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90.榎崎 朱音③〜友達〜

◼️前回までのあらすじ◼️

ブレバトグランプリのメンバー争い。

候補者5人で残り3枠を争う総当たり戦であるため、大事な初戦だったのだが、アカネは惜しくもそのバトルで敗北してしまったのであった。

「敗け、た……」


 仰向けのまま、私は呆然と呟く。


 ブレバトグランプリのメンバー争奪戦。その大切な初戦を落としてしまったのだ。

 これでメンバー争いは更に厳しくなる……


 バトルが終わり、感想戦モードとなったので観戦していた部員たちの声が聞こえる。敗戦のショックでその声が全く耳に入ってこない。目に映る仮想空間の空をただ見つめることしかできなかった。


「――アカネ」


 そんな私の視線を遮るように覗き込んできたのは、対戦相手であったミキオだ。その顔を見て、悔しさが再度込み上げてくる。


「大丈夫か、立てるか?」


 なかなか立ち上がらない私を心配してミキオが手を差し伸べてくる。

 本当は悔しくて、悔しくて仕方ない。差し伸べられた手を払ってしまいたいという衝動に駆られる、が


「ええ、大丈夫」


 悔しさが渦巻くその感情を噛み殺して、笑みを見せてミキオの手を取って立ち上がる。


「いい試合だった。最後の賭けが上手くいってなかったら俺の負けだった……」


 先程の試合を振り返って、ミキオが感想を告げる。

 最後の賭けとは二枚目の楯を囮として、投げ捨てた武器をスキルにて遠隔操作して攻撃した事だろう。全く予想していなかった攻撃に冷静さを失って一気に逆転されてしまった。

 あれが勝負の分かれ目だったというのは私も分かっている。


 感想戦での暗黙のルールで、敗北した者の心情を慮って先に勝者が感想を告げるという事になっている。

 敗者はその後に感想を返すか、感想を拒否することも出来る。本当は悔しくて拒否したい気分であったが、それはダメだと自らを律する。


「こっちこそいい試合をありがとう。せめてソードブレイカーの攻撃を急所の位置を避けた部位で受けていればまだ勝負は分からなかったかもだけど、今回はやられたよ」


 なんとかそう言葉を返したけど、悔しさで握り込んだ手が震えていた。ミキオはそれに気づいたのか「次の試合もあるから、詳細な感想戦は省こう。バトル終了としていいか?」とバトル終了を提案してきた。そして、私はその提案を了承した。



「アカネちゃん」


 バトルが終了したことで、パブリックスペースに戻った私に声がかけられた。感想戦時ももしかしたら声をかけてくれていたのかもしれないけど気づく事が出来なかった。こんなんじゃダメだと、心を切り替えて声のした方へ振り返る。

 そこには、ルナとSnow。心配そうにこちらを見るクラスメイトの姿があった。


「なにそんな暗い顔してんのよ。今回は敗けちゃったけど、これでメンバー入りが途絶えたワケじゃないし」


 なんとか笑顔を作って陽気に応える。本当は悔しくて悔しくて仕方ないのだが、それを表に出すのは私らしくない。


「そ、そうだよね。次から全部勝てば、まだメンバー入りのチャンスがあるよ」


「うん。アカネちゃんなら大丈夫。絶対に勝って、メンバー入り出来るよ」


 ルナもSnowも頷きながら言葉を返してくれる。私の言葉に安心したようだ。二人とも私がメンバー入りすることを信じてくれているみたいだ。


「本当にそうか?」


 背後からかけたれた声に驚いて振り返る。


「アタシの見立てだと、今の一戦を落としたのはかなりの痛手だと思うがな」


 そう声をかけてきたのは、ショートヘアで目つきの鋭い一つ上の先輩――カエデ先輩だった。


「なっ」


「そんなこと――」


 私の代わりにルナとSnowが反論しようとするが、「そんな事ないと言い切れるのか?」と鋭い目で視線を向けられて言葉を詰まらせる。


「すまんな。別にアカネを貶めるために言っているわけではないんだ。むしろアンタを応援しているから言っている。

 部長が部員全員が観戦するようにしてくれて、感想戦では他の部員からの感想も聞けるように環境を整えてくれたのに、バトルメンバー同士の簡単な言葉のやり取りだけで感想戦を終わらせてしまったのは勿体無く思ってな。

 まぁ一年同士だから部長の用意してくれた環境に気付かなかったってのもあるが、敢えて苦言を呈するとすれば、負け試合、どんなに悔しかろうがしっかりと感想戦をすべきだ、特に今回みたいに多くの感想が聞ける機会なら尚更だ」


 厳しい物言いだが、心に響く内容であった。


 私もこのままではマズイと心の中では気付いていた。

 ミキオと同じく防御特化で体当たり攻撃を得意とするプロテイン先輩と、Snowに対しても攻撃を当てる事ができるタッチー先輩は強敵だ。残るシヴァ先輩もどの距離間隔でも闘えるため距離を制されると苦戦必死な油断できない相手だ。下手をすればこのまま全敗も有り得る。流石に先輩に強がって見せるなんてできない。


「先輩、注意して頂き、ありがとうございます」


 私は素直に頭を下げる。


「先輩のおっしゃる通り、私は悔しくて振り返りをするチャンスを潰しちゃってました」


 グッと下唇を噛み締めて正直に告げる。


「そんなに感謝される程のものじゃないが、ちゃんとアタシの言葉を受け止めてくれたならそれでいい」


 ふと唇を綻ばせてカエデ先輩が答える。



「まあアカネには振り返りのチャンスを失ったとしても、一つ大きなアドバンテージがあるからな」


「えっ、アドバンテージ?」


 予想外の言葉に聞き返してしまう。


「ああ。アカネには『Snowと友達(クラスメイト)である』って言う大きなアドバンテージがある」


「ほえっ、私?」


 カエデ先輩の言葉に、横にいたSnowが素っ頓狂な声を上げる。


「この部活で一番の観察眼を持っていて、的確なアドバイスが出来るのがSnowだからな。

 だが、アタシからもう一つ苦言を言わせてくれ」


 そこまで言うと、カエデ先輩は私から目を離して真っ直ぐにSnowに視線を向けた。


「相手を傷つけたくないからと適当に話を合わすのは良くないことだ。

 買い被っているだけかもしれないが、Snowならば今のアカネの状況が分かっているはずだし、打破するためのアドバイスがあるのではないのか?

 それがあるのに“ただ単純に話を合わせているだけ”というのは無責任だとは思わないが?」


 その言葉にSnowは「う……」と言葉を詰まらせる。


「思う事があれば正直に話すべきだ。

 信じる事と見殺しにすることは表裏一体だ。もし自分が思った事が間違えていたとしても許しあえるのが友なのだ遠慮する必要はない。アカネも友を頼ることは恥ではないのだ、困っているなら頼るべきだ」


 ズバリと言われたその言葉が胸に刺さる。


「まぁ、偉そうに言ったが、それができずにアタシは冴華が苦しんでいたことに気づかず、すれ違い、大喧嘩をしてしまった事もあった。

 別々の学校になって初めてアイツがアタシを認めてくれていて、同じ学校で日本一を目指していたのを知ったんだ。

 アンタ等はアタシと同じ後悔はするなよ」


 少し寂しげに微笑むと、カエデ先輩は私とSnowの背を叩いいて去っていった。

 去っていく先輩の背中に「ありがとうございます!」とお礼をつける。


「あの、アカネちゃん――」


 私に何かを言おうとしたSnowの言葉を「Snow」と声をかけて遮る。


 ここはこちらから頼らなくちゃいけない。Snowの優しさに甘えていちゃダメなのだ。


「ごめん、私、強がっていた――このままだと残りの試合、勝てる自信がないの。だから、Snow、私にアドバイス下さい!」


 頭を下げる。

 そうだ、私はなにを強がっていたんだ。友達に教えを乞う事は恥ずかしい事じゃないのだ。

 Snowが初心者であっても、もう部員全員が強者だと認めている。どこかで自分が勧めたゲームなんだという余計なプライドがあったのかもしれない。ここで初心者に頭を下げるのなんて恥ずかしいなんて思ってるのは私だけなんだ。だから必ず――


「うん。私でよかったら力になるよ」


 そう答えてくれると、信じていた言葉が返ってくる。


 その言葉に私の心は救われる。


 顔を上げると柔らかな笑顔で頷くSnow(とも)の姿があった。


なかなか筆が進まなかった回なのですが、困った時のクマ子さん(カエデ先輩)でした。


素直にSnowへと助力をお願いしたアカネは、ここから巻き返してメンバー入りが果たせるのでしょうか。

次回もご期待いただければと思います。

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