94.榎崎 朱音⑦〜vsタッチー〜
◼️前回までのあらすじ◼️
ブレバトグランプリのメンバー選抜選。
アカネは現在全勝中のタッチーとの対戦となった。
バトル開始早々に新技にてタッチーの防具を破壊することに成功したアカネは、このまま勝利を掴み取ることができるのだろうか⁉︎
私はブーメランを構えて、ふぅーと細く息を吐き出す。
仕切り直しだ。互いにまだダメージは受けていない。しかし相手は防具が破壊され、防具での防御ができない状態となっている。
「うむ、一撃で鉄甲を破壊した技は見事だが、我の得意とするのは回避からのカウンターだ。我に取っては大きなビハインドにはならんぞ?」
どんな攻撃にも対応できる様にゆらゆらと上半身を揺らしながらタッチー先輩が声をかけてくる。
「そう、ですかね?」
私は武器を振りかぶる。モーションが似ているので投擲かスキルか相手は分からないはずだ。
「でやぁぁぁっ!」
私は気合の声と共に武器を投擲モードに変形させて振り抜く。が、投擲はしない。フェイントだ。
相手が私の行動が投擲だと思った様で、想定外の動きで一瞬硬直する。私はその隙をついて【縮地】にて距離を詰める。
「くっ」
相手は慌てて接近戦に備えて構えるが、私はそれについても裏を掻く。【縮地】をすぐさまキャンセルし、瞬間だけ加速した状態で武器を投擲する。
「なっ、複数のフェイントを交えての攻撃かっ」
慌てて防御しようとするが、鉄甲がないことに気づき、慌てて横っ飛びで回避する。多段ヒット判定があるブーメランを鉄甲なしで防御するのは危険と判断したのだろう。
私はその動きを読んで、間合いを詰めていた。
「防御の選択肢がなくなるだけで行動は大きく制限されるんですよ!」
そう告げて、拳を叩き込む。体勢が崩れているため回避できず、タッチー先輩が武器でガードする。
ガキィンと鉄甲で覆われた拳と剣のぶつかる金属音が響く。
「そして、体勢を崩させてしまえばいつもの回避行動は出来ない」
間髪入れずに左右の拳の連打を放つ。タッチー先輩は必死に剣にて防御するが、素早さではこちらが上だ。手数で上回ったこちらの攻撃が相手の肩口にヒットする。
「痛っ……」
初撃判定が入り、通常よりも大きく体力が削られる。さらに――
ドガガガガガ………!
「ぐあっ」
想定していなかった、背後からのダメージにタッチー先輩が苦悶の声を上げる。
先程投擲して回避されたブーメランが戻ってきて背中に命中したのだ。
よし、このまま畳み掛ける!
「必殺『崩穿華』!」
鍵言をトリガーにスキル【貫衝烈拳】が発動する。
私の繰り出せる技の中で最大の威力を誇る貫通攻撃だ。背後からのダメージで仰け反っているタッチー先輩には回避不能なはずなのだが
「スキル【空間転移】!」
ギリギリのところで、タッチー先輩がスキルを発動させて攻撃を回避した。
「くぅっ…… 防具を破壊されたのがここまで影響するとは」
転移先を予測して振り返ると、肩で息をしているタッチー先輩の姿があった。相手の体力は半分を切っており、体力ゲージが黄色に変化している。
まだまだ。このまま押し切る。
私は【武具帰還】にて手元にブーメランを呼び戻し、それを振りかぶる。
「防具一つ壊されるだけで、ここまで窮地に立たされるとは。温存したかったのだが、ここで奥の手を出すしかあるまい……」
タッチー先輩も何かを仕掛けてくる様だ。剣を前に翳し、両目を閉じた。
「何をするのか分かりませんが、一気に決めに行きます。
はぁっ!」
相手が目を閉じているのも構わずブーメランを投擲する。そして更に【縮地】にて追撃をかける。このバトルの最初に見せた必勝の戦法だ。
「スキル発動【知覚鋭敏】!」
タッチー先輩は、スキルを発動させるとゆっくりと目を開いた。
使用したスキルはスキルスロットを二つ使う制限解除系のものだ。【知覚鋭敏】は知覚情報の制限が解除されるのだ。多くの情報を感知できる様になる。その反面、攻撃力が低下するというデメリットもあるスキルだ。
制限解除系のスキルは筋力や俊敏の制限を解除するスキルはよく見るのだが、知覚の制限解除についてはあまり人気のないものだ。
なぜこのスキルを使用したか疑問に思ったが、それを考えるのは後回しにする。
投擲したブーメランが間近に迫っている今、俊敏の制限解除ならば回避も可能だったが、知覚の制限解除ならば回避は不能だ。
『雪中嘩』で一気に勝負をつける。
ブーメランが接触する瞬間に合わせて拳を繰り出そうとしたその瞬間、目の前で想定外なことが起きる。
バシュン!
一瞬フラッシュが焚かれたかのような特殊なエフェクトと大きな効果音が発生し、ブーメランが弾き飛ばされたのだ。
「我が『剣士』なのを忘れたか?」
タッチー先輩の声。それと同時に今発動したスキルである【会心防御】の文字が目の前に踊る。
それは完璧なタイミングに武器にて防御した時に相手の攻撃を弾くことができる職業『剣士』のみが使える固有スキルだ。
そのスキルが発動したことによって多段ヒット判定がキャンセルされ、ブーメランが弾き飛ばされたのだ。
知覚の制限解除はこれを狙っていたのか。しかし――
「まだ私の攻撃は終わりではないわ!
はぁぁぁっ!」
相手は剣を振り抜いた状態だ。武器での防御は不能なところに、【縮地】にて加速した速度を乗せた拳を叩き込む。
しかし――
ドフッ!!
「かはっ――」
腹部に鈍痛が走る。
「回避とカウンターは我の得意とするところだ」
タッチー先輩の言葉に、私は攻撃を回避されカウンターにて膝蹴りをくらったことに気づく。
まさか、私の攻撃も知覚鋭敏の効果にて感知したのか……
「かはっ…… くっ」
腹部へのダメージで上手く息ができない。堪らず後ろへ数歩蹈鞴を踏む。
まずい。意識を飛ばしちゃダメだ。攻撃が来る。
必死に顔を上げると、タッチー先輩は剣での攻撃態勢になっていた。
あの技は剣の軌道が不規則に変化するのだ、変化前をスキルにて打ち落とさなければ――
「スキル発――
っ!!」
鍵言を口にしようとした瞬間、電気が走る様な衝撃と全身を刺すような圧力を受け、硬直してしまう。
ザシュッ――
反応が遅れたため、モロに斬撃を受けてしまう。
「ぐあっ……」
更にタッチー先輩は回し蹴りを繰り出す。
Snowと何度も対戦しているのでこんな格闘技など簡単に捌けるはずなのだが――
相手からの圧力の影響で身体が上手く動かない。くそっ、動けっ!!!
必死に身体を動かして両腕の鉄甲で防御する。が――
ドゴォォッ!!!
凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、地面を削るように転がる。蹴りでのダメージは無かったが、地面に落ちた衝撃がダメージ判定され体力が減少する。
「く、まさか、ここで『闘気』を使ってくるなんて……」
何とか起き上がりながら、目の前に立つタッチー先輩に目を向ける。
タッチー先輩は迸る様な『闘気』を全身に纏わせている。
「さすがだな。『闘気』を知っているか。
我も狙っては発動させることはできぬが、この状態となれば天下無双。
初めて発動させた時の集中状態に近い【知覚鋭敏】状態の時に発動することが多いので、可能性に賭けてスキルを使用したのだが、良いタイミングで発動出来た。
さぁ、ここからは我の反撃の時間だ」
闘気を纏ったタッチー先輩が地面を蹴り、距離を詰めてくる。ただそれだけでビリビリと全身の肌が震える。
くそっ、動け、私の身体。いうことを聞け! 私は――
「負けたく、ないっ!」
心からの叫びと共に、身体の中で何かが弾ける。
「『蛇咬刃』!」
間合いに入ったタッチー先輩が剣を振るう。
「【神速拳打】!」
必死にスキルを発動させる。左手の拳がシステムの補助を借りて、斬撃を打ち落とそうと自動的に繰り出される。
くんっと剣の軌道が変わる。
知覚鋭敏の効果にて私の動きを先読みしたのか、通常よりも早く剣の軌道が変わり拳を躱して刃が私を襲う。
集中力が極限に達したのか、全ての動きがゆっくりと感じられる。
ダメだ、このままじゃ攻撃を喰らってしまう。右手でも【神速拳打】が打てれば――
ガキィン!!
気づいた瞬間、右の拳がタッチー先輩の剣を弾いていた。
「なっ――」
タッチー先輩が驚きの表情を浮かべている。
無意識でスキルを発動させたのか? いや、鍵言機動でスキルを登録しているので無意識であっても言葉を発せずにスキルが実行されることはない。
私は悟る――これは私自身が繰り出したのだ。
何だか分からないが、全身が温かな光に包まれており、今ならば何でも出来そうな気がする。
私は重心を落とし拳を握り込むと、全身を包む光がその拳に集まってくる。
そうこの感覚だ。
いつもスキルにて感じていたものを、そのまま拳に乗せて打ち出す。
タッチー先輩は必死に防御を試みるが無駄だ。この技は貫通攻撃なのだ。
拳が当たった瞬間、拳に集めていた力を一気に解放する。【貫衝烈拳】もしくは『崩穿華』と呼ばれた必殺技だ。
「ぐおおおおおおおっ!!!!!」
タッチー先輩は決死の叫びでダメージに耐えるが、ガリガリと地面を削って足元に轍が出来る。
今までに感じたことのない会心の手応えであったが、相手も『闘気』を集中させて必死に防御したため体力を削り切ることができなかった。
「だけど――」
相手の体力はあと少し、次の一撃で決める。
とどめの一撃を繰り出そうと一歩踏み出した瞬間、ガクンと力が抜けて地面に崩れ落ちる。
「えっ、なんで――」
何が起きたか分からず、気の抜けた様な声が出る。
「それは気力切れの状態だ。
急に『闘気』を発動させたから驚いたが、まだ使いこなせていない様だな」
私の疑問に答えるかの様なタッチー先輩の声。
そうか、先程の万能感は『闘気』を発動させたからだったのか。
もう全身に力が入らない。必死に動こうとするが立ち上がることすらできない。折角、初めて『闘気』を発動できたのに……
「あー、悔しいな。私、もう闘えません」
正直に告げると、「くっくっく」とタッチー先輩独特の古風な笑い声が聞こえた。
「実は、我も同じだ。
先程の防御で気力を使い果たしてしまった様だ……」
ドサリと倒れる音が聞こえた。
「この勝負は体力が多く残っているアカネの勝ちだ。
我は潔く降参する」
その言葉と共に、私の目の前に『Winner』の文字が踊るのであった。
本来は数行程度でサラッと終わらせる予定だったアカネvsタッチー戦ですが、それじゃあまりにも味気ないという事でバトルに肉付けしたらかなり激しいバトルになってしまいましたがいかがでしたでしょうか?
100話までにメンバーは決定させたいと思っていますので、是非とも応援よろしくお願いします。




