87.老月 花恵の苦悩
◼️前回までのあらすじ◼️
七夕イベント、津張工業高校のジョーカーのと再会合などいくつもの事柄を経て皆、全高ブレバトグランプリに向けて実力をつけていった。
そんな中、eスポーツ部の顧問である老月 花恵は、登録メンバーを誰にするのか苦悩するのであった。
神里高校の保健指導員である老月 花恵は一枚に纏めたレポート用紙に視線を落として「う〜ん」と唸りながら悩んでいた。
新年度になって一番忙しかった全校生徒の身体測定の数値集計が終わり、教師の仕事としては落ち着いた時期なのだが、悩みの種は顧問として担当しているeスポーツ部についてである。
「大会の出場選手については、先生の判断にお任せします、って言われてもねぇ……」
レポート用紙にはeスポーツ部の部員についての情報が纏められている。
現在、部員は15名。大会へのエントリーとして登録できるのはレギュラーメンバー6名とサブメンバーの4名、あわせて10名となる。
「単純に考えると、3年生5名と2年生4名、さらに1年生から1名選抜すればいい話なんだけど……」
花恵はレポートに記載されている成績表に目をやる。
「一年生も頑張っているし、そう単純に決められないのよね」
ふぅ、と一息ため息をつく。
「さてと、どうしたものかしら」
そう呟いて、再度レポート用紙に視線を落とす。
―――――――――――――――――
〈三年生〉
久遠寺 刹那/アバター名「セツナ」
部長で今大会ではエースになる。レギュラーはほぼ確定。
剣士で武具錬成にて二刀流で闘う戦法をとる。
近距離◎/中距離△/遠距離×
椛谷 慎一郎/アバター名「レッドリーフ」
副部長。解析能力が高く、リーダシップもあるため団体戦で活躍が見込める。
近距離◯/中距離◯/遠距離×
百瀬 胡桃/アバター名「クルミ」
搦め手が得意のいい意味であざとい子。多種多様な戦術で格上相手でも常に対等以上に渡り合えるため安定感は抜群。レギュラー有力候補。
近距離◯/中距離◎/遠距離△
楠木 緋鞠/アバター名「マリー」
支援重視の魔道士。他の魔道士の子と比べても頭ひとつ飛び出ているので団体戦では必要不可欠。レギュラー有力候補。
近距離×/中距離◯/遠距離◎
芦田 彰/アバター名「プロテイン」
防御重視で特攻攻撃を得意とする超近距離ファイター。戦術がハマれば強いが、対策されるとやや厳しいかも
近距離◎/中距離△/遠距離×
〈二年生〉
風祭 楓/アバター名「カエデ」
有望な転校生。近距離タイプの拳闘士。次期エース候補なので今大会はメンバーとして出場してもらい経験を積んでもらいたい。レギュラー有力候補。
近距離◎/中距離△/遠距離×
獅堂 龍馬/アバター名「リョーマ」
被弾率の少ない回避が得意な中・遠距離シューター。
支援職としてはマリーに続いてNo.2の実力。団体戦の要員としてレギュラー有力候補。
近距離×/中距離◯/遠距離◎
柴田 肇/アバター名「シヴァ」
中距離を得意とするシューター。最近戦法を変え、近距離用のサブ武器の扱いが上手くなり近距離も対応できるようになった。全距離に対応できる器用なプレイヤー。サブ要員の有力候補。
近距離◯/中距離◯/遠距離◯
太刀川 達也/アバター名「タッチー」
変則攻撃を得意とする剣士。ここ最近実力を伸ばしている近距離ファイター。初見で対応が難しい初見殺しな戦術は魅力。サブ要員候補。
近距離◎/中距離×/遠距離×
〈一年生〉
榎崎 朱音/アバター名「アカネ」
どの距離でも器用に熟すオールラウンダー。抜群の運動神経で戦闘センスも高いが、レギュラー候補のメンバーと比べるとやや見劣りするかな。全距離対応できるのは魅力。
近距離◯/中距離◯/遠距離△
大鍬 美月/アバター名「ルナ」
パワータイプの近距離アタッカー。他の部員と比べると実力は劣るが、アカネやSnowとの連携攻撃は目を見張るものがある。
近距離◎/中距離△/遠距離×
幹谷 巌/アバター名「ミキオ」
盾を2枚使う防御重視のタンク。武器破壊を主眼にしたスキルを固めており、近距離タイプの相手を封殺することも出来る魅力的な立ち回りをする。近距離タイプが多い現環境では秘密兵器としてサブ要員とするのもありかもしれない。
近距離◎/中距離△/遠距離×
根岸 央磨/アバター名「オーマ」
命中重視の中距離シューター。調子がいい時は百発百中と言っていいほどの精度で命中させるが、調子にムラがあるのが難点。
近距離×/中距離◎/遠距離◯
葉山 しのぶ/アバター名「シノ」
可愛さ重視の装備をしている支援職。他の支援職メンバーと比べるとやや実力が劣る。ミキオとの連携が得意。
近距離×/中距離◯/遠距離◯
柊木 真雪/アバター名「Snow」
新入部員。とんでもない実力者だけど、体力に難あり。体調管理ができれば文句なしのレギュラー候補。せめてサブメンバーには入れたい。
近距離◎/中距離◯/遠距離◯
―――――――――――――――
「う〜ん、やっぱりネックになるのは柊木さんよね……
素人の私の目から見てもこの子は特別、絶対にレギュラーに入れたいわよね」
トントンとペンで柊木さんの名前を叩きながら天井を仰ぐ。
因みに◎は突出して強い距離、◯は多くの対抗手段がある距離、△は対処可能だが苦手の距離、×は対処不能の距離を意味している。
セオリー的には近・中・遠距離全てを網羅できる3名で団体メンバーを組み、その中から近距離が得意な選手を個人戦に配置すると言うものだ。
レギュラーメンバーが6人なので、3名一組で闘う団体戦の2戦にて全メンバーが出ることとなるので、団体戦の組み合わせを軸にメンバーを考えることとなるのだが……
「Snowを団体戦に入れるとしたら、コンビネーションを考えるとしたらいつも一緒に組んでいるアカネ・ルナと一緒となるけど、まだこの二人には荷が重すぎるのよね。個人にのみに出てもらうとすると団体戦にて連戦で出てもらう選手が一人必要になっちゃうか……」
花恵は再度「う〜ん」と唸る。
これでは堂々巡りで結論が出ない。
「去年までは部員がギリギリだったから考えなくて良かったのに、今年は優秀な生徒が二人も新加入したから、逆に嬉しい悩みなんだけど……」
副部長の椛谷くんも「今年は全国を目指せる」と言っていたし、いいメンバーが揃っていることは確かなのだ。
「もうこうなったら私の目から見て強いと思うメンバーを並べて、あとで久遠寺さんと椛谷くんに意見を聞こう」
花恵は「もうどうにでもなーれ」とやけくそになりながら大会参加メンバーを大会申込用紙に書き込んでいく。
「うん。これが私が思ったこの学校の最強メンバーよ」
ちょっと変則的なメンバー編成だけど、これが最適だと頷いてみせる。
花恵が考えた大会メンバーはこうだった。
――――――――――
【団体戦1】
セツナ/クルミ/マリー
【団体戦2】
カエデ/レッドリーフ/マリー
【個人戦1】
セツナ
【個人戦2】
カエデ
【個人戦3】
Snow
【サブメンバー】
リョーマ/ / /
―――――――――――
団体戦の二つに出るマリーには負担となってしまうが、Snowを使うならこれが最善だという結論に落ち着いた。
Snowについてはスポーツ大会にて倒れてしまった事もあったので、出場の機会が一番少ない最終の個人戦3として、代わりに団体戦に連戦する選手については戦略が大きく変わることのない後方支援のマリーとした。
それとサブメンバーだが、後方支援で負担がかかるマリーの代役としてリョーマは確定かなと思うのだが、他のメンバーについてはほぼ横並びなので誰を選出したらいいか悩みどころだ……
「順当にいけば、3年生のプロテインなんだけどね……」
トントンとサブメンバー欄にペン先を当てて考える。そう最後の大会となる3年生は入れてあげたいと思うのが心情だが、他のメンバーも必死なのは見て取れた。
特に一年生のアカネと、二年生のタッチーは今回の大会メンバーにかける思いは人一倍で、ここ最近の部内の成績も良くなって来ている。
「あーもう、ここは何も考えずに残った2・3年生をサブに――」
考えることを放棄して、サブメンバーに名前を書き込もうとしたその時に、保健室のドアを叩くノックの音が響いた。
「お疲れ様です。老月先生。部活前に立ち寄って欲しいって事だったので来たのですが、何でしょう」
扉を開けて入ってきたのは、eスポーツ部の部長の久遠寺さんと椛谷くんだった。
大会メンバーを考えているうちにもう放課後になってしまっていたのだ。本来ならばこの時間までに大会メンバーを決めて意見を聞こうと思っていたのだが、時間が足りなかった様だ。
「それは大会申込用紙ですね。参加メンバーを決めてくれたのですか?」
花恵の手元の紙を見つけて椛谷くんが訪ねる。
「え、ええ。まだレギュラーメンバーしか決められてないのですけど」
「見せてもらう事って出来ますか?」
「ええ、もちろん。あなたたちの意見も聞きたくて呼んだのだから、むしろ見てもらいたいわ」
久遠寺さんの言葉に花恵は申込用紙を差し出して答える。
「どうかしら?」
その紙を見た二人に意見を求める。
「なるほど。Snowを個人戦3に置くのはアリですね。なかなか考えられていると思います」
「ええ、マリーには負担になるかもしれないけど、あの子はああ見えてタフなところがあるからやってくれるはずね」
二人からの感想も上々だった。
「で、空欄になっているサブメンバーについては?」
「う〜ん、そうなのよね。マリーがキツくなった時の代替要因としてリョーマは確定かなと思うんだけど、残り3人について悩んでたの。
一年生でも頑張っている子がいるんだけど、ここはやっぱり残りの2・3年生かしらね?」
椛谷くんの問いに、花恵は今しがた記載しようとしたメンバーについて語る。
「うむ、なるほど……」
「いや、私は年齢でメンバーを決めるのは反対だな」
椛谷くんは納得してくれた様だが、部長の久遠寺さんが反対意見を述べた。
「じゃあ、どうしたらいいかしら?」
「やはり大会出場者は実力の高いメンバーが入るべきだと思います。なので――」
久遠寺さんの提案はこうであった。
現在の部内成績でメンバーに選ばれた者以外の上位5名による大会メンバー争奪戦を行う。
下位の3名には申し訳ないが、これならば落選しても文句はないだろうし。一年生にもメンバー入りの可能性が出てくる。
「なるほどね。それなら恨みっこなしになるわね。
分かったわ。今日の部活でそう伝えましょう。
私は保健室の戸締まりしてから部室に向かうから、二人は先に部活始めててくれるかしら?」
「はい。分かりました」
そう答えて、久遠寺さん達は保健室を後にする。
花恵は部員の成績順位を見て「一年生にも頑張ってもらいたいわね」と呟くのであった。
――成績上位メンバー――
プロテイン(3年生)
シヴァ(2年生)
アカネ(1年生)
タッチー(2年生)
ミキオ(1年生)
――落選メンバー――
オーマ(1年生)
ルナ(1年生)
シノ(1年生)
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ずっと真雪視点でのお話が続いたので、高校のeスポーツ部のメンバーについての復習会でした。
という事で、次回からは真雪の友達である『アカネ』にスポットを当てたお話となる予定です。
応援、よろしくお願いします。




