振りながら、クルミ先輩は涙目になっている。
「で、結果は?」
「ったく、分かったわよ。教えるわ。
向こうの結果はタッチーの勝利だったみたいよ。だから残念ながらあんたもメンバー入り決定ね」
不機嫌そうに伝えるクルミ先輩の言葉に、プロテイン先輩は「おっしゃあー、メンバーに残ったぁー」と豪快にガッツポーズをして見せる。
やはり、最後の大会。メンバー入りしたい気持ちは一入だったようだ。
「ってかさぁ、やっぱ『闘気』って反則じゃない?
あんな硬い鎧を簡単に粉砕するなんてイミワカンナイわ。
向こうの試合も武器破壊されて追い詰められたタッチーが最後に『闘気』を発動させて勝ったみたいよ」
ジロリのクルミ先輩がこちらに視線を向ける。なんだか『闘気』について疑惑を持っているみたいだ。
「『闘気』はクルミ先輩が思っているほど万能なものじゃないですよ。一時的に能力が上がりますが、デメリットも大きく、持続させるのも難しいです。
先程のバトルも、柄にもなくプロテイン先輩を挑発したのもその為です。もしプロテイン先輩がクルミ先輩の様に挑発には簡単に乗らない知略的な相手だったら敗けていたのは私でした」
クルミ先輩にそう言葉を返して、立ち上がろうと試みたけど、力が入らずバランスを崩してまたしてもSnowに支えてもらうこととなった。
「ふーん。なるほどね。『闘気』について少し知る事ができて良かったわ。
取り敢えず、アカネとプロテイン。二人ともメンバー入りおめでとうって言っておくわ」
クルミ先輩が祝福の言葉をくれる。
「けど、メンバーに残れたからって、満足しないことね。あんたはタイプ的に私と重なるのだから、私に何かあった時に代役となるのはあんたなんだから。
筋肉馬鹿と闘っただけでそんな状態になるなんてまだまだね。県大会が始まるまでに私のレギュラーの座を危うくさせるぐらい強くなりなさい。あなたからの挑戦ならいつでも受けてあげるわ」
ふん、と鼻を鳴らして背を向けた。気難しそうに見えるけど、面倒見のいい良い先輩なのだ。今の言葉も棘がある様だが、先輩なりの叱咤激励なのだろう。
私は離れていくクルミ先輩の背中に「ありがとうございます」と言葉を返した。
こうして、ブレバトグランプリのメンバーを賭けた争奪戦は私とタッチー先輩、そしてプロテイン先輩が勝率にて勝ち取ることとなったのであった。




