85.判定
◼️前回までのあらすじ◼️
ブレバトグランプリに向けて、やる気になった真雪。
千葉の強敵であるジョーカーと闘う機会を得た真雪は、本気でバトルに臨む。
激闘の末、勝負の結果は同時ノックアウトとなり『引き分け』となるのであった。
決着がついて、バトルモードが解除されると、闘技場の観客席に観戦していたアバター達の姿が現れ、歓声が上がる。
思っていた以上に観戦していた人が多かったみたいで、今の試合を称賛する幾つもの声が私とジョーカーさんに投げかけられた。
そんな歓声の中、私は「ふぅー」と息を吐きだして、天を仰いだ。
「引き分け、か……」
勝てる試合だった。しかし、最後の不注意にて勝ちを逃し引き分けとなる結果になってしまった。
……やはり、まだまだ精進が足りない。
「やっぱり、勝つのって難しいや」
「フン…… それは嫌味か?」
不意に漏らした言葉に、ジョーカーさんが言葉を返してきた。
「えっ、いや、そんなつもりはなくて」
引き分け、ということはお互い勝ちを逃した事になるのだ。嫌味ってわけではないので慌てて否定すると、ジョーカーさんは「フッ、冗談だ。いい試合だった」と手を差し出してきた。
「は、はい。ありがとうございます」
私はその手を握り返してお礼を言う。
「早速、感想戦としよう。本来ならジックリと闘いについての意見を交えたいところだが、今日は別の目的があるんだったな。ギャラリーを交えて簡単に感想戦するのみとしよう。観客に闘技場への立ち入りを許可するが問題ないよな?」
「はい」
私はこの言葉に頷くと、闘技場に何人もの人達が入ってきた。
「ジョーカーさん、お疲れ様です。結果は残念でしたが、すげぇバトルでした」
「まさか新技を完成させていたなんて、すげぇッス」
複数のアバターがジョーカーさんの周りに集まる。どうやら観戦していたのは殆ど津張工業高校の生徒の様だった。
「正に強者達の試合という内容だった。我が口を挟めるような次元の闘いではなかったが、Snowの闘いは見事の一言だった」
私に声をかけて来たのはタッチー先輩。私の知り合いのアバターはタッチー先輩一人かと思ったのだが、振り返って言葉を返そうとした私の視界にもう一人の知り合いの姿が映った。
「たまたまログインしていて、バトル開始通知が来たので観戦に来たのだが、まさかこんなハイレベルなバトルが見れるとは思っていなかったな」
そう感想を告げたのは、タッチー先輩と同じく一つ上の先輩であるカエデ先輩だった。
ブレバトは指定したフレンドがバトル状態になった事を知らせる機能も設定できるため、その通知を見て観戦に入ったみたいだった。
「ふむ。他の仲間には内緒で特訓をしようと思ったのだが、流石にSnowがバトルをするとなったら見つかってしまったか」
「なるほど、そういうことか。Snowがやる気になったとしても、いきなり千葉の強敵とバトルをするなんて突拍子もないことするなと思ったが、タッチーが機会を作ったのか。
まぁ安心しろ。別にアンタが秘密特訓するところを覗き見するつもりはない。このバトルの感想戦が終わったらソロプレイに戻る予定だ」
二年の先輩二人はそんなやり取りをしていた。
周りの言葉を聞いていると、ジョーカーさんには慰めの言葉を、私の方には祝福の言葉をかけてくれてていた。
「あの、なんだかみんな私が勝ったような口ぶりなのですが、今のバトルって『引き分け』でしたよね?」
何だか私が勝ったかのようなみんなの口振りに、私は違和感を感じて疑問を口にする。いくら津張工業高校の学生たちに私のファンが多いとはいえ、ジョーカーさんをたたえるべきだと思うし。
その言葉を聞いて、周りの「えっ」と驚いた表情を浮かべ、ジョーカーさんの表情も険しくなった。
えっ、私、何か変なこと言っちゃった?
「あー、申し訳ない。こいつに悪気は無いんだ」
状況を理解したカエデ先輩がすぐにフォローに入る。
「津張工業の方々は知らないとは思うのだが、この子って実はブレバトを始めて三か月の初心者なんだ。なので、こいつは本当に『判定』について知らなかったんだ」
カエデ先輩が言葉を続けると、ジョーカーさんだけでなく津張工業高校のみんなも驚愕の表情を浮かべた。「マジっすか」「あの強さで、初心者」「嘘だろ……」とみな驚きの言葉を口にする。
「判定……?」
「ああ。ゲーム上、同時に体力がゼロになった場合『Draw』となるが、全てが一試合勝負となる全高ブレバトグランプリでは引き分けは存在しない。もし『Draw』となっても『判定』となって必ず勝ち負けが決定するんだ。
判定の一番の基準は『有効打』になる。有効打については、一撃でのダメージ量だな。大技を決めればそれだけ判定が有利になるんだ。
先ほどのバトルだと明らかにSnowが放った零距離攻撃が一番の『決定打』であったのは明らかだ。ジョーカーさんも多くの強力な技を繰り出していたが、体力の約七割を一気に削ったあの技はそれを遥かに凌駕していた。
なのでみなは先程の試合はSnowの『判定勝ち』だと思っていたということだ」
カエデ先輩が判定について教えてくれた。
ちなみに『有効打』で決まらない場合は『先制打』を決めた側、それさえも同時だった場合はバトル申請を受け入れた側(ブレバトグランプリではシードに近い側)が判定勝利となるらしいが、基本的には『有効打』で判定が決まるとのことだった。
「くはは。ははははは! そう言うことか。まさかゲームを始めたばかりの初心者とは、本当にSnowには驚かされる。
半年で『闘気』を使いこなしたファイガ・ヒョウガの双子も天才だと思ったが、それを遥かに凌駕する天才が居たとはな。明日にでもあの双子に伝えてやるか……」
険しかった表情を破顔させてジョーカーさんが仲間にそう伝えると、私の前まで歩み寄る。
「外野の感想など後回しだ。早速、さっきのバトルについて感想戦をしよう」
そう話を切り出すと、ジョーカーさんは上機嫌に先程のバトルについて意見交換をした。
私とジョーカーさんとの意見交換はとても有意義だった。周りで見ていたみんなは唖然となりながら私達の話を聞いていた。
その中でもジョーカーさんが新技で使用した闘気を飛ばして攻撃する技について話題が盛り上がった。あの技は師匠の肉球型の衝撃波を飛ばす技に似ていたのでポロリとそのことを口にしただけなのだが
「なるほどな。属性を付与すればもっと予備動作が小さくて技が出せるのか……」
うむ、と唸って私の言葉通りに属性を付与して先ほどの技を再度試してみていた。試し打ちのため威力は出ていなかったが、手応えを掴んだようでジョーカーさんは満足そうに頷いた。
「これはいい事を教えてもらったぜ。
だがいいのか? これで次に闘う時には俺は更に強くなってるぜ」
ジョーカーさんは不敵な笑みを浮かべてこちらに視線を向ける。
あっ、そうか。いつもの感じで意見交換をしちゃったけど、もしお互い全国大会まで勝ち上がったら敵同士になるのか
「おいおい、今気づいたって顔だな……
まぁ、俺もそんな相手高の相手に助言するためにここに来たんだけどな。
厳密に言えば、もう一人の俺が承諾した事だが、な。
なんで敵に塩を送るような事を承諾したのか理解できなかったが、今のやりとりでSnowに恩を売っとくのも悪くないって俺も思ったよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた後、視線をタッチー先輩に向ける。
「で、俺はそのヒョロい奴に助言すりゃいいのか?
Snowが見て欲しいってんなら、見所がある奴なんだろうな」
品定めするかのように目を細めて問いかけらるジョーカーさんに、タッチー先輩はカチカチに緊張してしまう。
優しい方のジョーカーさんと違い、今のジョーカーさんは厳しい眼でタッチー先輩を判定するだろう。けれど、それでもこの機会をタッチー先輩はものにしてくれると信じている。
「先輩。緊張しなくていいですよ。私に三発もクリーンヒットさせたんです。自信を持ってください」
そう伝えると、少し緊張が解けたのか「う、うむ」といつもの変わった口調で頷いた。
「よし、ではこれで俺とSnowのバトルは終いだ。
ドモン、この後すぐにこのタッチーにバトルを申請しろ。二人のバトルを通じて、タッチーの動きを見てやる」
ジョーカーさんは共に着いてきたドモンさんにそう指示する。
「えっ、俺っすか?」
「フン、不満か? 前にSnowに強くなった姿を見てもらいたいって言ってたよな。今がそのチャンスじゃないのか?」
その言葉にめんどくさそうな表情だったドモンさんがやる気を漲らせる。
「なるほど。て事なら、やりますぜ。
もちろん勝っちまってもいいんですよね?」
ニヤリと笑って訊くドモンさんに、ジョーカーさんは「ああ、本気で闘ってもらったほうが判断しやすいからな」と答える。
「よーし、やろうぜ! Snowの姐さん、今の俺の実力を見ていて下さい」
嬉しそうにドモンさんが私に言う。私はそれにどう答えたらいいのか分からず曖昧に微笑みながら「が、がんばってください」とだけ答えた。
「よし、それじゃ俺とSnowのバトルは終了させる」
ジョーカーさんは観戦してくるた人達にそう伝え、私とのバトルを終了させた。
バトルが終わったので、バトルフィールドから神里町のポータルエリアに戻った私達。
「よっしゃ、おいヒョロ男、早速バトルだ!」
「ヒョロ男ではなく、タッチーなのだがな。うむ、挑戦、受けてたとう」
こうして、タッチー先輩vsドモンさんのバトルが始まるのだった。
『判断』についての説明を入れたら文字数が嵩んでしまったので、一旦ここで切りました。
執筆のペースが上がらないので、ペースが上がるバトル回を次回挟もうと思います。
(本当はタッチーvsドモン戦は端折ろうと思っていたのですが、バトル回で執筆の調子を取り戻したいと思います…)




