91.榎崎 朱音④~新しいスキル~
◼️前回までのあらすじ◼️
カエデ先輩の忠告を受けて、強がりをやめた朱音は、友人である真雪に教えを乞うのであった。
※今回も朱音からの視点です。
□お詫びと訂正□
すみません。前々回のミキオとのバトルですが、スキルを纏めていたら6つスキルを使っちゃってました。
ですので、この話の投稿と併せて前々回の話を訂正しました。
前のバトルでスキル【属性纏衣】は使用していなかったテイで読んでいただけるとと思います。
目の前に一匹の白熊がいる。
バトルフィールドは『平原』、障害物のない広いフィールドだ。
「約束通り、本気でお願いね……」
私の言葉に目の前に立つ白熊『くまたろう』がこくりと頷く。「くまたろう」の中身は真雪だ。
部活終わりに真雪にお願いして、その日の夜(帰宅後)に特訓に付き合ってもらう約束をしたのだ。
真雪の本アバターは『Snow』なのだけど、それだとSnowのフレンドにバトルした事の通知が行ってしまうので、部員に内緒で特訓したかった私はお願いしてこの格好になってもらった。
この格好だとSnowとしてのバトル通知がフレンドに通知されないため、フレンドが観戦しに来ることもないのだ。バトル通知は設定しないと送られないのだが、Snowは人気者のため多くのブレバトが通知設定しているのだ。
それでもバトル中のプレイヤー一覧を確認されれば「くまたろう」の情報が確認できるため、「くまたろう」のバトル観戦目当てのギャラリーが来る可能性があるのだが、それはそれで仕方ない。
「それじゃあ、お願いします」
私はバトル前の挨拶をすると、同様に「くまたろう」も挨拶する。
そしてバトル開始までのカウントダウンが始まる。その間にSnowからのアドバイスで入れ替えたスキルセットを確認する。
元々のスキルセットは
【縮地】
【長距離投擲】
【飛燕脚】
【貫衝烈拳】
【爆裂打撃】
であった。
真雪曰く、予備動作があり攻撃予測がしやすいスキルが並んでいるため相手に対処されやすい欠点があるとの事だった。その代わりに勧められたのは予測が難しいスキルだった。
真雪に勧められたスキルで構成した今のスキルセットは
【縮地】
【神速拳打】
【斬波衝】
【空蝉】
【貫衝烈拳】
である。
実をいうと【貫衝烈拳】も不要と言われたのだけど、その技だけは私の我儘で残した。真雪に憧れて入れたスキルなので、その気持ちと感謝を忘れないためにも残しておきたいスキルだったからである。
頭の中でスキルの整理をしているうちにバトル開始の合図となった。
ズドン――
地面を蹴る衝撃音とともに、一気に「くまたろう」が距離を詰めてくる。
「くっ、【神速拳打】!」
そんな「くまたろう」を目掛けて新技の【神速拳打】を放つ。が、その攻撃は空を切る。
「違う。折角の高速攻撃なのに先出ししたら意味ない」
間近から真雪の声が聞こえる――と、同時に「くまたろう」の掌打が腹部に炸裂し、後方に吹き飛ばされる。
「ぐはっ――」
腹部の痛みに声を吐き出しながらなんとか受け身を取ろうとするが、そんな私に影が落ちる。慌てて視線を上げると、なんと「くまたろう」が吹き飛ばされた私を追って飛び上がっていたのだ。
追撃だ。しまった、このまま防御しても地面に叩きつけられる。
「今の初撃も【空蝉】で回避できたよ」
そう呟いて「くまたろう」は空中で一回転し蹴りを叩きつけてくる。
「くっ、スキル【空蝉】っ!!」
慌ててスキルを発動する。視点が切り替わって上空に身体が移動している。
【空蝉】は身代わりを出現させるとともに、本体は前方10メートル先に空間転移するスキルだ。仰向けに倒れる瞬間に使用したため、上空へと移動したのだ。
眼下では私の代わりに「くまたろう」の攻撃を受けて地面に叩きつけられ砕け散る丸太の姿があった。初めて使ったスキルだが、攻撃を回避した上に空間転移で相手の背後に出れる便利なスキルだ。
回し蹴りを放った後の「くまたろう」は無防備である。絶好の好機――
私は右手に装備したブーメランを「くまたろう」に向けて投げ放つ。が、
「甘いよ」
こちらの攻撃を読んでいたのか「くまたろう」はすぐさまこちらに向き直り、流れるような腕捌きで飛来したブーメランを捌いて見せた。高速回転するブーメランをいとも容易く軌道を変えてみせるのはまさに神業である。
そして、重力によって落下する私に対して、回転の勢いを乗せた回し蹴りを放つ。
「くううっ……」
今度はなんとか鉄甲で防御をしたが、蹴りの勢いに弾き飛ばされ地面を転がる。
くっ、やっぱり強い……けど
「相手はアドバイスをくれるくらいの余裕はあるみたいね……」
私は先程攻撃を受けた腹部をさすりながら立ち上がる。「くまたろう」はクイクイと指を動かして「攻撃をして来い」と挑発のポーズを見せる。
「ふ…… 中身が真雪だって知らなかったらカチンと来ているところね」
不敵に笑って見せると、職業の固定スキル【武具帰還】にてブーメランを手元に戻す。
「なら遠慮なく行くよ」
私はブーメランを打撃モードに変更すると振り被る。
「スキル発動【斬波衝】、【斬波衝】、【斬波衝】!」
新たに追加したスキルを発動させる。
本来なら斬撃武器用のスキルなのだが、打撃武器でも威力は低下するが使用可能なのだ。連続発動の最大数である三回を連続で発動させ、さらにブーメランを上空に投げ放つ。
その時に私は気付いた。このスキルの発動動作と投擲の動作が酷似しているのだ。これならスキルと投擲攻撃、相手にとっては防御手段として一瞬の迷わすことができる。同じ中距離攻撃だとしても衝撃波であるスキルと、物理攻撃である投擲攻撃では性質が違うのだ。もし同じ衝撃波を撃ち出すスキルで相殺されたとしても投擲攻撃を織り交ぜれば衝撃波を貫通させ攻撃を届かせることが可能なのだ。投擲士としては武器攻撃と同じ中距離攻撃スキルは不要と思っていたが思いがけない発見をすることが出来た。
「まさか、このことに気付かせるために攻撃を促したの? 全く底知れない子ね」
感想を漏らしながらも私は追撃を仕掛ける。スキル【縮地】を発動させて先ほど放った衝撃波を追うように「くまたろう」との距離を詰める。
相手は両手の鉄甲を使って私が放った衝撃波を左右にいなす。だがそれは想定内だ。ヒュンヒュンヒュンと風を切って先ほど投げ放たブーメランが大きく弧を描いて「くまたろう」を背後から襲う。それに合わせて私は正面からスキル【貫衝烈拳】を繰り出す。
しかし――
「ふっ!」
ドン!
「うぐっ」
ぐんと腰を落としてスキルによる自動動作で拳を繰り出そうしてた瞬間、「くまたろう」の呼気と共に繰り出された拳が肩口に炸裂する。超高速で「くまたろう」が軽拳打を打ち出したのだ。ダメージは少ないが、その衝撃にスキルが中断させられる。
「これが高速攻撃の有効な使い方だよ」
そう言葉を残して「くまたろう」が目の前から消える。その代わりに自らの武器であるブーメランが目の前に迫る。
「くそっ、なんて動きよ」
自らの武器なので当たってもダメージ判定は無いのだが、自らの反応速度に任せて強引に体を動かしてその武器を受け止める。これで何とか武器で反撃が出来――
ぞくり……
全身に悪寒が走る。背後からとんでもない闘気が私を襲ったのだ。
「真陰熊流格闘術・奥義『崩穿華』!」
背後に回り込まれてからの「くまたろう」の必殺技だ。防御不能でもあるその技を喰らったら大ダメージは必至だ。
くそっ、私だって簡単に敗けるわけにはいかないんだからっ!
「スキル発動【空蝉】――」
必死にスキルを発動させようとするが――
「残念。そっちのスキルじゃない」
ズガガガガガガガン!!!
くまたろうの必殺技にて凄まじい衝撃が全身を駆け巡る。大ダメージどころではない、一気に体力の半分が削られ、私は大きく吹き飛ばされ、地面に転がる。
「ぐあぁっ、くっ、なんて威力なのよ」
ダメージの衝撃に息を切らせながら、私は再度立ち上がる。追撃はなかったようだ。
くっ、はぁ、はぁ……
今の一撃で大量ゲージは赤となり、膝がガクガクと震えている。
相手は追撃をせずに、攻撃して来いとまたしても挑発のポーズをしてくる。
「くそっ、せめて一撃でも、ダメージを与えてやるわ」
私はぐっと武器を握りしめて、再度攻撃を仕掛けるため気合いの声と共に地面を蹴るのであった。
◆
「くうぅぅ…… やっぱりSnowは強すぎだよ……」
バトルが終了して、グローバルエリア――今回はバトルをお願いするためにSnowの拠点としている神里町エリアに来ている――に戻るとへたり込んで嘆き節を零す。
結果は惨敗だった。
「ああ、ごめん、アカネちゃん」
装備を「くまくまスーツ」からいつもの「武闘着」に変更したSnowが慌てて声を掛けてくるのを「いや、今の言葉は気にしなくていいよ。Snowを責めてるわけじゃないから」と遮る。
「むしろ誉め言葉だと受け取って。
で、どうだったかな今のバトル。最後は惜しかったんだけど、頬を拳が掠めたのが精一杯だったわ……」
そう助言を仰ぐと、Snowは色々とアドバイスをくれた。
「うん。いい感じだった。スキルは使いこなせているから、あとはスキルの使い所を覚えれば、格段に良くなると思うよ。
お勧めしたスキルの使いどころなんだけど――」
そう言って、スキルの使いどころを細かく教えてくれた。
【神速拳打】については、高速の拳打を繰り出すスキルのため先制技だと思われがちだが、カウンターで使用する方が効率が良いとの事だった。
先ほどのバトルで私の【貫衝烈拳】の発動を潰した様に、後出しで発動させて相手の態勢を崩せれば『型どおりに発動するスキル』については無効化することができるのだという。実際に喰らった身としては、ダメージが少ないけどスキルを強制的にキャンセルさせられたあの攻撃は厄介だということが身に染みて分かった。
つづいて【空蝉】についてだけど、これは身代わりと空間転移の2つが同時に行える便利なスキルなので相手の意表を突くために敢えて攻撃を喰らってスキルを発動させるのもありだと教えてくれた。ちなみに先ほどのバトルで2度目の発動に失敗したのは待機時間中だったからだと教えてくれた。便利なスキルである反面、再度使用できるようになるまでの時間が長いという欠点もあると教えてくれた。
「あの場面では背後からの攻撃だと気づいていたなら【空蝉】ではなくて、【縮地】を使って前へ高速移動すれば回避できたはずだよ」
との事だ。うーむ、なるほどと私は唸りながらその言葉を聞いた。
【斬波衝】については、私がバトル中に気付いた通りだった。
「色々教えてくれてありがとう」
アドバイスを聞き終わると、私は素直にお礼を伝えた。
「気にしないで。むしろ私にできることがあったらいつでも力になるから、頼ってくれると嬉しいな。現実だとずっと朱音ちゃんに頼りっぱなしだから、せめてゲームの中では『頼れるお友達』でいたいな、なんて思ってるんだ」
にはは、と笑うSnowを私は愛おしくなって抱きしめた。
「ほえっ、アカネちゃん」
「馬鹿だね。現実だって貴女は頼れる友達だよ」
そう伝えると、Snowは嬉しそうに「えっ、あの、私、そうなのかな……」と不安そうに聞いてくるので、もう一度強く抱きしめて「そうだよ」と答えた。
「色々教えてもらったら、もうこんな時間だね。Snowはもう寝る時間かな?」
抱きしめていたSnowの身体を離すと、ちょっと照れ臭くなってそう聞いてみる。
「あ、ほんとだ。少し眠いけど、もしアカネちゃんがまだ練習するなら――」
「ダメだよ、無理しちゃ。Snowは身体が弱いんだからちゃんと寝なくちゃ。
私が練習を続けてたら無理させちゃうかもだから、私もここで終わりにするよ」
本当はもう少し練習したかったのだけど、Snowの事を考えたらここで切り上げるべきだろう。
「それじゃ、また明日だね」
「うん」
笑顔で手を振って、私達は同時にゲームをログアウトした。
◆
実を言うと、その後にやっぱり動き足りなかった私は台所まで行って水分補給した後、再度ゲームにログインして明け方まで練習してしまったのであった。
そして、翌日の授業中に居眠りしてしまい先生に叱られたのは言うまでもない……




